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第81話 自分の無力感
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「腹減った。ご飯くいたい」
兎獣人のジャンが、アルの服の袖を引っ張る。
ジャンの鼻が汚れている。
アルは持ち歩いている手拭いで、ジャンの鼻を拭く。
「今作るからね」
アルは台所に歩き出した。
「そうだ。アル先生!」
ピーノに抱き着かれているクワイエットさんに呼び止められて、アルは立ち止まる。
「最近黒猫獣人さんたち来ていないようだけど、一斉に行方不明になったって噂になっているの知っている?」
「そう、ですか」
なんだかアルは不安になる。うまく黒猫獣人さんたちどこかへ行けるといいなと思う。
アルは別に料理がうまいってわけではない。今日は具だくさんの牛乳らしきスープに、パンとチーズ?を浮かべたものを作ろうと思う。
のどに詰まらせないように、柔らかく煮込む料理をアルはよく作っている。時々揚げ物も作るが。
ピーノのお父さんが持ってきてくれたよくわからない野菜を見る。白い大根のような野菜を手に持ってみる。切ると、その野菜の中は青色である。これには驚く。ナイフで切って一口野菜を食べてみる。
面白いことに、野菜のかぶと大根の中間のような味だった。
アルの脳裏にピーノのお父さんの顔が思い浮かぶ。
ピーノのお父さんは、アルとは目をあまり合わせず野菜をそそくさ置いていった。
アルが避妊をするように言ったからだろう。
余計なお世話だが、子供が多すぎると、このスラムでは保険もないので、子供が餓死するかわからない。だからアルが避妊についていったことは後悔はしていないが……。
アルの脳裏にここではない世界のことが思い浮かぶ。アルは引っ込み思案で、ろくに人づきあいなんてしていなくて、いじめられるばかりで、学校でどうしたらよいのかわかっていなかった。
その時のことを思い出す。
この世界に来ても、それは同じだと思う。人とどう接したらいいのか、どうしたらいいのかわからない。
アルの野菜を切っている手が震えた。
一歩踏み出したい。けれどもやはり怖かった。
もしもアルの元の世界みたいになり、不細工だと罵られたらどうしたらいいのだろう?皆、どう思うのだろう?
スノーリーに関してはどうでもいいが。
スノーリーに関してはどうでもいいと思うことができた。それは進歩なのかもしれないなと、早く夜ご飯を作らねばと、アルは包丁を切る手をただただ進めることにする。
そういえばスノーリーはどこへ行っているのだろう?今日は見かけなかったが。
そんなことを思いながらアルは料理を作っていると、煮込んでいる鍋から匂いがしてくると、強い吐き気にえずいた。
「うう。なんだろう」
いつもは食欲が出てくる匂いも、なんだか気持ち悪い。
「まさかね?」と、アルはなんとなくお腹を押さえた。それになんだかめまいがしてきた。正直子供預かり所と食事処兼任で働いているので、ルナルの介護まで手が回らない。ルナルは相変わらず宙をみながらぶつぶつ呟いている。
ルナルの介護に人を雇わないといけないなとルナルは思う。
そんなことを考えていると、外から「すみません」と子供の澄んだ高い声がかかる。
「はい」
アルは寸胴に作っておいた料理と手作りの木の器をもち、外へとドアを開けて出た。
そこには薄汚れた性別不明の子供二人と、老人の男性が立っていた。
「今日はパンシチューですよ」
アルは激安価格で、外でお腹を減っている人にもご飯を売っていた。売ると言っても大体は払えない人が多いので、無料で配っていた。先着十人くらいにしか配れていないのだが。
アルがこの辺りを歩いていると、死にそうなに路上で座り込んでいた子供二人と、食い逃げしようとした老人の人や路上に座り込んでいる人に、ご飯を無料で配ったのが始まりだった。
皆目を輝かせてシチューを食べている。最初はあまり無料で食事を配布しているのを知られていないので集まるにしても、五人くらいの人が良く食べに来ていた。
しかし今日は外を見るといつもの子供二人と老人を加えて、ニ、三十人並んでいたので、アルは目を丸くした。
全然食料が足りない。
