記憶喪失で美醜反転の世界にやってきて救おうと奮闘する話。（多分）

第74話 夢の中の少女①

「アル、起きて」
優しい女性の声がする。
「アル！」
アルを呼ぶ女性の声に、アルは目を開けた。

アルの目の前には、髪の長い仮面をかぶった女性の姿があった。



「あの、あなたは？」
ぼんやりアルは、見知らぬ仮面の少女を見た。
アルの頭の中は大混乱である。
よくわからない龍に出会って、目が覚めたら見知らぬ少女に名前を呼ばれている。

「また厄介ね。変な龍の卵を腹の中に入れられちゃうなんて。しかも神龍クラスの龍だなんて、どうすんのこれ？？」
アルの質問に、その仮面の少女は答えない。

「あれ、夢じゃなかったんでしょうか？」
「夢じゃないわね」
こっくり頷く少女に、アルはがっくり項垂れる。

「あなた、まだ魔法がつかえないの？」
風が少女の髪の毛を舞い上げる。
ここは天国なのか、辺りは一面の花畑である。

「はい。知り合いの方に魔法の使い方を教わろうとしているんですけど、このざまで」
アルは自分のお腹を見た。お腹に違和感などは全くないが、体が少し熱を帯びて暑い。
あの龍の来襲は夢のように忘れてしまいたい。
アルが弱いから、好き放題される。アルが弱いと大切なものも守れない。それがなんだか悲しくて、悔しい。

「魔法は思いの力なの。強い想いが魔法になるの」
「ファンタジーですね」
「そうこの世界ではね。あちらの世界では別空間で存在していて、交わらない感じで存在していると思う。多分。そこらへん私も難しくてわからないんだけどね」

少女の言っていることが分からず、アルの目は点になる。
アルがきょとんとしていることに気づいた少女は焦りながら、「ごめん！ごめん！私も説明苦手なんだよねぇー」とのほほんという。

「あの、もしかしてあなたは霞姉さんでしょうか？」
そう目の前の少女は、はっきりと思い出せないアルの双子の美しい姉の面影があるような気がするので、念のために聞く。

すると少女は首を傾げた。
「うぅーん。少し違うな。まぁ、そうでもあるのかな？」と、よくわかないことを少女が言った。

「私のことはイルって呼んで。まぁ、この夢の中の出来事は忘れてもらうけど。私のことは思い出さないほうがいいわ。神様に殺されちゃうから」
また少女、いやイルはよくわからないことを言う。

「イルさん？それはどういう」
「アル、記憶を思い出しちゃったみたいだね。きっと神龍クラスに攻撃されちゃったから、衝撃でかな？アル、記憶思い出してどう？何か変わった？」
「え？」
「忘れていた記憶を思い出して、今までのあなたと違っちゃった？」
「正直、過去の記憶を思い出すのは、自分の限界も思い出してしまったようで、息苦しいです」
アルは俯く。

「そっか」

そうアルは昔の友達もいない、いじめられたり、両親のことを思い出して、自分が過去の引っ込み思案な自分も思い出して、なんだか息が詰まる思いがした。

「大丈夫。過去があるから、今があるのだから。それが望んだ今じゃなくても、きっとどこかへはたどり着けるから」
少女のイルは手を伸ばして、アルの頭をなでた。

「ええ。早く目覚めないと、アル。あなたを呼んでいる人がいるから。………じゃぁね、アル君？」
少女はアルに手を振っている。

そういえば、アルの本当の名前は何だろう？

アルはそのまま花畑の底が抜けて、下に滑り落ちていく。
夢の中で階段から落ちて転落するような感じだ。すさまじい恐怖に、アルは目をつぶる。遠くで、あの漆黒の龍の男の笑い声が聞こえてきた気がした。

「アル！！」
目を覚ますとそこには、赤い龍のジュラがそこにいた。隣にはソニアもいる。
ソニアは真剣な目で、アルのことを見ていた。

「アル！」
「そ、ソニアさん。ジュラさん、ここは？」

「あんたの家だよ」
どこか暗い顔のジュラがそういった。