細雪、小雪

松井すき焼き

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どこかで戦乱がおき、病や戦で大勢の人間が死んだ。
村で亡くなった者たちを燃やすために死体が一か所に集められた。
死体の山から一人、死んだはずの女の死体が動き出した。女は走り出し、森の方へと逃げて行った。死体が動き出す様子に村人は悲鳴を上げ、その死体の女をもう一度殺そうと鍬や鋤を持って後を追いだした。
逃げてきた死体の女は川で足を水につけた。
何度も死体として生き返る鷹は溜息をついた。
鷹に向けられる人間の言葉はいつも化け物で、いつも必死で逃げなければ、首をはねられてしまう。
鷹の両目から涙が零れ落ちた。死体でも泣けるらしい。
狼のころもよく泣いていたなと、鷹は笑う。
いつになったら赤目と出会うことができるのか?赤目は人間だ。もう死んでいるかもしれない。
もう死んでしまったら出会うこともできない。
そしたら鷹は永久に独りぼっちになってしまう。
近くから鷹を見つけたらしい切羽詰まった人の叫び声が聞こえてきた。
ここももう危ない。
鷹は立ち上がると、走り出した。
今なら赤目の気持ちもわかる。
鬼か、人か。
居場所がこの世にない者たちの名前だ。
鷹は逃げ続ける。
鬼にも人にもなれぬから。だから苦しみ続ける。
ひらひら雪が降り出してきた。足がうまく動かない。凍ってきたらしい。
倒れそうになったとき、誰かに抱きとめられた。
誰だろう?
鷹は目を開いてみてみたかったけれど、目も凍ってうまく開かない。
だが温かさを感じていた。
その人はいつのまにか消え、鷹の体はゆきにうもれていった。
鷹はゆっくり眠りについた。
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