人が殺到してきて、食事はすぐに配り終えてしまった。
「ごめんなさい!十人分くらいしかなくて、今日はもうないです」
アルは声を張り上げる。
「俺はずっと食べてなくて死にそうなんだよ!食事をくれよ!!」
男はそう叫んで、アルの肩を揺さぶる。
どうしようと、アルは焦る。
「何をしている?」
ソニアが部屋から出てくる。
「ソニアさん、食事を配っていたんですが、全然足りなくて。食事を食べれなくて死にそうな人がいて」
「分かった。今日は少し食べ物が残っている」
そういうとソニアは自分の食べる分を差し出す。
「ソニアさん」
自分の考えなしの行動に、アルは項垂れる。
「お前達、食事は一食一ギル(十円)だ。今日はもう食料はない。また明日に出直してくれ!」
ソニアが険しく叫ぶと、人が一人ずつ閑散としていく。中にはその場で布敷いて、座り込んでいる人もいるが。
「なんの騒ぎですか?」
不機嫌そうなエルフのジルが、部屋から出てくる。
「なんでもない。アル、何かあったら俺に相談したほうがいい。そろそろご飯の時間だ」
ソニアが、落ち込んでいる様子のアルの頭に手を置く。アルは頷く。ジルの隣を通り過ぎる瞬間、ジルは低い小声で「考えなし」とつぶやいた。
ずきりとアルの胸が痛んだ。
その後ご飯を皆で食べ終え、アルとソニアとジルとで話し合いになった。ジュラは用事があると帰っていた。
アルはソニアのことを救いたい。とソニアとともに聖獣のもとへと一緒についていく気満々だったのだが、ソニアは一言、「アルは家に残って、子供の面倒を見てくれ」だった。
アルは俯く。
「そうですよね。私どうせ役に立ちませんもんね。魔法も使えないし」
「アル」
何か言いそうなソニア。アルはなんだかその言葉の先を聞きたくなくて、アルは「具合が悪いので部屋に戻ります!」というと、その場から逃げ出した。
「アル!」
後ろからソニアの声が聞こえてきていた。
アルは弱い無力な自分が嫌だった。
レオンのお父さんのジャーファールさんのこともどうにかしなければと、唇をかんだ。
純金か 十万円
金貨 一万円
銀貨 千円
紙幣 百円
一ギル 十円
という設定にしようかなと思ってます。すみません。
兎獣人のジャンが、アルの服の袖を引っ張る。
ジャンの鼻が汚れている。
アルは持ち歩いている手拭いで、ジャンの鼻を拭く。
「今作るからね」
アルは台所に歩き出した。
「そうだ。アル先生!」
ピーノに抱き着かれているクワイエットさんに呼び止められて、アルは立ち止まる。
「最近黒猫獣人さんたち来ていないようだけど、一斉に行方不明になったって噂になっているの知っている?」
「そう、ですか」
なんだかアルは不安になる。うまく黒猫獣人さんたちどこかへ行けるといいなと思う。
アルは別に料理がうまいってわけではない。今日は具だくさんの牛乳らしきスープに、パンとチーズ?を浮かべたものを作ろうと思う。
のどに詰まらせないように、柔らかく煮込む料理をアルはよく作っている。時々揚げ物も作るが。
ピーノのお父さんが持ってきてくれたよくわからない野菜を見る。白い大根のような野菜を手に持ってみる。切ると、その野菜の中は青色である。これには驚く。ナイフで切って一口野菜を食べてみる。
面白いことに、野菜のかぶと大根の中間のような味だった。
アルの脳裏にピーノのお父さんの顔が思い浮かぶ。
ピーノのお父さんは、アルとは目をあまり合わせず野菜をそそくさ置いていった。
アルが避妊をするように言ったからだろう。
余計なお世話だが、子供が多すぎると、このスラムでは保険もないので、子供が餓死するかわからない。だからアルが避妊についていったことは後悔はしていないが……。
アルの脳裏にここではない世界のことが思い浮かぶ。アルは引っ込み思案で、ろくに人づきあいなんてしていなくて、いじめられるばかりで、学校でどうしたらよいのかわかっていなかった。
その時のことを思い出す。
この世界に来ても、それは同じだと思う。人とどう接したらいいのか、どうしたらいいのかわからない。
アルの野菜を切っている手が震えた。
一歩踏み出したい。けれどもやはり怖かった。
もしもアルの元の世界みたいになり、不細工だと罵られたらどうしたらいいのだろう?皆、どう思うのだろう?
