記憶喪失で美醜反転の世界にやってきて救おうと奮闘する話。（多分）

第二章 正義の裁き、法の女神編 第79話 大事な忘れ物発覚

「先生、僕、お父さんに会いたい！！」
次の瞬間、黒狐の獣人のレオン君が大声で叫んで、泣き出した。

そのレオンの言葉に、アルは血の気が引いた。
いやレオンの父親ジャファールのことは忘れたことはない。刑期を開けたら犯罪奴隷として、ジャファールは売りに出される。犯罪奴隷って廃止したほうがいいとアルは思っているのだが、今はそのことではないと、首を横に振って思考を戻す。
ジャファールのことを、アルは買うつもりだった。だから、アルはいつ刑期をジャファールが出てくるのかチェックして、待っているつもりだったのだが。

そこでアルは愕然とした。
忙しすぎてやっている気になっているのだが、すっかり忘れていた。

「ごめんね！レオン君！すぐにお父さんに会いに行こうね！お父さん必ずレオン君の元に戻ってくるからね」
アルはレオンのことを抱きしめて、頭をなでる。

「アル先生」
クワイエットが、アルの背中をつついて、耳元で囁く。
「アル先生、そういえば、白猫獣人の人がスノーリーさんと話していたよ。その白猫獣人さん、スノーリーさんにアル先生のこと探していたようだった。スノーリーさんがすぐにアル先生はいないって、邪険に追い返していたけど。私悪いと思って、その白猫獣人さんに話しかけたのよね。白猫獣人さん、レオン君のお父さんの刑期がなんか長引いているって言ってた。ごめんなさい。アル先生留守でいつもここ最近いなかったから、言うの遅くなっちゃって」
「いえ。ここ最近私用事で出かけることが多かったですから」
アルに抱き着いて泣き続けているレオンの頭をなでる。
スノーリーさん、やい。来客はきちんと応対してほしい。

どうしたもんか？次から次へと問題がおこってくる。
とにかくクワイエットさんに、レオン君のお父さんの様子を見るように少しの間頼み、アルはソニアの毒をどうにかしようと考えていた。

「アル先生！」
ここ最近アルのことを、アル先生と呼ぶようになったウノリが手を上げる。

「ウノリ君？」
「お父さんと一緒に寝るの嫌だから、アル先生たちと一緒の部屋がいい」

この家は台所をのぞくと、部屋数が三つしかない。その三つの部屋は結構広いから、ぎりぎり今のところ何とかなっているが。
ウノリと父親のスノーリーは、アルたちとは違う部屋で寝ている。

「そっか。赤ちゃん夜泣きしているもんね。ごめんね」
「ううん。そうじゃない。僕、お父さん嫌いだから、一緒の部屋は嫌」
きっぱりはっきり言うウノリ。
気のせいか、周囲の空気が凍り付いたような気がする。
その間、蝙蝠獣人のポアル君はおとなしく座っていることができなかったらしく、けらけら笑いながら走り回っている。
「だめよ！走り回っちゃ！！」慌ててミレイユが、ポアルのことを追いかけている。いい保母さんになりそうではある。

内心アルもスノーリーと同じ部屋は嫌だが。
「こんどお父さんと話してみようね。部屋が嫌なら、別の部屋にしようか？」
「うん」

今度スノーリーと色々ウノリ君のことで話さなければと思うアルなのだった。

その間ポアル君は部屋を走り続けている。

「ポアル君、これなんだ？」
アルはこないだ買っておいた、ガラスのビー玉を見せてみた。
「なに、それ！」
きらきらした目でポアルは、そのガラスのビー玉を見上げる。アルはそのビー玉を地面に転がしてみる。
するとポアルは座ってそのビー玉を追いかけ始める。

ポアル君はおとなしく何かをすることが苦手な性質の子のような気がする。叱ったり、命令で言うことが聞けたらいいが、それが難しい子もいることを、アルは知っている。
どういう教育をしたらいいか、アルはわからない。
ポアルはおとなしくすることができないのか、それともできるがそれが苦痛を伴うのか、どうすればいいのか？
ポアルは何かに集中しているときは、ものすごく集中力があって、その一点をずっとやっている。その長所をなんとか伸ばしつつ、おとなしく座る訓練をした方がいいのか、アルはわからず内心苦悩する。

あまり強引にやりすぎると、ポアルは怯えてその物事に強いストレスを感じるようになってしまう。

とにかくポアルのことをよく見て、よく観察して少しずつ見極めながら、慎重にやっていこうとアルは決めた。