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第51話 魔女
しおりを挟む店につくと、ジュラはお茶の調合の前に、アルに言う。
「いいかい?私ら茶の調合師は、人を殺すこともできる草も扱うことがある。草の調合のうむで、人が死ぬかもしれないこともある。草の調合は慎重にしなければならないよ」
「はい」
「けれど私らは医者ではない。病気の人を救うことはできない。恨まれて、人に殺されるかもしれない。
私ら茶師は昔から魔女と罵られてきた。処刑されたものだっている。それでもやるかい?」
「はい。家にはお茶必要としている人がいるんで」
「そうか。がんばりな」
「そういえば、ジュラさんはなんで、この人里で茶師になろうとしたんですか?」
そうアルが問いかけると、ジュラは頬を赤くした。
「好きな奴が茶師だったんだよ」
「そうなんですか?」
「そうなんだよ。あいつは女だらけの茶師のなかで、馬鹿にされながらも人を助けたいって、頑張って茶師を目指していた。もう二百年前のことだが」
どこか遠い目になるジュラ。
「ジュラさん」
「まぁ、人間なんてもうとっくにくたばっちまったけどね」
「ジュラさん」
「さぁ、茶づくり始めるよ」
元気よくジュラは腕まくりをして、エプロンをして茶葉を取り出して、アルに説明しだす。
アルは懸命に聞いていた。
「あんた、魔女の才能があるよ」
茶葉を懸命に炒っているアルを見て、ジュラはつぶやく。
「魔女の才能って何ですか?」
「そうさなぁ、魔女は人に魔法のように効く薬を調合した女の意味だよ。勝手によくわからないことをしている女っていうことで、過去散々な目にあってきたんだが。偏見が強くて悪魔と取引したものとか言われてさ。
でもまぁ悪魔と取引したり、神に反逆した人間もそうよばれているがね。
魔女はそもそも薬を調合する達人だったんだ。正確には魔女じゃなくて、茶師の女だね。
あんたの炒るお茶には不思議な魔力というか、気持ちが宿っているのが見える。まるで精霊やら妖精が物に宿っていくのを見ているようだよ」
うっとりとジュラは爬虫類のような瞳を細める。
「へ、へぇー。褒められて嬉しいんですが、ジュラさん、一つ問題があります」
「なんだい?」
「茶葉の種類の名前をまったく覚えられません」
そう、アルは物覚えが悪かった。
そうアルが言うと、ジュラは深いため息をつく。
「仕方がない。私ももう年だ。いつ死ぬかわからんし、茶の製造方法や、種類やらできるだけ書いておいてやるよ。門外不出で、悪用なんぞされたらたまったもんじゃないから、絶対なくすんじゃないよ」
「はい。あの」
「なんだい?」
「いい匂いの茶葉があったんですが、料理とかに使いたいんですが、大丈夫でしょうか?」
「ああ、基本茶葉は無害だからほとんどの茶は、料理に使えるよ」
「そうですか!」
甘い匂いがする茶葉とかで、いろいろデザートもできそうだなと、アルは笑顔になった。
そうこうしてジュラの店から家に帰ることになったのだが、アルは怖くて外に出られなかった。
またあの男たちに会うかもしれないと思うと、身がすくんで歩けない。
強くなろうとしていたのに。
「送っていくよ」
「すみません」
「今日だけだ」
「はい」
「これを持つといい」
そう言って、ジュラは匂い袋を一つアルにくれた。
「これは?」
「獣人が嫌う匂いの草が入っている。全種族の獣人にきくってわけじゃないが、もっときな」
「ありがとう、ジュラさん」
「どういたしましてだね」
ジュラは照れ臭いのか、顔のしわを深めて仏頂面になった。
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