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第101話 裸の裁判
しおりを挟む「あなたたち何をしていらっしゃるの?」
そこには美しいドレスを着た高貴な女性と、騎士二人がそこに立っていた。
「ロ、ロゼット様!」
そう叫んで、男はアルから離れて、すぐさま立ち上がって剣を腰から引き抜き、剣を天に突き上げ、最高礼をする。
アルは心底ほっとして、力が抜けてしまった。
「どなた?私をロゼットと呼んだのは?わたくしは、この地上に遣わされた正義の女神であるシルベリア化身です。今現在はロゼットという名前ではないです。あなたたち、この神聖な教会でなにをやっているのですか?」
ロゼット第三王女は、現在女神シルベリアの現世の現身としての役割をしている。
ロゼットの騎士のクロエットと、シルベリアの騎士たちのリーダーのキタリスの鋭い視線が、アルとタルクたちに注がれる。
「この犯罪者が武器を隠し持っていないか、我々は検査していました」
タルクはしれっと、言う。
「あら、そうなのです?」
ロゼットは少し首をかしげる。
ロゼットは納得しそうだったが、キタリスにはバレバレなようで、タルクたちに鋭い視線を向けられる。
キタリスはミンスと同じ優等生で、出世のために余計なことはしないタイプの人間だ。タルクたちは内心冷や汗をかいている。
「シルベリア王女の前で、何故そんな裸でいる。汚い姿を見せるな。さっさと服を着せろ」
ロゼット王女の忠実な騎士である、クロエットはアルの方を見て言う。
そうアルはこの時、丸裸だった。肩口にはワイシャツの袖だけがかかっている状態だ。
言われたアルはいたたまれなくなって、目を伏せる。
美しい女性の前で丸裸。
アルはちっとも悪くないが、なんだか犯罪者のような気分になる。アルは姉が大好きで、女性に対してなんだか弱かった。
「あの、洋服を着せてもらえませんでしょうか?腕を縛られていて、着れないんです。恥ずかしいです」
顔を赤くするアルに、いい意味でも悪い意味でも、皆の視線が集中する。
「あら?そのままでよろしいです。あなたは犯罪者なのでしょう?下手に武器を隠し持たれてても、危険だわ」
美しい顔でロゼットが言うので、アルは叫ぶ。
「何も持ってません!せめて下半身だけでも隠させてください!お願いします!!恥ずかしいです」
「だめです」
きっぱりはっきりロゼットがいう。
アルは全裸決定になったのだった。
「今日来たのは、私の夢の中でシルベリア様からのお告げがあったからなのです」
ロゼットが言う。
シルベリアの声を聴き、皆に伝える役割も持つロゼットの神のお告げに、皆ざわめく。
「もう一人シルベリアの化身がいる。そのものは無罪である犯罪者の弁護をする役割である。それは罪を推し量るための盾の役割をするものだそう。
その者が犯罪者を弁護し、正当なる裁定をするべし、だそうです」
ロゼットの視線が、自然とアルの方を見る。
アルはごくりと、息をのむ。
アルの耳元でシルベリアが囁く。
『すべてはあなた次第なの』
そうだ。アルにはやるべきことがある。アルの大切な人々を救わねばならない。
アルは叫んだ。
「獣人の人々の不当な処遇を、やめてください!正しい審判を求めます」
アルの額にある、シルベリアの印が輝いた。
ざわめく人々。
ロゼットは冷たく告げた。
「わたくし以外にシルベリアの化身はいらないわ」
その言葉とともに、ロゼットの騎士のクロエットの黒い長い剣が引き抜かれ、アルの首に振り落とされる。
アルの首をかき切ったと思われたが、アルの首に剣が触れる瞬間、剣ははじき返された。
「シルベリア様、そのものは龍の卵もちです」
シルベリアの騎士の龍と人間のハーフであるカルスが告げる。
龍の卵もちは、宿主を守るためか、攻撃がきかない。
「あら、そう?ならいいわ。あなたを殺そうとしても無駄みたいだし、龍の卵産みつけられたあなたはもうすぐ死ぬでしょうし。
