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第110話 無理
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「では姫様、平民になって、俺と逃げますか?」
クロエットは静かなまなざしで、ロゼットのことを見た。
「え」
咄嗟にロゼットは、クロエットのその言葉に応じることができなかった。あんなに夢見ていた言葉だというのに。
「姫様はこの国の現状を知っていますか?平民は重い税に苦しんで、ほとんどの者はいい医者にかかることもできず、偽物の医療を受けては死んでいます。姫様がほとんど病気も知らずに生きていけるのは、王族直属の高位の医者をかかっているからですよね。それを知っているから姫様は平民にはならずに、いいとこずくめで王族でいたいのでしょうか?
……それは甘えですよ」
クロエットが顔をゆがめて、ロゼットの顔を見た。
その顔を見て、ロゼットは全身が震えた。
「あなたに何が分かるっていうの?こんな顔に生まれて、なりたくもないのに人々に注目される立場になってしまい、しまいには生きているだけで自由もなく、政治の道具にされるのですよ!
庶民が増税で苦しんでいたって、それは私のせいではないのですよ!!私が政治に口出すことなんて、できるわけないでしょう?私はただお飾りの存在なの」
「そう。けれどもあなたはその税金で贅沢を享受してきたのですよね?
俺はあなたを愛しています。けれども姫様の只逃げるだけの姿勢には賛成できません。
あなたは王族という立場を今一度考えて、答えを出してください。
このままいくのか、どうか民のことを考えて答えをお出しください」
「クロエットなんか、大嫌い!!」
少女のように叫んでロゼットは走り去っていく。
クロエットは俯いた。
その時、部屋の戸が叩かれ、クロエットは顔を上げる。
クロエットはすぐに表情を元に戻すと、「入れ」という。
扉がすぐに開かれ、外からメイドのタウが入ってくる。
「姫様にお会いしたいという方が、いらっしゃっています」
「わかった。すぐに行く」
クロエットは立ち上がり、外へと向かった。
「クロウ、お前何してんだ?こんな別嬪殺しちまったんじゃないだろうな?」
美しい人間を抱いている黒い狼の肩に、同じ牢屋の茶色い狼獣人の男のミストの手が、置かれる。
「そうだ!そうだ!やっと来た女なんだぞ!」
牢の中から幾人かの男の声が上がる。
「うるさい、黙れ」
凶暴な黒狼で知られるクロウが、振り返ってミストを見た。
「人間は皆、殺す」
妙に澄んだ静かな瞳で、クロウはそう告げる。
クロウは知的で穏やかに見えるのが、逆に恐ろしい。
そう、クロウはいつもは気の好い優しい奴なのだ。人間を見るときだけ、ぞっとするほど変貌する。
クロウは連続殺人犯で、人間を殺し続けると公言している。狂っていると評判の黒狼だ。逆らってもろくな目に合わないと、ミストはため息をつくと、座って木の枝を煙草代わりにくわえて、顔を仰いだ。
目の前からは目もくらむような、甘いにおいがする。忌々しい人間の匂い。
クロウはただ目の前の人間を凌辱してやろうと、考える。
すると首の骨を折って死んだはずの人間が、目を開く。
「お前、死んだはずでは?」
驚いて目を見開くクロウに向かって、人間は手を伸ばす。
その異様に美しい人間は、くすくす笑う。
「私を殺したい?」
甘えるように、誘うように小声で人間は囁く。
「ああ。俺はお前たち人間を根絶やしにしてやる」
きっぱりクロウは言い切る。
「あなたに私は殺せません」
人間は手を伸ばし、クロウに抱き着いてきた。
「お前、何か匂いが違う。魔人か?」
クロウは唸りながら、低い低い声で囁く。
人間は誘うように、わざとらしく喘いで見せた。
「殺せないとは何故だ?」
「秘密」
この人間は殺せないらしい。
クロウは人間の首に爪を立てた。心底憎悪するぞっとするほど冷たい黒狼の赤い目を向ける。
人間は微笑んだ。
「必ず、お前を殺す」
そう狼は宣言した。
子供が泣いている声がする。
クマの姿のアルは目を覚ますと、ポポムがそばで泣いており、人間たちが言い争う声が聞こえてきた。
クロエットは静かなまなざしで、ロゼットのことを見た。
「え」
咄嗟にロゼットは、クロエットのその言葉に応じることができなかった。あんなに夢見ていた言葉だというのに。
「姫様はこの国の現状を知っていますか?平民は重い税に苦しんで、ほとんどの者はいい医者にかかることもできず、偽物の医療を受けては死んでいます。姫様がほとんど病気も知らずに生きていけるのは、王族直属の高位の医者をかかっているからですよね。それを知っているから姫様は平民にはならずに、いいとこずくめで王族でいたいのでしょうか?
