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第109話 憎しみ
しおりを挟む獣臭い。
牢屋は不衛生なのか、ダニの気配を感じる。
そして獣臭い。
牢屋の中から、「女だ?」「女」「人間?」などと囁く声が聞こえてくる。
アルは赤い目の黒い狼に押し倒されて、脱がされて体を開かれていた。
獣臭い。いや牢屋全体酷く臭い。吐きそうだ。
下半身にひどい違和感がある。今まで感じたことがない違和感。
嫌でアルは泣き出してしまった。
「何故泣く?」
黒い狼の赤い瞳が、冷徹にアルを見下ろす。
「やめてください」
「人間にはそんな感情があるのか?」
なぜか心底不思議そうな顔で黒狼の顔をした獣人の男は、アルのことを見る。
「嫌だ!!」
アルはなんとか叫ぶ。力任せで押さえつけられた体は、ひどく痛む。
「俺の女房と子は、複数の人間にレイプされ、最後には殺された。人間どもはその人間を裁かない。俺は人間を殺す」
アルの首に、黒狼の顔をした男の手が回され、力を籠められる。
首を絞められ、アルはあえぐ。
く、苦しい。
このまま死ぬのか?
アルの脳裏に、ソニアたちが思い浮かぶ。
「そ、ソニア、さん」
そう以前アルはこんな似たようなことがあったことを思い出す。
あれは遠い過去なのか?あれは。
アルの絞められていた首は、嫌な音を立てた。アルの口から血が流れて、アルは意識をなくした。
誰かが泣いている声がする。アルはその泣いている子供の元へ、戻らなければとそう思った。
「姫様、よろしいので?あの牢屋にはひどい凶悪犯がいますが」
騎士クロエットがロゼットのことを心配そうに見てくる。
ロゼットは物憂げな様子で、「ええ、いいのです」とそれだけ言って、また窓の外を見た
「姫様はなぜか憂い顔が晴れないご様子。何かあったのでは?俺はいつだって姫様の味方です。なんでもお話しください」
クロエットはロゼットの前で跪いて見せる。
「ありがとう、クロエット。私なら大丈夫なのです」
「姫様」
「クロエット、私はシルベリアとしての役割が果たせなくなったら、どうなるのでしょう?ただの人として、いえ、王家の道具としてどこかに嫁がされるのでしょうね。私は、あなたとずっといることはできなくなるのでしょう」
泣くそうな顔のロゼットは俯く。
そんなロゼットの手を、クロエットは握る。
「姫様」
「クロエット、私の目はもう真実が見えないのです」
女神シルベリアの加護を持ち、現身とされる存在は、代々真実がすべて見れる目を与えられるという。
「もう私はシルベリアの女神たることはできないのです」
そういうと、ロゼットは静かな瞳で、クロエットのことを見た。
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