記憶喪失で美醜反転の世界にやってきて救おうと奮闘する話。（多分）

第8５話 夜の騒音と朝の見送り

その夜アルはソニアを寝かしつけ、赤ん坊や子供の面倒を見ながら眠りについた。
そんなアルをしり目に、犬獣人のライは一人孤独を感じていた。

最近ライはアルとあまり話していない。正直言ってライはとても寂しかった。
こっそり眠っているアルに近づいて、ライは匂いを嗅ぎながら寂しさを紛らわし、アルの隣の布団に入り込んだ。

「何してるんだよ？」
不機嫌な様子の狼獣人のソルがやってきた。
「寝ている。」
「まぁ、そうだな。見てわかる。だがそこは俺の場所だ。どけ」
「断る」
きっぱりはっきりライは言う。
にらみ合うソルとライ。
それからソルはライにとびかかり、取っ組み合いのけんかになった。

ものすごい物音に、流石に部屋にいた全員は起きた。
「こら！何してる？もう夜遅いんだから寝ますよ！」
目をこすりながら眠そうにしているアルに、ソルとライは怒られる。

「うるさい」
眠いのに起こされて、不機嫌そうなウノリ。
「ばっかじゃねぇの」と、ジャンに馬鹿にしたように、ソルとライは見る。
ソルは牙をむいて、ジャンを見る。
兎獣人のジャンは本能で恐れて、飛び上がる。

「こら、喧嘩しないの！」
アルはジャンの前に出て、ソルを睨む。ついでにジャンの頭をなでておく。
そして寝ぼけているアルは何故か、ソルの顎下をなでる。
初めて顎下をなでられたソルは、「わはーん」とわけわからん声を出して、解けた心地になる。

空いていたはずのアルの左側の寝床は、ちゃっかりピーノとレオンがアルに引っ付いて眠りについた。

アルは気づいていないのか気づいているのかしれないが、アルによくなでてもらえる隣の寝床はいつも争奪戦が繰り広げられていた。
アルは夜泣きする赤ん坊や子供の様子を見ながら、なんとか少しずつ睡眠をとる。

翌日スノーリーにアルのお茶が飲みたいと頼まれて、アルは二日酔いに効果があるというお茶を、スノーリーに出す。
それからアルは朝ごはんと弁当作りに励んだ。

そして、アルはソニアを見送る。

「いってくる」
いつもの穏やかな顔のソニア。
その周囲には冒険のソニアの仲間がいる。

「ソニアさん、気を付けて」
笑顔で見送ろうと、アルは微笑んだ。

「アル」
ソニアは何を思ったのか、アルの両肩に手を置いて引き寄せ、アルの頭にソニア自身の鼻を（犬のように）すり合わせ、次にアルの肩を軽くかんだ。
「え」
「行ってくる」
ソニアはそういって、背中を向けて歩いていく。

え
アルは衝撃を受けてその場で固まった。

（注意）狼の親愛として、がぶりと軽く相手を噛んだりするらしいです。

そのことをアルが知るのはまだ先のことだった。ただただ肩をがぶりと噛まれた衝撃で、アルの頭は混乱する。いや、過去ソニアに噛まれたことは、結構あったような気がするが。

「わけわかりません。奥が深いな、獣人の方」
ぽつりとアルはつぶやいた。
とはいえ、よく考えてみると弟のソルも鼻をアルにこすりつけることはあったような気がする。

きっと無事にソニアは帰ってくるはずだ。
泣きそうになるのを、アルはこらえる。
アルはいまできることをしようと、たまりにたまった洗濯ものと仕事へと向かう。

こうしてアルはソニアを見送った。