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第82話 魔法のこと
しおりを挟む「アル」
部屋に響く、ソニアの静かな声。
それに答えず、寝たふりをするアル。
ソニアはため息をつくと、アルの側にやってくる気配がする。
「アル、あまり頑張りすぎるな。アルができることをすればいい。俺もいる。
前にも言ったが、俺はもう十分助けられている。ありがとう、アル。おやすみ」
ソニアはそう言い終えるとポンっと、アルを叩き、部屋から出ていった。
「……ソニアさんの、馬鹿」
アルはかっこよくソニアたちを助けたかった。
冒険者みたい活躍して、魔王を倒すような勇者みたいな感じで。けれでもそんな魔法すら使えない。
自分には無理なことはわかっている。
駄々をこねても、仕方がない。アルは吐息をつき、起き上がった。
その時戸が叩かれる。誰かやってきたらしい。
アルは顔を引き締める。あまり情けない顔は見られたくない。
「はい?」
「お邪魔します」
不機嫌そうなジルが入ってくる。
「ジルさん?」
「魔法を使いたいと言っていたので、ソニアに言われて仕方なく、あなたに魔法を教えに来ました」
「魔法を!?」
「あなたの腕に私の奴隷の印があるはずです。そこに私の魔力を流します。それで魔法を使う動力を感じてみてください」
「魔力?」
首をかしげるアル。
「手を」
ジルはアルの腕をつかんで、アルの手の平に、自らの手を重ねた。
すると、ジルから暖かな空気のようなものが、アルの体に押し入ってきて体全身に走る。アルのお腹の中にある龍の卵が、なんだか震えているような気がした。
確かに自分の体の底になにか風のようなものが息巻いている感じがする。
「これが魔力?魔法ですか?」
「ええ。そして念じて、放出するのです。合図としてなにか声を出すと、魔法を放ちやすくなります。
精霊や魔王に力を借りて、魔法を使う方法もあります。それには詠唱が必要だったり、失敗すると、力を借りる精霊や魔王が暴れ出して、死んだりすることもあります。
とにかく強く念じてみてください。どうしたいのか」
「念じる?」
「火を出したいなら、火と唱えるのも有効です。魔力を帯びる古代の語で唱えるとより強力になったりします。精霊魔法の場合、精霊の言葉を発しなければなりませんが」
「火!!」
と唱えるが、まったくなにもでない。
「こんなところで火を出して、火事になったらどうするんですか!!」
ジルに頭を叩かれるアル。
「いた!すみません!つい」
「ついじゃありません。とにかく早く仮面で、あなたのいやらしい顔を隠してください。見たくありません」
忌々しい。
ジルはアルの顔を見ないで言う。
いやらしい顔って、ひどいなとアルは思った。
アルからしてみれば銀に近い金色の美しい髪と白皙の美貌のジルの方が、そうだと思うアルなのだった。
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