記憶喪失で美醜反転の世界にやってきて救おうと奮闘する話。（多分）

第54話 寝てる間

病院で寝ているアルを静かに見降ろしているソニアは、人の気配に気づいて顔を上げた。
「ジル」
ソニアたち獣人は人の匂いには敏感だ。すぐに敵かどうか判別できる。
ジルは気まずそうな顔で、病室の陰から出てきた。

何故気まずそうにしているのか、ソニアは首をかしげる。

「アルを起こしたくない。家にこのまま連れて帰ってやってほしい」
そうソニアが言うと、ジルはため息をついて、「貸しいちですよ」と言って、指一つならすと、アルの姿が消える。

ジルは驚異の魔力の持ち主だった。普通時空転移は使えるものはいない。

「アルを襲うなよ」

ソニアの静かな言葉に、ジルは心底驚いて凍り付く。

「な、な、何を言っている？」
「冗談だ」
「不愉快な冗談はやめてください！私がそういうのを嫌っているのを知っているでしょう？」
「すまない」
「まったく」
怒りっぽいエルフはぷんすかしながら病室を出ていこうとする。その後ろ姿にソニアは声をかける。
「ジル、アルのことを見てやってくれ」
「嫌です！！」
はっきり嫌悪感むき出しのジルのその後ろ姿を、ソニアは苦笑いして見送った。


「アルさん！起きて！！」
切羽詰まったハウナの声に、アルは飛び起きた。
目を開けるとそこには、赤ん坊を抱いて鬼の形相をしたハウナの顔があった。
「あれ？今早朝でソニアさんの病院で寝ていたはずでは？」
「ジルとかいうエルフさんが、アルさんを連れ帰ってきたんだよ。」
「なるほど、それで」

アルが病院から帰ってこられたのは、ソニアがジルに頼んでくれて、アルが寝ている間に病院まで魔法で飛ばしてくれたらしい。

「うちの旦那の、夫の行方が分かったんだ！！」
「え」

行方不明中のスリのスノーリーさんの行方が分かったらしかった。