/// Tres

陽 yo-heave-ho

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□陸篇 Catch Me If You Can.

1.05.2 ホームカミング(1)

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「キース」

 …声が聞こえる、俺を呼んでる。
 これは夢だ。だってもう聞こえるはずがない、もう何度も見た夢…

「出来損ないが、サボってんじゃねぇ」
「お前ホント器用だなぁ」
「卑屈っ、ネガティブ!キースのそういうとこ良くないよ!」
「キース、しっかりして」
「もう終わりか?さっきまでの威勢はどうした?」
「お前達二人に、皆助けられてる」
「まだ下がらない…どうしよう」
「これを飲ませて。大丈夫、ただの風邪よ」
「うん、よく書けてる。君にしては上出来」
「お前は強い…本当は負けるんじゃねぇか、不安だった」
「お口が悪いぞキース君」
「え…行っちゃうの?」
「仕事だもの。あなた達はおまけ」
(…うるせぇな…)
「キース、悪ぃ。またおかしくなった」
 …これは夢だ。昔の夢…聞いたことねぇ声、誰だ?
 うるせぇ、もう見せんな…これ以上やめてくれ
「知りてぇ?」
 やめろって…
「お前にゃ教えてやんねぇよ」
(もう…やめろ)

「キース、起きれるか?」
 真っ暗だった視界がぼんやりと明るくなる。身体を触られ、支えられてるのだとわかった。この声は聞き覚えがある。
 待て、ビアンカ…脚が縺れて…引っ張んなよ…
 何かに躓いたのと同時に浮遊感が起こり、腕を支えられながら柔らかなものにぶつかった。どうやら寝転がったらしい。
「ここで休ませてもらって。彼が起きたら、好きにすればいいわ」
「ホントにありがとう!助かったよ」
「んん…私としては、あんな軽装で雪山にいた理由を聞きたいんだけど。誰かさんは怪我してるし」
「あはは…」
「まぁ、それはまた今度にしといてあげる。ちゃんと教えてよ?」
「…わかった。また今度」
 ?…ビアンカと、もう一人。知らない女だ。
 身体に何か…毛布?熱ぃ、でも寒ぃ…瞑ってる眼の奥がぐるぐるする。
 漸く瞼が開けられ、ぼんやりとする視界にいろいろなものが映り込む。一番大きく映ってるのはビアンカだ。
「キース、大丈夫?キース…」
 なんだよ、うるせぇ…静かにしろ…何してんだ?どうなって…
 頭の中にぽつぽつと疑問が浮かぶが、重たい瞼には逆らえずまた閉じてしまい、口に何かを入れられ水が流れてくる。勝手に喉が動き、飲み込む。
 口端から溢れた水を柔らかなものに拭われ、意識がまた沈んでいった──

 ビアンカはパールの宿場の一つに居た。
 夕飯で出してもらったスープをじっくり味わいながら、傍らのキースを見守る。彼は現在高熱を出し寝込み中だ。
 数日前。雪山で遭難しキースが寝こけてしまった直後、目の良いビアンカが光を見つけ必死に駆け寄ったところ、それは山を下る荷馬車だった。二人が生死を彷徨った岩場の近くには道が通っていたのだ。助けを求めるビアンカに応じ二人を荷馬車に乗せ、いつの間にか熱に魘されていたキースを介抱し、ビアンカの傷の手当てもしてパールまで運んでくれたのが、先程まで一緒にいた女である。尤も彼女は本来の仕事のため、早々に何処かへ行ってしまったのだが。
 山の中でキースが教えてくれた。スタンは先に来ているはずだと。ロムのこともあるのでなんとか早く合流したいが、パールはビアンカにとって大き過ぎる街だった。
 バルハラ一と言われる港街。街の何処に居ても潮風を感じられる。ビアンカにとっては心躍る街なのだが、
(キース、早く治ってくれないかな…)
 真横で熱に浮かされる男を思い顔を覗く。ベッドの傍には、寝かせる都合で脱がせたキースの服や道具が山積みで、こんなに持ち歩いてるのかと少し驚いた。回転式銃リボルバーも初めて触った。普通の小銃よりも重いそれは傷や補修の跡が多く、一番気になったのは銃把で、補修し切れていない亀裂のようなものが残っていた。
 折角パールに着いたというのに、キースを置き去りにはできない。彼は何枚も毛布に包まり魘されていて…彼が悪いのか、風邪なんて引かず何事もないビアンカがおかしいのかは、誰にもわからなかった。


