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第124話 喧嘩
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「どこへいくつもりだ?」
低い低いヴェルディの声。
ライオンに変化を遂げたせいか、ぐるぐる喉から獣の唸り声が聞こえる。
ぴたりと、ソラルは足を止める。
後ろを振り返ると、ソラルはにこりと微笑んだ。
「何の御用ですか?ベルディ様」
「お前だな、この町に火をつけたのは」
静かなヴェルディのまなざしが、ソラルを見据える。
「はは。なにをおっしゃってますぅ?」
「この町に火をつけたのは、俺も同じだ。他の連中がこの町に、お前と一緒になって火をつけようが、俺は止めなかった。
父の命令だと薄々感じていたからだ。
俺もそれが正しいと信じていたからだ。俺にも罪はある。
お前はアルに邪な想いをよせ、アルを独り占めしようとし、アルの家に火をつけた。俺の愛する者の家に火をつけた」
ヴェルディは背中についた翼を広げ、続けて告げた。
「お前は死刑だ」
ヴェルディの口から、火が拭く。
火はソラルの体を包んで燃え盛る。
ヴェルディは口から火を吐くのをやめ、ソラルのいた場所を見る。
そこにはなにもいない。
「ヴェルディ様、火を噴くなんて反則です」と、遠くからそんな声と笑い声が聞こえてきて、消えた。
ヴェルディは舌打ちする。
「……ちっ。逃がしたか」
ヴェルディは悔しさがこみあげてくる。アルを思い出して悲しくなる。
人間から、このよくわからない獣に変わってしまった自分。アルは受け入れてくれるのか、ヴェルディは不安にさいなまれていた。
2
アルが眠っているソニアを見ていると、赤い鳥が羽ばたいてきて、アルの肩にとまった。
「あの、この鳥さんは?」
戸惑うアルは、ジルの方を見る。
ジルは眉間のしわをもみこみながら答える。
「ソニアを呪った張本人ですよ」
その赤い鳥はアルの肩からおりると、眠っているソニアの元へと降りて、ソニアの頬をくちばしで突っつく。
「わぁ!やめてください」
慌ててアルはソニアの顔の前に手を出して、鳥のくちばしからソニアを守ろうとする。鳥のくちばしの先が当たって、ひどく痛い。
鳥は放れ飛び上がり、ジルの肩にとまり、「っぴ、ぴー」と甲高く鳴き声を上げる。
「ソニアは呪った鳥の元へ向かい、その鳥が呪いを解かなければ殺すと、脅迫したんです。それで無理やりソニアはその鳥を使い魔の契約をしたんです。……ソニアはほとんど魔力もない癖に、異常に身体能力強化がすぐれているので、すぐ無茶をする」
ジルはスリやってくる鳥の頬を指でなでる。
「ソニアさんは大丈夫なんでしょうか?」
不安になってアルは、ジルに問いかける。
「ソニアは…」言いかけて、ジルは本当に嫌そうに眉を寄せる。
「外に複数の獣人の気配がします。ここに来る途中複数の狼の獣人がついてきていました。なにか心当たりは?」
顔面蒼白になったアルに、ジルは厳しい目を向ける。
「またあなたは厄介ごとを連れてきたんですか?」
アルの中にこみあげてくるのは、あの複数の狼獣人にレイプされた記憶だ。体が震えてくる。
目の前には厳しいまなざしのジルがいる。
「あ、う。な、何でもありません」
そんなことをアルは誰にも知られたくなかった。
「またあなたが無自覚に誰かをたらしこんできたのでしょう?」
厳しいまなざし、ジルの酷い言いぐさに、アルは震える口を開く。
「ジルさんはそんなに私のことが嫌いなんですか?」
「嫌いですよ」
「何故?」
「いるだけで迷惑するからですよ」
明確なジルの拒絶に、弱ってるアルは対処できず、勝手に泣きたくもないのに、目から涙がこぼれてきてしまう。
いるだけで迷惑ってなんでだろう?
アルはこんな顔になんて生まれたくはなかったのに。
人の勝手な美醜の判断で、アルは散々苦汁をなめてきた。アルはただそこにいただけなのに。
「私は」
悲しみの次は、ジルへの怒りがアルの中にこみあげてくる。
「私もあなたのことなんか、大嫌いです!!」
本当はジルのことを嫌いではなかったけれど、どちらかとうと拒絶された悲しみの方が強かったけれど。
そうアルが叫んだ瞬間、ジルが刻んだ腕の傷が激しく痛みだした。強烈な痛みで目もくらみそうだ。
「痛い。痛い!痛い!!」
アルは腕を抑える。
みると、腕の刻印は熱を帯びて、出血しだしている。
なに!?