……それは甘えですよ」
クロエットが顔をゆがめて、ロゼットの顔を見た。
その顔を見て、ロゼットは全身が震えた。
「あなたに何が分かるっていうの?こんな顔に生まれて、なりたくもないのに人々に注目される立場になってしまい、しまいには生きているだけで自由もなく、政治の道具にされるのですよ!
庶民が増税で苦しんでいたって、それは私のせいではないのですよ!!私が政治に口出すことなんて、できるわけないでしょう?私はただお飾りの存在なの」
「そう。けれどもあなたはその税金で贅沢を享受してきたのですよね?
俺はあなたを愛しています。けれども姫様の只逃げるだけの姿勢には賛成できません。
あなたは王族という立場を今一度考えて、答えを出してください。
このままいくのか、どうか民のことを考えて答えをお出しください」
「クロエットなんか、大嫌い!!」
少女のように叫んでロゼットは走り去っていく。
クロエットは俯いた。
その時、部屋の戸が叩かれ、クロエットは顔を上げる。
クロエットはすぐに表情を元に戻すと、「入れ」という。
扉がすぐに開かれ、外からメイドのタウが入ってくる。
「姫様にお会いしたいという方が、いらっしゃっています」
「わかった。すぐに行く」
クロエットは立ち上がり、外へと向かった。
「クロウ、お前何してんだ?こんな別嬪殺しちまったんじゃないだろうな?」
美しい人間を抱いている黒い狼の肩に、同じ牢屋の茶色い狼獣人の男のミストの手が、置かれる。
「そうだ!そうだ!やっと来た女なんだぞ!」
牢の中から幾人かの男の声が上がる。
「うるさい、黙れ」
凶暴な黒狼で知られるクロウが、振り返ってミストを見た。
「人間は皆、殺す」
妙に澄んだ静かな瞳で、クロウはそう告げる。
クロウは知的で穏やかに見えるのが、逆に恐ろしい。
そう、クロウはいつもは気の好い優しい奴なのだ。人間を見るときだけ、ぞっとするほど変貌する。
クロウは連続殺人犯で、人間を殺し続けると公言している。狂っていると評判の黒狼だ。逆らってもろくな目に合わないと、ミストはため息をつくと、座って木の枝を煙草代わりにくわえて、顔を仰いだ。
目の前からは目もくらむような、甘いにおいがする。忌々しい人間の匂い。
クロウはただ目の前の人間を凌辱してやろうと、考える。
すると首の骨を折って死んだはずの人間が、目を開く。
「お前、死んだはずでは?」
驚いて目を見開くクロウに向かって、人間は手を伸ばす。
その異様に美しい人間は、くすくす笑う。
「私を殺したい?」
甘えるように、誘うように小声で人間は囁く。
「ああ。俺はお前たち人間を根絶やしにしてやる」
きっぱりクロウは言い切る。
「あなたに私は殺せません」
人間は手を伸ばし、クロウに抱き着いてきた。
「お前、何か匂いが違う。魔人か?」
クロウは唸りながら、低い低い声で囁く。
人間は誘うように、わざとらしく喘いで見せた。
「殺せないとは何故だ?」
「秘密」
この人間は殺せないらしい。
クロウは人間の首に爪を立てた。心底憎悪するぞっとするほど冷たい黒狼の赤い目を向ける。
人間は微笑んだ。
「必ず、お前を殺す」
そう狼は宣言した。
子供が泣いている声がする。
クマの姿のアルは目を覚ますと、ポポムがそばで泣いており、人間たちが言い争う声が聞こえてきた。
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