あなたは何故獣人などの味方をするの?獣人が増えたらどうなるか、あなたは考えないの」
ロゼットは不思議な輝きを持つ瞳を、アルの方に向けた。
ロゼットのその言葉は、アルが、あの教会で出会ったあの男の人も言っていた。
アルの答えはもう決まっている。
「獣人だからと言って、不等な裁判やひどい扱いは、正義の神に許されるはずがありません」
「分かりました。あなたが想う獣人たち一人ひとりの裁定をしましょう。私はシルベリアの化身。そしてシルベリアの剣である騎士たちが、シルベリアの正義の剣であり、剣こそが裁判をして罪人の罪を決めるのです」
そのロゼットの言葉に、アルは顔を上げる。
「それではだめだと思います。罪を裁く側だけが一方的に権力を持って、罪の重さを決めるのは。罪びとだと断罪された人だって、言い分があると思います。
きちんと皆の話を聞き、証拠が見つからないと、無罪の可能性があると思います。無罪じゃないかもしれないけれど、やむにやまれない事情があって、罪を犯した人がいたのかもしれませんし」
「シルベリアの化身のくせに、罪人をかばうの?」
ロゼットの冷たい視線が、アルに突き刺さる。
負けじと、アルはロゼットを見つめる。
「かばうのではありません。罪人の話を聞く、シルベリアの騎士の人たちも必要だと思います」
「罪人の話を聞いて、騙されるかもしれないわ」
「そうならないように、みんなの話を聞いて、証拠を集めないと、事実はわからないと思います。私は、皆の裁判のやり直しと、私と一緒にいたソニアさんたちの無罪を主張します!」
アルは叫んだ。
アルの叫びに、ロゼットはため息をつく。
「ソニアってどなたです?」
「私と一緒にいた狼獣人の名前です。ソニアさんとその子供たちが、捕まって、行方不明なんです」
「そうなのですね。その子たちは、軍部の施設にいるかもしれませんね。あなたのそんな気弱な言葉に、獣人の血を欲しがっている軍神たちは動かないと思うけれど。まぁ、いいです。ここの責任者のヴェルディ様と最高上審判にかけあってあげましょう。一応あなたもシルベリアの印を持つものらしいですしね。
罪人の話を聞くシルベリアの騎士も、私から見繕ってあげますわ。せいぜい獣人をかばって、殺されないことですね」
「ありがとうございます。あの、服を着せてほしいのですけど」
アルを見る視線を直視できなくて、アルは俯く。
「だめよ。その方が目にいいし、面白いです」
そういって、ロゼットはくすりと笑った。
「アル君」
ねっとりとした恍惚とした男の声に、アルは横を向く。そこにはソラルの姿があった。ソラルはアルの足元で膝をつくと、アルの足首をなめた。
皆その淫靡な光景に、視線が集中する。
「アル君は正義の女神なんだね。俺はアル君を守る化身になるよ」
にこにこアルの顔を見上げていた。
「不敬な。貴様はシルベリア様の騎士だろうが!」
ロゼットの騎士のクロエットの剣の切っ先が、ソラルの首元に突き付けられる。
ソラルはけらけら笑う。
「だって、アル君もシルベリア様の化身の一人なのでしょう?俺はアル君の、いや罪人をかばうシルベリアの盾の下僕になる。だって、俺はアル君なしじゃ、生きて、生きていけないから」
そうアルのストーカーであるソラルは断言した。
「あの、嫌です。つきまとわないでください」
アルはきっぱり断言し、ソラルはアルの下半身にしがみついて離れず、強制退場になった。
ソラルがいなくなり、アルの目の前にロゼットがやってきて言う。
「でもあなたは有罪です。あなたを弁護できるものはいないでしょうし。あなたは今日から牢屋行きです。凶悪な獣人どもの牢屋に入れてあげます。獣人をかばったことを、せいぜい後悔するといいです」
ロゼットはそうにっこり微笑んで、そういった。
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