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第108話 罪を弁護するもの
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ヴェルディは剣をついに捨てることになることを、複雑な思いになる。
自分こそ正義の断罪者になるのだと、日々剣技を磨いてきたのだ。手のタコなんて潰れすぎるほど、潰れてきた。
ヴェルディは腰にある鞘に入った剣に触れる。
「許せ」
自分の運命の人間に会ってしまった。その人間を前にして、正義など、すべて積み上げてしまったものはどうでもよくなってしまった。
罪も罰もどうでもいい。
いや、よくもないが、もちろん正当なさばきはするべきだと思うが。
ヴェルディは、初めての恋に浮かれていた。
ヴェルディの背後から囁く声がする。
『上様からの命令です。くだらん人間に誑かされず、職務に戻れ。とのお言葉です』
ヴェルディの父親ヨハルドの影からの言葉だ。
ヨハルドの密偵は人の影に潜むことができる。
ヴェルディの行動をヨハルドは逐一見張っている。
それだけヴェルディの要職は、厳しい職務なのだ。父の意にそぐわないように、ヴェルディは生きてきた。
「父に伝えろ。俺は俺の信じる正義を探して生きる。新しい正義を、俺は自分で探す。このシルベリアの剣はもう俺には使えない。この剣の新しい継承者に渡す、とな」
『行意』
その言葉とともに、地面からヴェルディの元へ短剣が飛んでくる。それをヴェルディは難なく、剣ではじく。
「何のつもりだ?」
ヴェルディの冷たい目が、地面の陰に向かう。
『上様はもしヴェルディ様が職務を全うしなければ、殺せとおっしゃっています』
どうやら職務をしないヴェルディを、ヨハルドは殺すつもりらしい。
少しヴェルディは父親からの放棄の意志に、悲しい気持ちにはなるが、もうあきらめていた。
「とんだ、正義感だな。くだらん。父親に伝えろ。俺は俺の思う通りに生きる。貴様の思う通りにはいかないとな」
『畏まりました』
そういうと、ヴェルディの背後の影は消えた。
次は殺し合いになるかなと、ヴェルディはため息をつく。
「ヴェルディ様!!」
ヴェルディの忠実な部下のキタリスの声に、ヴェルディは足を止めて背後を振り返った。
「キタリス」
「シルベリアの剣を捨てるというのは、本当でしょうか?」
「そうだ。この剣は俺にはもう使えない。俺はシルベリアの剣にもうふさわしくない。俺はこの剣を捨てて、犯罪者どもの弁護に回る。幻滅しただろう?次にこのシルベリアの剣にふさわしいもののもとで、職務に励め。ではな」
「何をおっしゃいます?俺はあなただから、ずっとあなたについてきたんです。これからも俺はヴェルディ様の配下でありたいと思います」
「俺は家から命を狙われているし、出世もできんし、ろくな目に合わんぞ?それでもいいのか?」
ヴェルディの問いに、キタリスは涙目でうなずいた。
「勝手にしろ」
ヴェルディとキタリスは歩き出した。
この時からヴェルディたちは、今いる罪人の罪をもう一度詳細に調べ始めて、犯罪を起こすまでの事情を弁護し、罪状の恩情を模索し始めた。
ヴェルディの家は、罪を裁くものと、罪を弁護するものと、二つに真っ二つに割れることになった。
アルは手を縛られて、いまだに服がはだけた状態だ。寒いし、見知らぬ複数の騎士のちらちら見ている視線を感じる。
ものすごく恥ずかしいし、なんだかいたたまれない。
アルはただ俯きながら、歩く。
アルのお尻に手が触れるのを感じて振り返ると、背後のブラウンの髪をした騎士は顔をそらす。
人の下心満載の視線はつらい。
アルはソニアたちのことを考えて、なんとか気持ちを落ち着かせる。
それからアルはなんとか縛られていた両手を解かれ、牢屋の中に突き入れられた。
アルは慌ててはだけていた服を、慌てて整えた。
牢屋の中の臭いにおいが、鼻を衝く。