ジルは一瞬驚き目を見開き、そして微笑んだ。
「さぁ、あなたが戻ってきたことですし、ソニアを連れてすぐここを離れますよ」
「私は」
ジルからここを離れなければならないと聞いて、アルが思い浮かべたのはここにきている皆のことだ。教会にいるあの子たちの母親も、ここにきてあの子たちを迎えに来るかもしれない。
それにポポムたちのこともある。
この火事で焼け野原になった街で、皆どうしているだろうか?アルはせめて温かく出迎えてあげたい。
「私はここにいようと思います。気になる子たちもいるので。ジルさんはソニアさんを連れて安全なところに行ってください」
決意を込めてアルは、ジルの顔を見つめる。
「馬鹿な。このままここにいても、危険なだけですよ。もしソニアが起きたら、どう思うと思いますか?」
ジルの言うことも一理あると、アルは思う。
けれど、これだけは譲れない。
それにアルはジルと口もききたくなかった。
アルはジルから顔をそらす。
「あなたは、私に逆らえると思っているのですか」
冷たいジルの声。
アルの腕がどんどん痛くなる。凄まじい激痛に、冷や汗がでてくる。
ジルとアルはにらみ合う。
アルにもプライドがある。負けじとジルを睨むが、あまりの腕の痛みに、めまいがしてくる。
ジルはため息をつくと、アルの目の前に手をかざす。
するとアルの意識がもうろうとして、そのまま倒れこんで、意識を失ってしまった。
「逃がしませんよ、あなたは魔女への生贄なのですから」
そんな不穏な言葉を、遠い意識の底でアルは聞こえたような気がした。
ジルは気を失ったアルを担ぎ上げると、そのまま眠っているソニアの体とともに消えた。
その後、ジルは頭を抱えることになる。
ジルの家は、町はずれにある。ジルの家の隣には森が広がっている。アルはそこから木を持ち出し、勝手に街に戻り、その木で家を建て直し、なんとジルが薦めていた新しい家も買ってしまったのだった。
それに至るまでにはいろいろ紆余曲折があるのであった。
第三部 森の守護者ハイエルフ編へと続く。
低い低いヴェルディの声。
ライオンに変化を遂げたせいか、ぐるぐる喉から獣の唸り声が聞こえる。
ぴたりと、ソラルは足を止める。
後ろを振り返ると、ソラルはにこりと微笑んだ。
「何の御用ですか?ベルディ様」
「お前だな、この町に火をつけたのは」
静かなヴェルディのまなざしが、ソラルを見据える。
「はは。なにをおっしゃってますぅ?」
「この町に火をつけたのは、俺も同じだ。他の連中がこの町に、お前と一緒になって火をつけようが、俺は止めなかった。
父の命令だと薄々感じていたからだ。
俺もそれが正しいと信じていたからだ。俺にも罪はある。
お前はアルに邪な想いをよせ、アルを独り占めしようとし、アルの家に火をつけた。俺の愛する者の家に火をつけた」
ヴェルディは背中についた翼を広げ、続けて告げた。
「お前は死刑だ」
ヴェルディの口から、火が拭く。
火はソラルの体を包んで燃え盛る。
ヴェルディは口から火を吐くのをやめ、ソラルのいた場所を見る。
そこにはなにもいない。
「ヴェルディ様、火を噴くなんて反則です」と、遠くからそんな声と笑い声が聞こえてきて、消えた。
ヴェルディは舌打ちする。
「……ちっ。逃がしたか」
ヴェルディは悔しさがこみあげてくる。アルを思い出して悲しくなる。
人間から、このよくわからない獣に変わってしまった自分。アルは受け入れてくれるのか、ヴェルディは不安にさいなまれていた。
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アルが眠っているソニアを見ていると、赤い鳥が羽ばたいてきて、アルの肩にとまった。
「あの、この鳥さんは?」
戸惑うアルは、ジルの方を見る。
ジルは眉間のしわをもみこみながら答える。
「ソニアを呪った張本人ですよ」
その赤い鳥はアルの肩からおりると、眠っているソニアの元へと降りて、ソニアの頬をくちばしで突っつく。
「わぁ!やめてください」
慌ててアルはソニアの顔の前に手を出して、鳥のくちばしからソニアを守ろうとする。鳥のくちばしの先が当たって、ひどく痛い。
