記憶喪失で美醜反転の世界にやってきて救おうと奮闘する話。(多分)

松井すき焼き

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幕間 狼は雪のなか ソニアの話 5

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アルは、アルだ。ただ生きているだけというのに・・。ソニアはアルのことを、不憫に思う。
ソルやシルカやアルの顔を思い浮かべ、フードで顔を隠しながら近くの屋台で、串焼き肉を何本かお土産に買う。

「ただいま」
ソニアが家に帰ると、アルは鍋をかき混ぜながら「おかえりなさい」と微笑んだ。アルの足元にはソルとシルカがいて、アルのズボンをつかんでいる。シルカは物欲しそうに指を口に入れている。よほどお腹が空いているのだろう。

「もうすぐ晩御飯できますからね」
そうアルは言う。
ソルとシルカが、ソニアに飛びついてくるので、受け止める。

笑顔のアルを見て、ソニアは己の感情を持て余す。
そわそわと落ち着かない、それでいてなんだか獰猛でいるのに、暖かな気持ち。

俺はアルのことをどう思っているのだろう?

ジルがアルを苦しめているのも許せないのはもちろんだが、ジルの印がアルの体にあるのも許せないと感じている。
このソニア自身の気持ちは何なのだろう?
もしかしてソニア自身、アルのことを恋人として惹かれているのか?
ソニアの性対象は、女だ。だがアルは男だ。だが美しいアルを男として抱けると思う。だからこの気持ちは・・・。おそらく・・・。
けれど・・・醜いソニアが、アルに言い寄っても、迷惑だろう。

・・・恋だの愛だのは、すぐに消えてしまうものだ。ソニアはそんなものを、信じてはいない。
どんな形でもアルの側にいられたら、それでいい・・。
ソニアの気持ちは胸の内にとどめたほうがいいだろうと、やはり思う。そうでないと、・・・・・

「ソニアさん?」
不思議そうにアルが、ソニアのことを見ている。ソニアは我に返って、足元にいる弟と妹の頭をなでる。

「いや、何でもない。お土産を買ってきた。皆で食べよう」
ソニアはアルの元へ歩み寄る。
「ありがとう、ソニアさん」
にっこり微笑むアルを見る。

だがそうでないと、・・・・・アルのことを食らいたくなってしまう。

ソニアが抱きたいと愛しいと思えば思うほど、その人を獲物のように思い、その人の肉を食らいたくなってしまう。
ソニア自身がおかしい化け物だった。

大事に思っているのにというのに、その気持ちは叶うことがないものだった。
・・・・・アルのことを誰にもとられたくない。そう思っていることは確かだった。

このあたたかな時間が続けばいい。

アルの嬉しそうな顔を見て、思う。
恋人夫婦家族、そのどれとも違って、どの関係でもどうでもいい。ただアルの側にいれればいい。
家族のシルカやソルとともに守ろうと、心に誓った。

だがそんな幸せな時間は続かなかった。
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