 時間を少し戻り──
 ジェラルドはノクシア基地の一角、'閣下'と呼ばれる男の執務室に居た。
 バルハラ軍南部統括長将軍ダグラス・ソロウ。長年南部の指揮権を牛耳り、表立って悪事にも手を染める悪名高き男。その力は南部だけに留まらず、中央本部や元首への影響力も大きい。
 身長はジェラルドのほうが高いが、図体のデカいソロウは踏ん反り返るように腰掛けていて、不機嫌そうな男に対し'氷の男'は終始無表情を貫いていた。
「お前の仕事ぶりは聞いている。ミチェルブルクでの臨時のは、検挙数が上がったと」
「はい…しかし、本来の目的は果たせていません。私の判断ミスです」
「あの忌々しい'こそ泥'を逃したのは問題だが、良い働きだったと報告にはある。良しとしよう…しかし、だ」
 褒め言葉も混ざるが表情は険しいまま。奥方が盗まれた<竜の首飾り>のこともあってだろう。ソロウは手元の紙を持ち上げ、ジェラルドと見比べた。
「先日の討伐作戦でも、取り逃がしたそうだな。二人も」
「はい。申し訳ありません」
「一人は'こそ泥'…邪魔ばかりしおってッ…それで、もう一人だが、女だったというのは間違いないな?」
(…そっちか)
 返事はせず頷きだけ返し、ソロウの出方を窺う。作戦内容を見た時から不審に思っていた点、生け捕りにすべき者が特定されていた。賞金首と女。この賞金首は乱入してきた<獣の盗賊>のことではない。馬車を襲った者と手配書の人相は合致しなかったが、対峙した時に働いた直感と、後になって思い出したこと…
(あれは女だ…それも、あのバカチビと、一緒に行動してる)
 ミチェルブルクの霊苑での記憶。遠目で容姿はわからなかったが、気配に覚えがあった。対峙した際僅かに露わになった本性は、女だ。
 不意に扉が叩かれ、ソロウの返事の後に男が二人入ってくる。ルミディウスと、ジェラルドくらい高身長の軍兵だった。
「閣下、新しい手配書です。'こそ泥'の額を改めました。それから…」
 苛立ちが目に見えるようなソロウにも怖じけず、ルミディウスはいい笑顔だった。彼がチラりと見遣れば、察したジェラルドは黙礼しその場を立ち去った。去り際軍兵と目が合い一瞬の睨み合い。
 扉が閉まるとルミディウスが持っていた手配書をソロウの前に置いた。紙面上の'こそ泥'にまた怒りが湧いたソロウは、鼻息荒く手配書を手の甲で払い落としてしまった。
「閣下のお怒りは重々承知です。誠に申しわ、」
「もういい!…それが話していた奴か?」
 宙を舞い落ちる紙をキャッチし弁解しようとするが、不機嫌な閣下の興味は背後の軍兵へと向く。ルミディウスが目配せすると彼は前に出て、
「仰る通り、例の'協力者'です。やっと来てくれました。これまでの討伐作戦に一役も二役も買った…」
「…ほう?」
 空気が変わる。ソロウは相変わらず眉間に皺を寄せていたが、品定めするように軍兵を眺め、軍兵も会釈し返すと薄っすら笑みを浮かべてみせた。

