記憶喪失で美醜反転の世界にやってきて救おうと奮闘する話。（多分）

第75話 夢から覚めて

「ジュラ……さん？」
ぼんやりアルはジュラとソニアの顔を見上げて、そこですべてを思い出して、慌てて起きようとするが、めまいを感じてよろける。
ジュラとソニアが慌てて支えてくれる。

「ここは家ですよね？」
「ああ、そうだよ。あんたえらいことになっちまったね」
ジュラが見たこともない暗い顔をしている。

アルはソニアに伝えなければいけない重要なことを思い出す。

「ソニアさん、毒何とかなるかもしれないです！ジュラさんと話していて、あの、毒の呪いをソニアさんにかけた聖獣に、謝罪すれば毒が解けるかもって！ジュラさんと話していて、あの」
慌ててアルは言い募る。

「アル、落ち着ついてくれ。この狼には私からそのことは話したからね」
「アル、ありがとう。俺は大丈夫だ。俺のことを考えてくれて、ありがとう」
ソニアの手が、アルの頬に触れた。

アルはなんだかすごくつかれていたことに気づき、目から勝手に涙があふれ出てくる。

「アル？」

そんなアルを、ソニアは引き寄せてアルの頭を、胸に抱く。

「私不安になるんです。ソニアさん辛いとか悲しいとか何も言わないで、大丈夫だとかしかいわないから。死ぬかもしれない毒におかされても、平気な顔して仕事もやろうとするし。ソニアさんはもっと自分のことを大事にしてください」
泣き止みたいのに、アルの目からは涙が止まらない。
泣きたくなんかないのに。

「アル。俺はアルや皆がいるだけで、それだけで十分救われている。アルがいるだけで十分助かっている」
ソニアはアルの目から涙をぬぐう。

「両親は俺を見捨てていたから、俺はずっと一人だった。ソルやシルカの面倒も俺が一人で見てきた。俺の両親は子供もろくに抱かない親だったからな。必死だった。この町に逃れてきたときもろくに助けなんてない。醜い獣人の俺への差別はすごかったな。……けど、アルに出会えた。アルは暖かい視線を俺に向けてくれた。アル、お前がいてくれるだけで、俺は嬉しかったんだ」
ソニアはもう一度アルのことを抱きしめた。

「私もソニアさんに出会えてよかったです」

「そのオオカミの毒は私も何とかしてやるから、安心しな。安心してあんたは自分のことを考えな」
そのジュラの言葉に、アルは頷いた。



「それにソニア、あなたには仲間がいること忘れていませんか？」
憮然とした様子のジルが、現れる。

「当たり前だ。お前たち仲間に出会えた幸運もある」

「私もソニアさんの仲間に入れてください！ソニアさんの頼れる仲間になりたいです」
真剣な顔のアル。

「お前たちは俺の大切な仲間だ」
こっくりソニアが頷く。
するとジルは照れ臭そうに、そっぽを向く。
アルは微笑んだ。
相変わらずソニアの狼の尻尾は高速で揺れていた。