記憶喪失で美醜反転の世界にやってきて救おうと奮闘する話。（多分）

第115話 それこそが存在理由

以前クロウに、人間たちはよく聞いてくることがある。
「何故、そんなに人を殺す？」
そんな問いをクロウは鼻でせせら笑う。
害虫を殺すのに、お前たちは何か考えることがあるのか？
そうクロウが言うと、人間どもは血相を変えて、クロウのことを憎み時に暴力をふるう。

ある時なぜかクロウのいる牢に、一人の人間がやってきた。
人間はたいそう美しい人間だった。クロウはその人間をなぶった。美しい人間だ。クロウは自分の中で高揚するものを感じた。
クロウの家族妻子供をなぶった人間たちと同じではないかと、吐き気がした。けれどクロウはそれでもかまわないと思った。
それで人間ども抹殺できるのならば。
美しい人間は、獣たちに犯されながらも、苦しむ獣人達の心配をしながら、この牢の騎士どもにこの牢の環境を改善するように、言っていた。

　ある時美しい人間は、牢屋の外へと騎士たちに連れていかれた。その人間は騎士たちの精液の匂いをさせてもどってきた。
美しい人間はにこにこ笑いながら、水浴び場ができると、獣人のけが人に報告していた。
その美しい人間がその人間の騎士どもに体を売って、この牢の環境を改善したのだろう。
獣人どもは人間よりも鼻がきく。そんな美しい人間をせせら笑う。
馬鹿にされてもその美しい人間は態度を変えなかった。けが人の獣人の体を拭いたり、毛並みを手入れしている。
そのうち美しい人間に、懐く獣人が現れだした。

クロウはぼんやり自分の手に、食事でつかうフォークを突き刺した。そうしなければ、自分の中の怪物が暴走するような気がした。
心配そうな顔で美しい人間は、クロウのことを見た。
クロウは笑う。
「お前らを、人間を何度でも殺す」
そういう。
そうしなければ、クロウという獣は存在できないからだった。

「それは何故ですか？」
美しい人間がきいてきた。

「それが俺の存在理由だからだ。害をなすしかない人間という種を殺す」
「私は、害をなしません」
そう美しい人間は否定をする。

「このまま人間が増えれば、人間どもは自分とは違う種族である獣人を殺すだろう。人間どもは滅びなければならない」
黒い狼のクロウは断言する。

「あなたと同じことを言っていた人がいました。獣人が増えれば、人間に害をなすだろうとそのかたは言っていました。けれど私はそうは思いません。私たちは元は同じ生き物で、色んな人が獣人が生き物がいるからこそ、この世界があるのだと思います」

「はは。随分きれいごとをいうのだな？俺の家族をなぶって殺した人間どもを見ても、お前は同じことをいうのだな。どちらにせよ、俺は人間を殺す。俺はそれが楽しいからだ。もうそれ以外に理由はない」
クロウは血のような赤い瞳を細めた。
クロウの鋭い爪先が、美しい人間の首先を傷つけた。美しい人間は悲しそうな顔でうつむいた。

それからしばらくして、牢獄に火をつけられた。