 ソロウの執務室近く、退出したはずのジェラルドはルミディウスを待っていた。直接の上司である彼にも頭を下げておく必要がある。それにもう一つ気になることも。
 ふと階下の中庭の一角、ある人物が目に入る。それは自身のような黒髪の女性で、軍の基地には似つかわしくない小綺麗な格好で。見覚えのあるその人はルミディウスの義姉クラウディアだった。彼女は只管に中庭の草花を毟っていた。気配に気づいたのか顔を上げ、長い髪の隙間からジェラルドに微笑んでみせる。ジェラルドは会釈だけ返すが、
「ああ、デュレー。待っていてくれたのか?」
「…ご面倒をお掛けしました、申し訳ありません」
「気にするな。<獣の盗賊>には皆が手を焼いている」
 執務室からルミディウスと軍兵が出てくる。開口一番律儀に頭を下げるジェラルドに彼は相変わらずの笑顔だ。三人で階段を下りその場を離れる。
「妨害者の女と<獣の盗賊>は、一緒に行動していると?」
「あくまで可能性ですが、ミホーレスの別邸襲撃も二人だったようです」
「もしそうなら、探しものはセットのほうが楽だろうな」
 中庭まで来るとルミディウスは足を止め、クラウディアに手を振った。彼女は笑顔で駆け寄り人目も気にせず義弟に抱き付いた。まるで犬猫のように頭を擦り付けるクラウディア。ルミディウスも嫌がったりせず、乱れた髪を整えてやるが、二人の異様な光景に周囲の軍兵達の視線が集まる。
 ジェラルドは表情一つ変えず二人を傍観していた。以前会った時も彼女はこんな様子だった。心を病んでいるというのは本当らしい。
「…女は、生け捕りに。もう一人はまだわからんが、詳しいことは'彼'に聞くといい」
「…はい」
「<獣の盗賊>だが、奴はこの際殺しても構わない。額も上がって'専門家'も動くだろう」
「はい」
「だが奴に盗まれた物は、必ず取り戻すんだ。閣下の怒りは暫く収まりそうにない」
「はい。ですが、首飾り以外の金品はすでに、」
「いや、それだけではないよ」
 ルミディウスの手が止まる。クラウディアもチラりと振り返り、藍色の柔らかな瞳と目が合った。
「軍の重要物も盗まれている。これまでもだが、先日やられた件だ。閣下が取り寄せた書簡が運悪く襲われてね」
「…書簡、ですか」
「一式全て大事なものだ。一緒に積まれていた資金も盗まれているが、書簡は機密事項だ。必ず取り戻してくれ」
「わかりました」
 そういえば<竜の首飾り>が盗まれる前、軍の荷馬車が襲われたことを思い出す。同時に盗人であるバカなチビも思い出し、一人苛立ちを抑え込む。
 '彼'を頼むと告げると、ルミディウスは義姉と共に自身の部屋へ行ってしまった。
 残されたジェラルドと軍兵。軍兵がジェラルドの顔を覗き込めば、先ほどとは打って変わり不機嫌さを顕にして、冷たい眼差しに睨まれた軍兵は目を細め笑った。


 キースはまた、夢の中にいた。
 夢というより記憶。昔の思い出…途切れ途切れの最中で呼ばれる自身の名前。
「キース…起きて」
(…またお前か)
「スタンを探してくる、ロムも…すぐ戻るから…」
(勝手にしろ…)
 夢の合間に聞こえたビアンカの声は前よりハッキリしていて、でも答えたり起きる気にはなれず耳だけが働く。
 ──誰かが、呼んでる…
 笑い声、怒った声、呆れた声、喧嘩の時の声、また、笑い声。
 叫び声、雨の日の泣いてる声…
 決まって最後はいつもと同じ場面で、いつものように目を開けた。
「ッ………??」
 身体を起こし辺りを見回す。ぼんやりとした記憶を遡る。此処が雪山ではなく、自身はとりあえず助かったのだとわかった。
 頭がガンガンする。ダりぃ。伸びきった身体が軋む。振り返りベッドを見ると水枕が敷かれていて、熱でも出したかなと考えるが、足りないものに気がつく。ビアンカだ。干したままの服を羽織り、ボサボサ髪を掻き毟り階下へ下りる。どうやら宿らしい。また金減ることしやがって…
 思わず溜息を吐いていると店主らしき男と鉢合わせた。
「目ぇ覚めたかい、よかったよかった」
「あぁ、その…あんたが、助けてくれたのか?」
「違ぇ違ぇ」
「?…もう一人連れがいるんだ。そいつもここに居るか?」
「おぅ。あーぁ?いいや、違ぇなぁ。おらんよ」
「……」
 要領を得ない回答に思わず黙ってしまう。このマイペース過ぎる店主と会話していける自信がない。先ほどの声を思い出す…出かけるようなことを言ってたあれは、確かビアンカのはず。何処をほっつき歩いてるのか、そもそも、
「じゃあ…ここは何処だ?街か??」
「ああ、パールだよ」
 街の名を聞いた途端キースの表情が変わる。なんだか嬉しそうに見えたのは店主の勘違いではない。
 キースは身を翻し、よろけながらも階段を駆け上っていったかと思いきや、荷物や外套を抱え落ちるようにして下りてきて、
「親父さん助かったっ、今金が無ぇから後で届ける!俺んとこは市場の雑貨屋、礼は必ずする、助けてくれた奴にも伝えといてくれ!」
「おぅ…?」
 ボロい木のカウンターにどさっと荷物を置き、幾つもある革袋を目まぐるしいスピードで身体に付けていく。ボサボサの髪もバンダナで綺麗に隠し、言い終わるのと同時に店を駆け出して行ったが、すぐに戻ってきて、
「それから!連れのバカ女が戻ったら、絶対ここに居ろ!!って言ってくれ!後で迎えに来る!伝えといてくれよッ!」
「…おーぅ」
 まるでつむじ風の如し速さ。自身とは違うせっかちな男だが、根は優しそうだなどと呑気なことを考える。
 だが男の言葉に店主はまた首を傾げ…連れの人は女だったか?と思い悩んだ。