鳥は放れ飛び上がり、ジルの肩にとまり、「っぴ、ぴー」と甲高く鳴き声を上げる。
「ソニアは呪った鳥の元へ向かい、その鳥が呪いを解かなければ殺すと、脅迫したんです。それで無理やりソニアはその鳥を使い魔の契約をしたんです。……ソニアはほとんど魔力もない癖に、異常に身体能力強化がすぐれているので、すぐ無茶をする」
ジルはスリやってくる鳥の頬を指でなでる。
「ソニアさんは大丈夫なんでしょうか?」
不安になってアルは、ジルに問いかける。
「ソニアは…」言いかけて、ジルは本当に嫌そうに眉を寄せる。
「外に複数の獣人の気配がします。ここに来る途中複数の狼の獣人がついてきていました。なにか心当たりは?」
顔面蒼白になったアルに、ジルは厳しい目を向ける。
「またあなたは厄介ごとを連れてきたんですか?」
アルの中にこみあげてくるのは、あの複数の狼獣人にレイプされた記憶だ。体が震えてくる。
目の前には厳しいまなざしのジルがいる。
「あ、う。な、何でもありません」
そんなことをアルは誰にも知られたくなかった。
「またあなたが無自覚に誰かをたらしこんできたのでしょう?」
厳しいまなざし、ジルの酷い言いぐさに、アルは震える口を開く。
「ジルさんはそんなに私のことが嫌いなんですか?」
「嫌いですよ」
「何故?」
「いるだけで迷惑するからですよ」
明確なジルの拒絶に、弱ってるアルは対処できず、勝手に泣きたくもないのに、目から涙がこぼれてきてしまう。
いるだけで迷惑ってなんでだろう?
アルはこんな顔になんて生まれたくはなかったのに。
人の勝手な美醜の判断で、アルは散々苦汁をなめてきた。アルはただそこにいただけなのに。
「私は」
悲しみの次は、ジルへの怒りがアルの中にこみあげてくる。
「私もあなたのことなんか、大嫌いです!!」
本当はジルのことを嫌いではなかったけれど、どちらかとうと拒絶された悲しみの方が強かったけれど。
そうアルが叫んだ瞬間、ジルが刻んだ腕の傷が激しく痛みだした。強烈な痛みで目もくらみそうだ。
「痛い。痛い!痛い!!」
アルは腕を抑える。
みると、腕の刻印は熱を帯びて、出血しだしている。
なに!?
ジルは一瞬驚き目を見開き、そして微笑んだ。
「さぁ、あなたが戻ってきたことですし、ソニアを連れてすぐここを離れますよ」
「私は」
ジルからここを離れなければならないと聞いて、アルが思い浮かべたのはここにきている皆のことだ。教会にいるあの子たちの母親も、ここにきてあの子たちを迎えに来るかもしれない。
それにポポムたちのこともある。
この火事で焼け野原になった街で、皆どうしているだろうか?アルはせめて温かく出迎えてあげたい。
「私はここにいようと思います。気になる子たちもいるので。ジルさんはソニアさんを連れて安全なところに行ってください」
決意を込めてアルは、ジルの顔を見つめる。
「馬鹿な。このままここにいても、危険なだけですよ。もしソニアが起きたら、どう思うと思いますか?」
ジルの言うことも一理あると、アルは思う。
けれど、これだけは譲れない。
それにアルはジルと口もききたくなかった。
アルはジルから顔をそらす。
「あなたは、私に逆らえると思っているのですか」
冷たいジルの声。
アルの腕がどんどん痛くなる。凄まじい激痛に、冷や汗がでてくる。
ジルとアルはにらみ合う。
アルにもプライドがある。負けじとジルを睨むが、あまりの腕の痛みに、めまいがしてくる。
ジルはため息をつくと、アルの目の前に手をかざす。
するとアルの意識がもうろうとして、そのまま倒れこんで、意識を失ってしまった。
「逃がしませんよ、あなたは魔女への生贄なのですから」
そんな不穏な言葉を、遠い意識の底でアルは聞こえたような気がした。
ジルは気を失ったアルを担ぎ上げると、そのまま眠っているソニアの体とともに消えた。
その後、ジルは頭を抱えることになる。
ジルの家は、町はずれにある。ジルの家の隣には森が広がっている。アルはそこから木を持ち出し、勝手に街に戻り、その木で家を建て直し、なんとジルが薦めていた新しい家も買ってしまったのだった。
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