スノーリーに関してはどうでもいいが。
スノーリーに関してはどうでもいいと思うことができた。それは進歩なのかもしれないなと、早く夜ご飯を作らねばと、アルは包丁を切る手をただただ進めることにする。
そういえばスノーリーはどこへ行っているのだろう?今日は見かけなかったが。
そんなことを思いながらアルは料理を作っていると、煮込んでいる鍋から匂いがしてくると、強い吐き気にえずいた。
「うう。なんだろう」
いつもは食欲が出てくる匂いも、なんだか気持ち悪い。
「まさかね?」と、アルはなんとなくお腹を押さえた。それになんだかめまいがしてきた。正直子供預かり所と食事処兼任で働いているので、ルナルの介護まで手が回らない。ルナルは相変わらず宙をみながらぶつぶつ呟いている。
ルナルの介護に人を雇わないといけないなとルナルは思う。
そんなことを考えていると、外から「すみません」と子供の澄んだ高い声がかかる。
「はい」
アルは寸胴に作っておいた料理と手作りの木の器をもち、外へとドアを開けて出た。
そこには薄汚れた性別不明の子供二人と、老人の男性が立っていた。
「今日はパンシチューですよ」
アルは激安価格で、外でお腹を減っている人にもご飯を売っていた。売ると言っても大体は払えない人が多いので、無料で配っていた。先着十人くらいにしか配れていないのだが。
アルがこの辺りを歩いていると、死にそうなに路上で座り込んでいた子供二人と、食い逃げしようとした老人の人や路上に座り込んでいる人に、ご飯を無料で配ったのが始まりだった。
皆目を輝かせてシチューを食べている。最初はあまり無料で食事を配布しているのを知られていないので集まるにしても、五人くらいの人が良く食べに来ていた。
しかし今日は外を見るといつもの子供二人と老人を加えて、ニ、三十人並んでいたので、アルは目を丸くした。
全然食料が足りない。
人が殺到してきて、食事はすぐに配り終えてしまった。
「ごめんなさい!十人分くらいしかなくて、今日はもうないです」
アルは声を張り上げる。
「俺はずっと食べてなくて死にそうなんだよ!食事をくれよ!!」
男はそう叫んで、アルの肩を揺さぶる。
どうしようと、アルは焦る。
「何をしている?」
ソニアが部屋から出てくる。
「ソニアさん、食事を配っていたんですが、全然足りなくて。食事を食べれなくて死にそうな人がいて」
「分かった。今日は少し食べ物が残っている」
そういうとソニアは自分の食べる分を差し出す。
「ソニアさん」
自分の考えなしの行動に、アルは項垂れる。
「お前達、食事は一食一ギル(十円)だ。今日はもう食料はない。また明日に出直してくれ!」
ソニアが険しく叫ぶと、人が一人ずつ閑散としていく。中にはその場で布敷いて、座り込んでいる人もいるが。
「なんの騒ぎですか?」
不機嫌そうなエルフのジルが、部屋から出てくる。
「なんでもない。アル、何かあったら俺に相談したほうがいい。そろそろご飯の時間だ」
ソニアが、落ち込んでいる様子のアルの頭に手を置く。アルは頷く。ジルの隣を通り過ぎる瞬間、ジルは低い小声で「考えなし」とつぶやいた。
ずきりとアルの胸が痛んだ。
その後ご飯を皆で食べ終え、アルとソニアとジルとで話し合いになった。ジュラは用事があると帰っていた。
アルはソニアのことを救いたい。とソニアとともに聖獣のもとへと一緒についていく気満々だったのだが、ソニアは一言、「アルは家に残って、子供の面倒を見てくれ」だった。
アルは俯く。
「そうですよね。私どうせ役に立ちませんもんね。魔法も使えないし」
「アル」
何か言いそうなソニア。アルはなんだかその言葉の先を聞きたくなくて、アルは「具合が悪いので部屋に戻ります!」というと、その場から逃げ出した。
「アル!」
後ろからソニアの声が聞こえてきていた。
アルは弱い無力な自分が嫌だった。
レオンのお父さんのジャーファールさんのこともどうにかしなければと、唇をかんだ。
純金か 十万円
金貨 一万円
銀貨 千円
紙幣 百円
一ギル 十円
という設定にしようかなと思ってます。すみません。
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