 一方、ビアンカはというと。
 …もとい、エド。お気に入りの帽子は無くしてしまったが、自身の髪でつけ髭を拵えていた。半ば興味本位で街に出てみたものの、早々に困ったことになる。迷子だ。勿論宿にも戻れない。
(やっぱりキースが起きるの待ってればよかった…)
 後悔先に立たず。キースの熱は下がっていたが、一向に起きずで飛び出して来たのは、やはり良くなかった。
「お腹減ったぁ…」
 腹の音が盛大に鳴る。朝飯は食べていない上に無一文。どうしたものかと道沿いの港を眺めていると、
「ほら、さっさとしろ!」
「この…無能なたかり屋が…!」
「んな口利いていいのか?」
 波止場の一角で軍兵数人が男を取り囲んでいた。男が何かしたのかと思いきや、どうやら様子がおかしい。
 兵達は一方的に男を嬲り、さらに小袋を幾つか取り上げていた。音からして硬貨のようだ。
「俺らはな、地主さんの代わりに取りに来て、お前の代わりに地主さんに届けてやんの。ありがたく思え!」
「嘘だッ!お前らが勝手に取ってるだけだろ!この…盗人が!!」
「おっ、とと…いけない奴だなぁ、俺らはこの街守ってる兵士だぞ?」
「盗人呼ばわりとは、お前…逮捕してやろうか?」
 一人がにんまりと笑う。噛みつく勢いで睨んでいた男だったが、殴りかかったことで兵達の空気が変わり顔色を変える。兵達は逮捕、ではなく、さらに手や足を上げ男を甚振り始めた。
「あいつら…ッ!?」
 発端はわからずとも見過ごせない状況にエドは飛び出そうとする。が、背後から首根っこを掴まれさらに引っ張られた。何事かと振り返れば、
「よっ。えーっと、いつぶり?」
「!スタン!」
 数え間違えでなければ一週間ぶりの再会。エドは相変わらず酒の匂いを漂わす男を懐かしく思い、つい顔を綻ばせた。


