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第143話 エルフの繁殖の仕方
しおりを挟む人気のないところまでゼノムは来ると、ジルに向かってつめよる。
「早く我々の森を復活させてくれ!もう我々に残された時間はない!せめて神の木だけでも復活させてくれ!あれがなければ、我々の純血の子供は生まれない!わかっているだろう!」
「うるさい。黙れ」
「そんな口をきいてもいいと思うのか?」
ゼノムの合図で、複数のエルフが草むらから現れて、ジルを取り囲む。エルフたちがジルを取り押さえようと近づいて来たとたん、エルフたちは一斉に倒れた。
「な、なんだ、何をしたんだ、お前!!」
ジルの後ろから黒い影が立ち上り、その影はやがて女性の姿に形を変える。
「まさか、魔女か!?」
驚愕するゼノムの右腕にすさまじい激痛が走る。
「・・・・うるさい黙れといったはずだ」
静かなジルの声に、ゼノムは苦しみの声を上げて地面に膝をついて、ジルの刻印のある腕を握りしめた。
ジルの背後の影から、女性が浮かび上がりジルの腕を握る。ジルは無表情に、口を開く。
「私の言うことを聞けば、あなたの腕にある私の刻印は、あなたを苦しめることはないでしょう」
「悪魔め」
ゼノムはジルのことをにらみつける。
「そんなに死にたいのか?言葉づかいに、きをつけたほうがいいですね」
「ジ、ジル、どうか許してくれ。早く我々エルフの森の木々の復活を」
ゼノムはジルに向かって、土下座して懇願する。
エルフは、人間と繁殖の仕方が違う。
エルフの繁殖の仕方は神の木の種に魔力と精子で受精して、女性の腹にその種を植え付けて、子供を育てて産む。
エルフの森が喪失して、神の木もない今、人間のように交わりなんとか同族を増やそうとしたが、無理だった。
神の木の種の繁殖方法とは違い、子供は生まれることはあったが、極端に繁殖率が低かった。このままではエルフは絶滅する。
どんどんゼノムの愛する純血のエルフが消えて行ってしまう。
「もう一度言いますが、あのアルという人間を生贄にして、神の木を復活させればいいのです」
「だ、だが・・・」
ゼノムがためらっている。あの人間嫌いのはずのゼノムが・・。
「何をためらっているのです?」
「あのもののが出す乳や花は、我々エルフを回復させるものだ。神の子だとさえ言われている。殺す前に利用してからでも遅くないと思う」
「・・・・好きにすればいい。だがそれも今度の満月の女神が下りる日までだ。その日の満月の夜の祭りの日に、この地には生贄が必要だ。そうすればエルフの木々は復活するだろう」
「それで必ず神の木々が復活するのだな・・」
「ああ。私に逆らうなよ。逆らったら、お前の腕にある私の刻印が、お前の心臓を止めるでしょう・・・」
ジルがゼノムの腕を指さす。すると、ゼノムの腕はずきりと傷んだ。
「わかった。・・・私はどうなっても構わない。ほかの純血のエルフには手を出すな」
「いいだろう」
ジルは後から行くといい、ゼノムといったん別れた。
ジルの背後から現れたのは絶世の美女の姿だった。この世界では不細工に属するのか・・。
くすくす笑う魔女のリリアに、ジルは眉をしかめる。
「ずいぶんと嘘つきねぇー。あのアルとかいう不細工な人間の魂なんて、いらないわよ?私は」
魔女たちにとって醜いものは美しく、美しいものは醜いものだ。
「私の願い事をかなえてください」
底冷えするジルの瞳が、リリアを見る。リリアは人差し指を頬にあてて、首をかしげる。
「童貞の嫉妬?」
「………はい?」
「童貞の嫉妬は怖いわねぇ。あなたの大切な友達なはずの狼の、大切な人さえ殺そうとするんだもの。童貞って怖いわぁ。私がよかったら、あなたの童貞もらってあげてもいいわよ♡」
「くだらないこと言わないでください」
ジルは立ち止まり、神の泉の中心にある大木に触れる。
「もうすぐです。もうすぐあなたを救い出して見せます」
ぽつりと、ジルはそうつぶやいた。
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