記憶喪失で美醜反転の世界にやってきて救おうと奮闘する話。(多分)

松井すき焼き

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第43話 ひと時の別れ

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犯罪奴隷の白狐獣人のルナルさんはというと、相変わらず薄暗い部屋で一人ぶつぶつ呟いている。



「ルナルさん、今帰りましたよ」



ルナルのそばに近づくと、ルナルの全身から異臭が匂う。おそらく全身すぐに洗わなくてはと、アルは決意する。



アルがルナルの肩に手を置くと、ルナルは急に弾かれたようにアルに抱き着いてきた。



「うわぁ」



本気でびっくりした。



ルナルはがたがた震えながら、何かをぶつぶつ呟いている。必死でルナルが何を呟いているのか聞き耳を立てても、やはりそれは意味をなさない言葉だった。



 どうしたらよいかわからずアルは、ルナルの背中を、赤ん坊を落ち着かせるように、とんとんし続けた。

とにかくシルカやソルやライの荷造りの準備をしてから、ルナルの全身を洗うことをアルは決意する。



ふと、ソニアさんに相談しないで決めてしまっていいのかな?と思う。一応ジルさんがアルたちの様子をよく見に行くようにするとは言ったらしい。

今ソニアには何も心配せずに休んでほしい。

そのためにも頑張ろうと、子供たちの服を風呂敷で包んだ。



一時ジルさんの家に厄介になることを、アルは子供たちにいう。

時間も時間なだけに、子供たちは完全に目をしょぼしょぼさせて、寝ぼけた状態でいる。

ソル君や、よだれたれているよ。立ったまま寝た状態だな。



「ジルさん、子供たちのことよろしくお願いします」

「任せてください」

凛々しいジルさんは、たいそう綺麗だ。安心して子供たちを任せられる。アルは深くお辞儀。した。

不安そうな顔をしたライが、アルの服の袖をつかんだ。



「んあ?どこ行くんだ?」

本当に寝ぼけていたソルが目を覚ましたらしい。

アルはソルの頭をなでる。

「ジルさんの家に一時行くんだよ。ソニアさんが戻ってくる間だけ」

「え!?」

ソルは金色のくりくりお目目を見開く。

「そうなのか?」

「うん」

「ふぅーん。じゃぁ、行こうぜ」

気軽な様子でソルはジルのもとに行く。皆眼をしょぼしょぼさせている。歩かないで立ち止まったままのアルの方を、けげんな様子でソルは見る。



「あれ?なんでアルはこないんだ?」

「ごめんね。私この家でやることがあるから、残るんだ」

「なんで?」

ソルは目を見開き、途方に暮れた顔になる。

すると、皆の深刻そうな様子に目を覚ましたソルはもじもじとからだをゆすり、口をとがらせて、「アルも来るんだよな?」と、不安そうな顔になる。

ライは無言でアルの服の袖をつかんでいる。シルカにいたっては、アルの足にはなすまいと、抱き着いている。



「ごめんね。この家でやることがあるから、私はこの家に残ります。すぐに会えるから」

「俺、アルが来ないと、嫌だ」



なきわめくシルカとソル君を必死でなだめるアル。ライ君はといえば、アルの服の袖をつかんでいる。



ため息をついたジルは指を鳴らすと、一斉に子供が眠って宙に浮いた。流石エルフだ。すごいなぁと、アルは思う。



ごめんね、みんな。絶対この家を守って迎えに行くからと、アルは泣きそうになるが、泣かないのだ。



「さっさと子供たち迎えに来てくださいよ。いつまでも預かっていられませんから」

「はい。なんとか家が落ち着くまで、子供たちのことお願いします」

「ソニアには私から言っておきますから」

「何から何まですみません」

「お礼は食事でいいです」

「ありがとう、ジルさん」

「ふん」

ジルさんは鼻を鳴らすと、去っていったのだった。



なりふり構わってはいられないと、アルはルナルさんの体がどう反応しようが、せっせとお湯を沸かして体を洗ったのだった。

「アルさん!大変!!」

ハウナさんが走って、アルのもとにやってくる。



「ど、どうかしましたか?」

「部屋が暖かくない」

「え?」



部屋には火石という暖かな不思議な石がおいてあるはずなのだが。

嫌な予感にアルは固まった。



火石というものは熱を発するのは期限があるらしい。部屋は寒々としてしまった。皆で一か所に集まって、暖をとる。

大家さんにはこの家をおいだされそうだし。大変なことが怒涛のように押し寄せてきていた。
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