記憶喪失で美醜反転の世界にやってきて救おうと奮闘する話。（多分）

第53話 病室でお眠。

そのまえに、アルはソニアの元に、会いに行く。

ドライフルーツのはちみつ漬けやら、手作りのタオルや着替えやらを持っていく。
病院につくと、なんだかおちつかない。早く早くとアルは浮きだつ心のままに、足早に病院の先生に挨拶をし、看護婦の女性に聞いたソニアの病室へと向かう。
ソニアの病室を病室のドアを叩いて、「ソニアさん、アルですけど」と言って中へ入る。一刻も早くソニアに会いたかった。

「アル」
ソニアがベッドに腰掛けて微笑んでいる。
久々に見るソニアの笑顔だ。その姿を見て心底ほっとして、泣きそうになる。
「ソニアさん」
アルは手を伸ばして、ソニアの手を握る。
なんだかやっと家に帰ってきたような、気分だった。

「なんだか、アルはやつれたな」
「そうですか？ソニアさんは体の方は大丈夫ですか？」
「三日後退院だ」

ソニアの退院三日後までに家を探すことはできるだろうか？なんとか頑張りたいが。
内心アルは焦る。

「良かったです。元気そうで。会いに来るの、遅くなってすみません」
「俺こそ迷惑をかけてすまない。大変だろうに」
「いえ」
なんだか久々に見るソニアに、アルはしみじみする。
アルは屈むと、ベッドに頭を付けた。
おひさまの匂いがした。

「アル？」
ソニアの手が、アルの頭をなでる。
アルは目を閉じた。
ソニアが無事で本当に良かったなと思った。

「絶対私が家を守りますから」
「無理するな。今はこんなだが、俺もいる。ジル達を頼ればいい」
「はい」

そのままアルは眠気に襲われてくる。寝不足がたたったらしい。
何とか目を開けて、ソニアに言う。

「ソニアさん、何着か着替えを持ってきました。下着は新しいのを買ってきました。こちらの袋には寝巻が入っています。あと体にいいかと思って、ドライフルーツを蜂蜜につけたものも持ってきました。この蜂蜜はジルさんが持ってきてくれたんですよ。あとこれは」
「アル」
言い募ろうとしたアルを、ソニアが名前を呼んで止める。
ソニアはアルの腕をつかんで引き寄せ、アルの体を抱え上げて、ベッドの上に寝かせた。

「ソニアさん？」
「少し寝たほうがいい。ひどい顔色をしている」
心配そうなソニアのまなざしがアルのことを見る。

ソニアは静かなまなざしをしている。優しいまなざしだ。久々にそのまなざしを見れて、アルはまたなんだかとてもほっとして、すごい眠気が襲ってくる。だがここで寝てはいけないと、必死で目を開ける。
「でも病室に泊まるわけには」
「少し経ったら起こす」
ソニアはアルの上に布団をかけて、頭をなでた。
「すみ…ません」
アルは寝不足であった。ソニアのお言葉に甘えて、アルは目を閉じた。寝不足であったアルの意識はすぐに途絶えた。

次にアルが目を開けた時には辺りは薄暗く、なぜか病院ではない家の布団の上だった。心配そうな顔で、可愛らしい子供たちがアルのことを見下ろしている。
なんだか疲れていたので、アルはまた目を閉じた。