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アルの記憶4
しおりを挟む何度も何度もアルは柳の頭に、鉛筆削りを振り下ろす。
ここで殺さなければ、怖くて怖くて止まらなかった。
柳は悲鳴をあげて、去っていく。
心底ほっとして、アルは号泣した。
「ただいま!」
母さんの声だ。
アルは鼻血を出し、頬を凄まじくはらした状態で、泣いていた。
「アル!?どうしたの?その頬」
驚愕する母さんに、アルは先ほどあったことを、話す。
すると、母さんは無表情の蒼白の顔色になった。
「あ、アル、宮君を殴ったの?」
「母さん」
「すぐに宮君に謝りに行きましょう?」
「え」
呆気にとられるアル。
「お母さん何言ってんの!?」
霞がアルの隣にやってきて、母さんを睨みつける。
アルは帰ってきた霞の姿を見る。霞の首には、深い爪痕のような傷跡が浮かんでいた。
大好きな姉になにかあったのかと、アルはショックを受ける。
「この村で柳の家に逆らったら、生きていけないの!アル早く準備して!」
すごい剣幕の母さんに、アルは逆らうわけにもいかずに、頷いた。アルはちらちら霞の顔を見ながら、家を出た。
霞は泣きそうな顔をした。
霞の背後に、不気味な目がない人の形をしたものがいて、霞の首に爪を立てているのが、アルには見えた。
それからしばらくして、村山神社の楠家から、白い着物と一つの石が送られてきた。それをみたアルの両親は泣き崩れた。
「霞が×××様に選ばれてしまった!」
そうお父さんは顔を覆って、泣いている。
「霞はもう死んだものだと思えって!あんたが柳に逆らわなかったら、こんなことにならなかったのに」
母さんは泣きながら、アルの首元をつかむ。
アルは黙ったままゆすられる。
「あんたなんか生まなければよかった!」
母さんの叫びはもうどうでもよかった。
「父さんも母さんもやめて!どちらにせよ、私はもともと××様に選ばれる運命だったの。アルは何も悪くない」
霞がアルと母親の間に入って、叫んだ。
「姉さん、××様ってなんなの?」
「神様だよ。忘れないで、アルは何にも悪くない」
霞はアルの頭をなでた。
次の日、霞は家に帰ってこなかった。
アルはその日夢を見た。
白装束の姿の霞が、小さな子供たちに囲まれている夢だ。小さな子供たちは目を隠して、霞の方を見ている。
霞は石を両手で持っている。石からは大量の血が流れている。
そこで夢からアルは覚めた。
アルは消えた霞のことや、××様のことを必死で調べる。
××様は祟り神様だ。生贄さえ与えれば、何でも願いをかなえてくれる神様。
とにかく姉を救わねばと、神様の石と白装束を持って、神社へと走り出した。
アルは本殿にいって、両手をついて土下座をして叫んだ。
「×××様!!どうか姉の代わりに、僕を連れて行ってください!!」
すると、本殿の方から白い影が立ち上り、目玉がない人が現れた。
『目を頂戴
髪を頂戴
皮膚を頂戴
手を頂戴
足を頂戴』
目玉がない皮膚が干からびた状態の人が、言った。
「全部僕の全部を差し上げます。その代わり僕の姉の霞を返してください」
そう言って、頭はアルは頭を下げた。
そこからアルの記憶はない。すさまじい苦痛が全身を襲ってきたのを覚えている。
そんなアルは夢を見たのに、アルの本当の名前も、姉の霞の顔をまったく思い出せない。夢の中での姉は、顔は見えないままだった。
何故この異世界に来る羽目になったのかもかも、まったくわからない。
アルは友達がいない。よく学校ではいじめられていたこと、この世界の住人ではないこと。ぽつりぽつりと、ソニアに話した。
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