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第84話 夜の子供預かり所と、約束。
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アルの子供預かり所では、基本子供の寝かしつけはあまりしていない。寝る前に子供たちの体をお湯で拭くのと歯磨きと、ブラッシングとマッサージをしている。
知らない空間だと子供も大人も落ち着かないので、子供たちが寝る場所ではお話しや子守歌とかをしている。
本当は癒し系音楽とか流したいのだけれど、そういう音楽を流すプレイヤーみたいのが、あまりないらしく高価なので、ジルに頼んで魔力を石にこめてもらい、その石を、水を入れた木の筒にいれて、水から空気がぽこぽこあふれ出すような、水が流れる川のような音を流している。
たまにそれでも寝れない子は、抱っこして体をトントンと軽くたたくしかない。……それが寝かしつけなのかもしれないが。
エルフとか歌がうまいとか聞いたことがある。子供たちにもいい音楽を聞かせてあげたいなと、アルは思う。
子供の教育にもいいだろう。
今度エルフであるジルに、音楽についてきいてみようと考える。
この世界の魔法の砂時計を見ると、そろそろ時間だ。アルは台所に行って、お湯を桶に用意して、布を何枚か浮かべて子供の部屋に向かう。
「ピーノちゃん。この布で、体ふきふきしようね」
アルはお湯で濡らした布を、ピーノに渡す。
兎獣人の足は、人間よりも白いふさふさの毛でおおわれている。
「はぁーい!」
手を上げて、ピーノは口をとがらせながら真剣に、足を拭き始める。
「ジャン君も。この布で体拭こうね」
ピーノの兄のジャンに布を渡すと、ジャンは「めんどくせぇから嫌だ」とそっぽを向く。
「だめでしょ?」
そういってアルはお湯につけた布で、ジャンの頭をふいて、ジャンに布を手渡す。
「綺麗にしないと、体かゆくなっちゃうから、足だけでもいいから拭こうね」
そういうと、なんとかジャンは足を拭き始めた。
可愛いなと、足を拭く兎獣人二人を見守るアルだった。
アルが子供へブラシをやり始めると、髪をアルのブラシでとかされているジャンは、「気持ち良すぎる。やばい。これ!?ななんだ、これ!?ふぇええー」とお風呂に入りたてのような息を漏らす。
隣ではクワイエットが、狐獣人のレオンの体を拭いている。
「クワイエットさん、今日はシズクちゃん来てないんですね」
いつもクワイエットと一緒に娘のシズクも一緒に、ここにきているのだが。
「ああシズクはね、彼が家で見てくれるっていうから、今日は家にいるの」
にこにこ幸せそうに、クワイエットが言う。
「クワイエットさん、今日はもういいですよ。シズクちゃん家で待っていると思いますし」
「いいの。いいの。彼に任せたから」
そう明るくクワイエットは言うが、クワイエットの彼氏とはいえ、見ず知らずの男性と二人きりでシズクは心細く思っていると思う。
「シズクちゃん、新しい人に慣れるまで、時間がかかると思います。今日は送っていきますので、クワイエットさんは、家に帰った方がいいと思います。
アルはきっぱりはっきり言った。
クワイエットさんは眉を吊り上げると、ため息をつくといった。
「分かった。でも送ってくれるのは玄関まででいい。だってどう考えても、アル先生の方が誘拐されちゃうもん」
「これを持っていってください。エルフのジルさんにもらっている護符です。悪意がある人を遠ざけることができるそうです」
アルは一枚の紙を、クワイエットに渡す。
「いいの?」
「はい。私は護符をもう一枚持っていますので」
アルは頷いて、クワイエットを見送る。
「アル先生、気づいているかどうかわからないけど、最近辺りでアル先生のことを聞きまわっている人間の連中がいるのを知っている?」
クワイエットは玄関先で、アルを振り返っていった。
「いえ」
「気を付けたほうがいいかも。じゃぁね、アル先生。また明日」
クワイエットはにっこりアルの方に、手を振ると去っていった。
それからスノーリーは酔って夜中に帰ってきて、妻のハウナの名前を呼びながらアルを押し倒して口づけてきた。生臭い酒臭い濃厚なキスに、アルはスノーリーにびんたした。
散々なアルのキス遍歴である。
どうやら、スノーリーの赤ん坊の面倒は、ソニアが見ていたらしい。たまには気分転換で飲みに行くのもいいかもしれないが、もう少しアルの仕事を手伝ってから、飲みに行ってほしいと、アルはぷんすか怒った。
やっとこさ仕事をひと段落し、ソニアのいるはずの部屋に向かうと、ソニアはひどくせき込んで血を吐いていた。
慌ててアルは、ソニアの元へと走り寄る。
「ソニアさん、大丈夫ですか!」
「大丈夫だ」
真顔でいうソニア。
そういえばソニアさんはいつも真顔だったなと、思いながら、ソニアの背をアルはさする。
結構大量の血をソニアは吐いている。
「今解毒のお茶持ってきます!」とアルは叫んで慌てて台所に向かった。
なんとかソニアは咳き込みながらお茶を飲み込み、落ち着いた。
「大丈夫ですか?」
「ああ。大丈夫だ。すまない、アル」
「謝らないでください」
アルは悲しくなって俯く。必死で涙をこらえ、ソニアの顔を見る。
「アル?」
「私は足手まといかもしれない。けれども私ができることをやります。これを」
アルはソニアに、一つのビー玉を差し出した。
「これは?」
不思議そうにソニアは、アルのことを見る。
「このビー玉に、ソニアさんが無事に戻ってくるように、願いを込めました。魔法がつかえないかもしれないけれど、弁当だって明日作りますし、だから、その、必ず無事に戻ってきてください。約束です」
