記憶喪失で美醜反転の世界にやってきて救おうと奮闘する話。(多分)

松井すき焼き

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第133話 子捨て山

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登場人物
アル 人間。ただ時々クマのぬいぐるみになっている。
ポポム エルフの子供。
ソル   ソニアの弟の狼獣人


一方そのころのポポムは、アルの家の跡地で待っていた。
アルの家があったはずのそこには、燃え尽きた木の家の残骸があるだけで、すべて燃えたらしくなにもない。ポポム達皆でなんとか焚火をしながら過ごしていた。

 ポポムたちがアルの家の跡地で待っていると、いろんな人間がやってきて、ポポム達にアルの知り合いかとよく聞かれた。
 ポポムがアルの知り合いだと人間に言うと、
アルには世話になったからと、いろんな人間がやってきて、ポポムたちに色々食べ物の差し入れをしてくれた。

「アルさんがいてくれたから、俺たちは救われたんだ」と、どこからかやってきたおじいさんがにこにこ微笑んでいる。
おじさんはポポムに、木の器に水をついでくれる。

「食べるものがない時に、アルさんが俺たちに食べ物をくれたんだ。こんなスラムじゃ、貧乏人はただ死んでいくだけなんだが、アルさんを見て俺らは助け合って生きていこうと思えたんだよ」

ポポムはおじさんの話に頷きながら、アルに会いたいと思う。
焚火にあたりながらポポムはうとうとしていると、夢を見た。

辺り一面燃盛る夢だ。
ポポムはその火から必死に逃げる。

「お母さん・・」
眠っているポポムの目から、涙が一粒こぼれ落ちた。
遠くで狼の遠吠えが聞こえてきて、ポポムは目を覚ます。
起き上がると、瓦礫の上に獣人の少年と狼が、ポポムのことを見下ろしていた。

「おい、お前、ここで何しているんだ?ここは俺の家だぞ」
不機嫌な様子の獣人の少年は、ポポムの方を睨む。
獣人少年のすぐ隣には、灰色の狼がいる。灰色の狼は片目で、具合が悪そうに見えた。

「ごめんなさい。人を待っているから」

ポポムは人見知りなので、少年から目をそらしつつ言う。
ここを家という獣人の少年と、自分の家だと言っていたアルはもしかして知り合いかもしれない。聞いてみようとポポムは思う。

「あの!」

「なんで、こんなところでまってんだよ?お前変な奴だな」
怪訝そうに獣人少年はポポムを見て、それから「まぁいっか」とため息をつく。

「俺の名前はソル。誇り高い狼獣人だ。お前は?耳とんがってんの変なの」

「ぼ、僕の名前はポポム。エルフだよ。変じゃない!」
むっとして、ポポムはソルを睨む。

「まぁいっか。なぁ、お前さ、アルっていう人間知ってるか?」

問いかけられたポポムは首をかしげる。
ポポムが知っているアルは、獣の形をしたぬいぐるみの姿をしているアルだ。人間の姿をしたアルなんて知らない。

「知らない。獣の姿ではなく?」

「そっか」ソルは物悲し気に、俯く。
そして前を向く。
「アルは俺らの大切な家族なんだ。絶対見つけ出すんだ」

「が、がんばって」

「おお。お前いいやつだな。俺の友達にしてやる」
そういってソルは満面の笑みを浮かべた。

一方そのころのアルはといえば、エルフの子供たちに母乳を与えていた。


何故アルがエルフの子供に、自身の母乳を与えることになったのか、その話はアルがエルフの村にやってきたのに、さかのぼる。

あれからエルフ達の村に、徒歩でアルとジルはやってきていた。


「むかし、エルフはこの地よりも遠い大地の、エルフの森に棲んでいました。エルフの土地は種族の争いに燃えて滅び、残り少ないエルフはこの土地に逃れてきたのです。
そもそもエルフの森なんてないこの地で、私がエルフの森を隠匿するなんて、馬鹿馬鹿しい。そもそもないものを盗んだといわれるのは心外です。馬鹿馬鹿しい」
ジルが心底馬鹿にした様子で、そばを歩く他のエルフ達を見る。
エルフ達はジルの言葉に、皆慌ててジルから視線を逸らす。一人ゼノムだけは一人、ジルを睨んでいる。

アルは痛む胸を抱えて泣きそうになりながら歩いていると、子供の泣き声が聞こえてきて足を止めた。
林の向こう側の方に、赤ん坊が木下におかれていた。

慌ててアルは赤ん坊のもとに駆け寄る。
その瞬間小さなネズミに似た動物が、アルに襲い掛かってくる。驚くアル。ジルは氷の精霊魔法で、ネズミを撃ち落とす。

「勝手に動かないでください。このはげ山にも魔物がいるんですよ」
ジルがアルの側にやってくる。

「す、すみません。でも赤ちゃんが」

「ああ。この赤ん坊ですね。どうやらエルフの赤ん坊ですが。
よくいるのですよ。山に赤ん坊を捨てていくものが。ここは別名子捨て山ともいわれています。
今年山の実りが少ないですし、生きていけないから子供を山に捨てていくのでしょう。
エルフの馬鹿どもは生贄ばっかりやって、働き手も少なくなっているだろうし。困った方々ですよ」
ジルの白い視線が、またエルフ達に向かう。
エルフたちは悔しそうな顔でうつむいている。

「エルフの子供を捨てていくなんて許せん!親を罰しないといけんな」
ぷりぷりゼノムは怒っているが、他のエルフはどこか物悲しそうに見えた。

アルは抱き上げて赤ん坊をあやす。
赤ん坊は必死で、アルの胸元を探っている。アルの胸元には母乳が出ている。
いや、しかし・・・。アルは迷っていると、ツォレケルォが「やらないのか?」と、不思議そうに聞いてくる。
「け、けど」
「大丈夫だ。うまかったぞ」
ツォレケルォは悪気なく言う。アルは顔が赤くなりつつ泣きそうになりながら、赤ん坊に母乳をやることにした。

赤ん坊はすぐさまアルの胸に吸い付く。
赤ん坊はおいしそうに、ミルクを飲んでいる。

吸いつかれたアルは、赤ん坊に胸を吸われるのも結構痛いのだなと、母親への感謝の気持ちが生まれる。

遠くで林が動く気配を感じ、そちらを見ると、ひとりのエルフが怯えた表情でこちらを見ていた。そしてすぐさま走り去っていく。

「まっ、待ってください!」
走り去っていくエルフは、この赤ん坊の親かもしれない。アルは慌てて追いかけたいが、赤ん坊が胸にいるので動けない。

ジルはため息を浮かべると、手をかざした。
すると、宙に浮いた先ほどの逃げたはずのエルフが、アルたちの方へと飛んできた。
ジルの魔法は本当にすごいなと、アルは目を見開いた。
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