 キースは一人、パールの街を駆けていた。当然だがビアンカのように迷ったりはしない。大通りも入り組んだ細路地も、階段や橋で繋がる家々も、全てが彼の庭と言っていい。
 重かった身体はいつの間にか軽くなり、駆ける脚は時々壁を蹴って近道になる屋根上へと導く。屋根から屋根へ飛び交い自身だけの道を行く。最後に跳ね飛んだ軒先きの眼下には、目当ての市場が広がっていた。
 真昼間でもパールの市場は賑やかだ。バルハラ一の港街は交易が盛んで、行商や露店のための街でもある。行き交う人や馬、家畜を乗せた大きな荷馬車。飛び交う声。粗末な鋳物、他国から流れてきた上等な絹布、お針子達が狭い露店で作り上げる流行りのドレス。食欲をそそる匂いがあれば娼婦御用達の甘い香りも。遠くの教会から時告の鐘の音が聞こえる中、キースは賑やかな市場を進んだ。
「おぉ、キースじゃねぇか!戻ったのか?」
「お前!戻ったなら顔出せよ!」
「…あぁ悪ぃ、後で行く」
「あら、キー坊じゃないの!どこで油売ってたんだい?」
「ドウェインさんが怒ってたぜ、クソガキが遅ぇってなぁ!」
「んなこと言われても、」
「君のこと、金持ち連中も探してたわよ。お弟子さんに頼みたいって」
「ドウェインよりお前さんのが美味ぇんだ、早く巻いとくれ」
「あー…わかったって。戻ったばっかなんだ、ちょっと休ませてくれ」
「キースだ!」「キース、遊ぼ!」
「今は無理、また今度な」
 市場を通るなり店の者達が矢継ぎ早に声をかけてくる。老若男女問わず子供らまで、キースは人気者だった。この状況は大分慣れたが、今回は長く留守にしてたので反応がすごい。
 普段から自他共に無愛想で有名だが、この時ばかりは顔が綻び笑ってしまう。声をかけてくれる皆も彼の性格を知っているが、彼の師匠(らしい人物)の口添えに始まり、同等(か、それ以上)の無愛想もあり、実際接したことでキース本来の根の良さを知った…そんな人達ばかりだ。
 なんとか皆の声に返しつつ、飛びかかって来る子供らを躱し、目当ての方角へ進む。そこは市場の終わりに位置する共同納屋。パールの市場で働く皆の納屋なので広さもある。その中を迷うことなく進み、一角を覗けば、のんびりと草を食むサーシャが居た。思わず溜息を吐くキースだったが、
「テメェ、ここで何してやがる?」
「……スるなよ」
 いつの間にか背後を取られ、後頭部にガチャリと銃口を突き付けられる。しかもその銃は自身のホルスターに差し持ち歩いている回転式銃リボルバーだ。
 緊迫の状況かと思いきや、キースは舌打ちすると腕を伸ばし、銃を捕まえ思い切り引っ張って取り返した。素早く振り返り今度はキースが銃口を向ける…が、相手は不敵な笑みを浮かべ、握っていた物を落としてみせた。銃に詰めていたはずの薬莢が全て干し草の上に散った。
「こんな簡単に盗られやがって…お前大丈夫か?」
「…俺じゃなくて、あんたが異常なんだよッ、このキチガイ手癖のクソジジィ!」
「ふん、負け犬。一生吠えてろクソガキ」
 銃が使い物にならぬとわかり一気に苛立つキース。言葉通り犬のように吠える彼に対し、クソジジィと呼ばれた初老の男ドウェインは、ニヤりと笑い返した。
 ついでにサーシャが頭を乱入させてきて、キースの足元の干し草を食みはじめる。薬莢ごと。
「コラっ、お前も食ってんじゃねぇ!」
「ほぅらほら、サーちゃんはこっちだぞ」
 ドウェインが持ってきた桶を持ち上げ、中身の野菜を出してやる。緑や黄の野菜を目にしサーシャの興味が逸れた。サーちゃん呼びにまたイライラが募り顔を痙攣らせるが、桶を見て気づいてしまう。
 サーシャだけがパールに戻り、ドウェインはそれを知って餌をやりに来てくれた。きっと数日前には戻っていただろう。ドウェインはキース以上と言っていい辛辣さや手癖の悪い老人だが、行きついた考えは買いかぶりではなさそうだった。
「…心配かけて、悪かった」
「遭難したかもって、中毒者が騒いでたぞ」
「スタンも無事か」
「また無茶しやがって、未熟者のくせに。生意気め」
「山で撒こうと思ったら、迷っちまったんだ…」
 目を逸らしながらも素直に謝るキース。ドウェインはサーちゃんの頭を撫でていたが、彼をチラりと見て笑いをもらし、手を伸ばしたかと思いきや、指先で額を思いきり弾いた。いい音がしてキースの呻き声が続く。
「おかえり」
「……ただ、いま」
 二人が出会って数年、恒例になりつつある言葉が交わされた。
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