薄暗い牢屋の中に、大きな黒い狼の顔をした筋肉質の人間が、アルの目の前に現れる。
「ひ!?」
アルの心臓は飛び上がった。
自分こそ正義の断罪者になるのだと、日々剣技を磨いてきたのだ。手のタコなんて潰れすぎるほど、潰れてきた。
ヴェルディは腰にある鞘に入った剣に触れる。
「許せ」
自分の運命の人間に会ってしまった。その人間を前にして、正義など、すべて積み上げてしまったものはどうでもよくなってしまった。
罪も罰もどうでもいい。
いや、よくもないが、もちろん正当なさばきはするべきだと思うが。
ヴェルディは、初めての恋に浮かれていた。
ヴェルディの背後から囁く声がする。
『上様からの命令です。くだらん人間に誑かされず、職務に戻れ。とのお言葉です』
ヴェルディの父親ヨハルドの影からの言葉だ。
ヨハルドの密偵は人の影に潜むことができる。
ヴェルディの行動をヨハルドは逐一見張っている。
それだけヴェルディの要職は、厳しい職務なのだ。父の意にそぐわないように、ヴェルディは生きてきた。
「父に伝えろ。俺は俺の信じる正義を探して生きる。新しい正義を、俺は自分で探す。このシルベリアの剣はもう俺には使えない。この剣の新しい継承者に渡す、とな」
『行意』
その言葉とともに、地面からヴェルディの元へ短剣が飛んでくる。それをヴェルディは難なく、剣ではじく。
「何のつもりだ?」
ヴェルディの冷たい目が、地面の陰に向かう。
『上様はもしヴェルディ様が職務を全うしなければ、殺せとおっしゃっています』
どうやら職務をしないヴェルディを、ヨハルドは殺すつもりらしい。
少しヴェルディは父親からの放棄の意志に、悲しい気持ちにはなるが、もうあきらめていた。
「とんだ、正義感だな。くだらん。父親に伝えろ。俺は俺の思う通りに生きる。貴様の思う通りにはいかないとな」
『畏まりました』
そういうと、ヴェルディの背後の影は消えた。
次は殺し合いになるかなと、ヴェルディはため息をつく。
「ヴェルディ様!!」
ヴェルディの忠実な部下のキタリスの声に、ヴェルディは足を止めて背後を振り返った。
「キタリス」
「シルベリアの剣を捨てるというのは、本当でしょうか?」
「そうだ。この剣は俺にはもう使えない。俺はシルベリアの剣にもうふさわしくない。俺はこの剣を捨てて、犯罪者どもの弁護に回る。幻滅しただろう?次にこのシルベリアの剣にふさわしいもののもとで、職務に励め。ではな」
「何をおっしゃいます?俺はあなただから、ずっとあなたについてきたんです。これからも俺はヴェルディ様の配下でありたいと思います」
「俺は家から命を狙われているし、出世もできんし、ろくな目に合わんぞ?それでもいいのか?」
ヴェルディの問いに、キタリスは涙目でうなずいた。
「勝手にしろ」
ヴェルディとキタリスは歩き出した。
この時からヴェルディたちは、今いる罪人の罪をもう一度詳細に調べ始めて、犯罪を起こすまでの事情を弁護し、罪状の恩情を模索し始めた。
ヴェルディの家は、罪を裁くものと、罪を弁護するものと、二つに真っ二つに割れることになった。
アルは手を縛られて、いまだに服がはだけた状態だ。寒いし、見知らぬ複数の騎士のちらちら見ている視線を感じる。
ものすごく恥ずかしいし、なんだかいたたまれない。
アルはただ俯きながら、歩く。
アルのお尻に手が触れるのを感じて振り返ると、背後のブラウンの髪をした騎士は顔をそらす。
人の下心満載の視線はつらい。
アルはソニアたちのことを考えて、なんとか気持ちを落ち着かせる。
それからアルはなんとか縛られていた両手を解かれ、牢屋の中に突き入れられた。
アルは慌ててはだけていた服を、慌てて整えた。
牢屋の中の臭いにおいが、鼻を衝く。
薄暗い牢屋の中に、大きな黒い狼の顔をした筋肉質の人間が、アルの目の前に現れる。
「ひ!?」
アルの心臓は飛び上がった。
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