「ありがとう、アル」
ソニアが優しく微笑んだ。
いつかアルも冒険に。そう思ったのだった。
知らない空間だと子供も大人も落ち着かないので、子供たちが寝る場所ではお話しや子守歌とかをしている。
本当は癒し系音楽とか流したいのだけれど、そういう音楽を流すプレイヤーみたいのが、あまりないらしく高価なので、ジルに頼んで魔力を石にこめてもらい、その石を、水を入れた木の筒にいれて、水から空気がぽこぽこあふれ出すような、水が流れる川のような音を流している。
たまにそれでも寝れない子は、抱っこして体をトントンと軽くたたくしかない。……それが寝かしつけなのかもしれないが。
エルフとか歌がうまいとか聞いたことがある。子供たちにもいい音楽を聞かせてあげたいなと、アルは思う。
子供の教育にもいいだろう。
今度エルフであるジルに、音楽についてきいてみようと考える。
この世界の魔法の砂時計を見ると、そろそろ時間だ。アルは台所に行って、お湯を桶に用意して、布を何枚か浮かべて子供の部屋に向かう。
「ピーノちゃん。この布で、体ふきふきしようね」
アルはお湯で濡らした布を、ピーノに渡す。
兎獣人の足は、人間よりも白いふさふさの毛でおおわれている。
「はぁーい!」
手を上げて、ピーノは口をとがらせながら真剣に、足を拭き始める。
「ジャン君も。この布で体拭こうね」
ピーノの兄のジャンに布を渡すと、ジャンは「めんどくせぇから嫌だ」とそっぽを向く。
「だめでしょ?」
そういってアルはお湯につけた布で、ジャンの頭をふいて、ジャンに布を手渡す。
「綺麗にしないと、体かゆくなっちゃうから、足だけでもいいから拭こうね」
そういうと、なんとかジャンは足を拭き始めた。
可愛いなと、足を拭く兎獣人二人を見守るアルだった。
アルが子供へブラシをやり始めると、髪をアルのブラシでとかされているジャンは、「気持ち良すぎる。やばい。これ!?ななんだ、これ!?ふぇええー」とお風呂に入りたてのような息を漏らす。
隣ではクワイエットが、狐獣人のレオンの体を拭いている。
「クワイエットさん、今日はシズクちゃん来てないんですね」
いつもクワイエットと一緒に娘のシズクも一緒に、ここにきているのだが。
「ああシズクはね、彼が家で見てくれるっていうから、今日は家にいるの」
にこにこ幸せそうに、クワイエットが言う。
「クワイエットさん、今日はもういいですよ。シズクちゃん家で待っていると思いますし」
「いいの。いいの。彼に任せたから」
そう明るくクワイエットは言うが、クワイエットの彼氏とはいえ、見ず知らずの男性と二人きりでシズクは心細く思っていると思う。
「シズクちゃん、新しい人に慣れるまで、時間がかかると思います。今日は送っていきますので、クワイエットさんは、家に帰った方がいいと思います。
アルはきっぱりはっきり言った。
クワイエットさんは眉を吊り上げると、ため息をつくといった。
「分かった。でも送ってくれるのは玄関まででいい。だってどう考えても、アル先生の方が誘拐されちゃうもん」
「これを持っていってください。エルフのジルさんにもらっている護符です。悪意がある人を遠ざけることができるそうです」
アルは一枚の紙を、クワイエットに渡す。
「いいの?」
「はい。私は護符をもう一枚持っていますので」
アルは頷いて、クワイエットを見送る。
「アル先生、気づいているかどうかわからないけど、最近辺りでアル先生のことを聞きまわっている人間の連中がいるのを知っている?」
クワイエットは玄関先で、アルを振り返っていった。
「いえ」
「気を付けたほうがいいかも。じゃぁね、アル先生。また明日」
クワイエットはにっこりアルの方に、手を振ると去っていった。
それからスノーリーは酔って夜中に帰ってきて、妻のハウナの名前を呼びながらアルを押し倒して口づけてきた。生臭い酒臭い濃厚なキスに、アルはスノーリーにびんたした。
散々なアルのキス遍歴である。
どうやら、スノーリーの赤ん坊の面倒は、ソニアが見ていたらしい。たまには気分転換で飲みに行くのもいいかもしれないが、もう少しアルの仕事を手伝ってから、飲みに行ってほしいと、アルはぷんすか怒った。
やっとこさ仕事をひと段落し、ソニアのいるはずの部屋に向かうと、ソニアはひどくせき込んで血を吐いていた。
慌ててアルは、ソニアの元へと走り寄る。
「ソニアさん、大丈夫ですか!」
「大丈夫だ」
真顔でいうソニア。
そういえばソニアさんはいつも真顔だったなと、思いながら、ソニアの背をアルはさする。
結構大量の血をソニアは吐いている。
「今解毒のお茶持ってきます!」とアルは叫んで慌てて台所に向かった。
なんとかソニアは咳き込みながらお茶を飲み込み、落ち着いた。
「大丈夫ですか?」
「ああ。大丈夫だ。すまない、アル」
「謝らないでください」
アルは悲しくなって俯く。必死で涙をこらえ、ソニアの顔を見る。
「アル?」
「私は足手まといかもしれない。けれども私ができることをやります。これを」
アルはソニアに、一つのビー玉を差し出した。
「これは?」
不思議そうにソニアは、アルのことを見る。
「このビー玉に、ソニアさんが無事に戻ってくるように、願いを込めました。魔法がつかえないかもしれないけれど、弁当だって明日作りますし、だから、その、必ず無事に戻ってきてください。約束です」
「ありがとう、アル」
ソニアが優しく微笑んだ。
いつかアルも冒険に。そう思ったのだった。
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