記憶喪失で美醜反転の世界にやってきて救おうと奮闘する話。(多分)

松井すき焼き

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幕間  教会の夢魔1

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同一でいたいもの。個体でいたいもの。相変わらず人は異物の排除には、苛烈だ。カタリ神父は、鏡で人間に擬態している己の姿を見て、ほくそ笑む。

人は夢魔でいる人物が、神父など許すはずもないだろう。カタリの正体がばれたら、どうなるかは想像に難くない。
この教会には神という存在がいるが、カタリも相当強い力を持つ夢魔だ。
長いこと神父としてこの教会で働いているうちに、カタリは放つ魔力はなぜだか悪魔系統ではなく、聖者系統にかわってしまった

中身は夢魔としてばりばりにやっていたころと変わっていないのだけれどなと、カタリは首をかしげる。


「カタリ君」
今日のカタリの男娼の客である、貴族のヒヨルド丈伯が教会の一室のソファーでくつろいでいる。
カタリは微笑みながら、ワインの入ったグラスをヒヨルドに手渡す。
ヒヨルドの手はカタリの腰に置かれる。
カタリは笑みを深くし、魅了の目を光らせヒヨルドの瞳を見つめる。
カタリはヒヨルドの顎をつかんで、記憶にゆさぶりをかけた。

夢魔の特殊能力である魅了の瞳で見つめられた人は、幻惑と誘惑の中でたいそう性的に心地よくなって、少々口が軽くなる。

「教会は民から支持が高い。最近最高位の教会の聖弁者は力をつけてきた。本音では教会の力をそいでおきたいのが、貴族の本音だ」
渋い顔のヒヨルドは顔通りの、低い低い声で囁く。

「仕方がありませんね。教会はライバルじゃなくて、奉仕するがわなんですけど」
カタリの手がヒヨルドの下半身に触れ、愛撫する。

ヒヨルドは熱い呼吸を漏らし、カタリの腰を引き寄せ、真顔で囁く。
「そのご奉仕は神にかね?」

「私はあなたにです」
にこりとカタリは微笑み、ヒヨルドと舌と舌が触れ合う。

カタリの体をまさぐるヒヨルドに、熱い声をあげながら、ふとカタリは神父をやる前、この教会で出会った老神父のことを思い出す。

この教会であったくそじじいは、夢魔であるカタリを騙してこの教会に縛り付けた。
神父の物珍しい魂の精気を欲しがったばかりに、くそじじいにカタリは捕獲されて、使役されるようになってしまったのだ。
今は死んでいないのだが。

そのくそじじいに、少しだけヒヨルドは似ている。
思いっきり、ヒヨルドを泣かせてやろうと思う。
カタリは穏やかな顔と性格と容姿で、人畜無害だと思われがちだが、人の苦痛に歪む顔がなかなかに好きなようなきがする。

ヒヨルドの興奮している顔を見ていると、なんだか泣かせたくなる。カタリは素早くヒヨルドの体に手を伸ばし、ヒヨルドの体をまさぐる。

「や、やめたまえ」
慌てるヒヨルドの耳で、カタリは囁く。

「大丈夫。全部僕に捧げて」
カタリは舌なめずりする。
そのままヒヨルドの下半身をまさぐる。
ヒヨルドの臀部を指で操っていると、そこはくぷくぷ粘着質な水音がしてくる。
「ひぅ!?何を」
ヒヨルドの驚愕する声。
何故だか知らないが、夢魔の自分が下半身をいじると、女だろうが男だろうが、その人間の下半身は何故だか濡れる。
簡単には射精させないで甘く苦しめながら、ヒヨルドを抱いた。

事後、顔を覆って泣くヒヨルドに、カタリはにこにこ上機嫌だった。
「……あれ?気持ちよくなかったですか?」
「……君ねぇ。気持ちよかったがね!まったく。私以外にこんなことをしたら、君は打ち首かもしれないよ」

あまり同性同士の情事はこの国では認められていないため、カタリの男娼はいい商売になる。
アルはカタリの男娼である弟子だ。アルは顔がとびきりいい。泣き顔は最高だが、
アルのあそこには何も入らない。カタリがどんなに広げようとも。
夢魔である自分を持ってしても、神に呪われて愛するものともできない哀れな人間。

「ねぇ、ヒヨルド様、異世界からやってきた人間がいるのだけれど、知っていますか?」
カタリがそういうと、ヒヨルドはワイシャツを着ている手を止めた。

「それは本当かね?………厄介だな」

「お教えしましょうか?」
にっこりカタリは微笑んだ。

「……聞こうか?」

にこりと微笑んで、カタリは口を開く。

カタリは軽いめまいを感じながら、礼服に着替える。魔力の質が変わってしまったカタリは、あまり人間との性交で、人間から食事ができなくなっていた。夢魔失格である。

仏頂面のヒヨルド(59)を見送り、カタリは職務に戻った。
この時間子供たちは畑で、畑を耕している。

魔力が高い人間から選ばれた生き神であるこの教会のトップは、私腹を肥やして、まったく末端の教会に資金を入れようとしない。だからカタリは貴族相手に男娼をしたり、畑を栽培して、教会で遺児や孤児たちの面倒を見ている。
最近ではアルのレシピで作ったお菓子などを販売したら、結構なお金になっている。

「神父様!」
「神父様!!」
畑にいる子供たちが、カタリに手を振る。カタリもにこにこしながら、手を振り返す。

この教会のトップはどうやら国の権力の中枢に手を伸ばし始めたらしい。教会が力をつけすぎたためか、貴族は警戒し始めているらしい。
今の教会のトップは金権力にそうとうがめつい男だ。

尻に火がついて暗殺されようが何しようがいいが、教会を巻き添えにしないでほしいと、カタリはため息を吐く。

「神父様、こんにちは」
仮面をつけたアルが、大きなざるに野菜を持って現れた。

「いらっしゃい、アル君」
カタリは穏やかに、微笑んだ。
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