記憶喪失で美醜反転の世界にやってきて救おうと奮闘する話。(多分)

松井すき焼き

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第98話 神様にあう

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鬼のギゾルは木の棒で、人を襲おうとしている人間の横面を張り倒す。手加減したつもりだったが、ギゾルに叩かれた人間は一メートルほど吹っ飛ぶ。
「ふむ。手加減したのだがな」
木の棒を担ぎ己の肩を叩き、ギゾルは嘆息する。

それまでギゾルの横で、花を出していたアルは急に力をなくしたように地面に倒れこんだ。

「アル殿?」
ギゾルはアルを拾い上げる。
どうやら中の魂が抜けて、無機質に戻ってしまったようだ。

「兄上」
弟のウシリスが、やってくる。
「ジュラ殿のもとで、皆を守れと言ったはずだ。どうした?」
「ジュラ様に俺がいては落ち着かないからと、外に出されました」
「そうか。やはり食えぬ御仁だな」
ギゾルは歩き出し、がたがた怯えた様子の路上にいる子供に向かって、花を差し出す。
その子供の顔の半分は焼けただれ、血まみれだ。

「この花を喰え。どうやらこの花を喰うと怪我が少し直るようだぞ」

怯えた子供は後ずさりをする。
ギゾルを嘆息すると、赤い瞳を見せながら言う。
「この花を食え、喰わねば、俺はお前を喰うぞ」
子供は大声で泣きながら、花を食べた。
その子の顔の傷はよくなり、ギゾルの後をついてくるようになる。

それからギゾルは相手が怯えるにもかかわらず、脅迫まがいのことをしつつ、人々に花を喰わせ続けた。
ギゾルはのちに、花咲か鬼とか花食わせ鬼と呼ばれるようになった。(別の地域では花をまき散らす茶色い毛躯の神の出現ともいわれている)

 「ん?眠いな」
アルが花畑で目を覚ますと、女の人がアルのことを見下ろしていた。
「あのあなたは?ってここは!?みんなは!?あれ???」
アルは飛び起きて、辺りを見渡すがそこはどこか懐かしい花畑が広がっていた。

「落ち着いて、ここはあなたの夢の中。私は正義の女神のシルベリアといいます」
にっこり髪の長い女性は微笑んだ。
「神様なんですか?」
「そう!そうなのよ。神様だっていうのに、みんな私の言うことを聞いてくれないの。これ以上私は我慢できません!というわけで、あなたに力を上げることにしました」
シルベリアは、アルの額に指で触れる。

「あなたの額にあるこれは、私の加護の印。あなたが弁護したい人間がいて、その人間の裁定が不当だとあなたが判断し、私も不当だと判断すると、相手には罪びとの印が浮き出て、死後天国には行けないし、罪の重さによって、相手に天罰が起きます。
これによって、あなたに下手に手を出せなくなるはず。
後はあなた次第。
獣人を正当に裁定したいのならば、あなたが頑張るのよ。
それがあなたが罪深い獣人達を逃がそうとした罰」
シルベリアはにこりと微笑む。

そこでアルは気づいたことがある。
「あなたのような神様が、人の罪を見つけて裁けばいいんじゃないでしょうか?それならば、不当に裁かれる人がいなくなるのではないでしょうか?」

「それじゃぁ、だめじゃないかしら。人の罰は人が裁かなければ。高みから権力があるだけの全知全能の神が裁いても、人の罪は贖えないの。人であることの苦しみが分かる人でなければね」

そうシルベリアがいうが、アルは人だけだと失敗もするし、全知全能の神の手も必要になると思う。

「シルベリア様、私は人の罪とかわかりません。だから、なるべく無実の罪で苦しんでいる人や、罪を犯してしまって苦しんでいる人を救おうと思います」
「ありがとう。アル」
シルベリアはアルの頬に口づける。
「私にはできなかった、新しい神様の出現ね。アル、みんなをよろしくね」
シルベリアはアルに手を振る。

アルは目覚めた。
するとなぜか真っ裸で、複数の男がアルを見下ろしていて、アルは悲鳴を上げた。
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