記憶喪失で美醜反転の世界にやってきて救おうと奮闘する話。（多分）

第102話 夢

アルはいつの間にか疲れていたらしい。ぼんやり考え事をしていた。

アルはいつも部屋で、短剣や旅の道具を整理しているソニアの後ろ姿を見ている。ソニアは血反吐を吐こうが、怪我をしていようが、何も言わない。

アルがそのことに気づいたのはいつだったか。
冒険は怪我がつきものだ。ソニアは前に一度血まみれの服を着て、家に帰ってきたことがある。
アルが大丈夫か、ソニアのことを心配しても、「大丈夫だ」の一点張りである。

ソニアさんはいっつも無理をしている。
微かに苦しそうな顔を見ていればわかる。
アルはソニアのことが大好きだから。
眠そうだったり、傷口から血を出して我慢していないか、アルはソニアのことを見ている。アルはソニアに一息ついてほしいと、よくソニアにお茶を入れる。

ソニアさん、会いたいです。

アルはソニアに手を伸ばす。
物悲し気なソニアの横顔が見えて、アルが手を伸ばしたその先には、見知らぬ金髪の美しい黄金色の瞳をした端正な顔立ちの男の人がいた。

アルはにやりと笑う。まるで自分の体ではないように動く、アルは手を伸ばしその男の人に触れた。
その男は怯えたようにアルを見る。
アルは男の背に手を回し、抱きしめた。
男は怯えているようで、ためらっていたが抑えきれないように、アルに口づけてくる。
アルは男のなにもかもを受け入れて、笑う。
下半身は喰われたから、そこには何もないが、アルは受け入れることはできる。

『悪魔め』
男の呟く声。
アルは笑う。
違う。悪魔ではないと。
そう悪魔ではない。だからいうことを聞いてほしい。アルは男に囁いた。