/// Tres

陽 yo-heave-ho

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□陸篇 Catch Me If You Can.

1.07.1 パール基地潜入

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 港で大捕物があった日の、夜のこと。

 まだ肌寒い風が吹き荒ぶ中、パール基地は軍兵達の当直交代の時間を迎えていた。昼間当番と夜間当番の中隊が変わるこの時間は、いつも基地の門が賑やかになる。
「…あ、おい!お前所属は?」
「第二中隊!急いでます!」
「当番じゃないか、急げよ」
「だから急いでるんですって!」
 駆け抜けて行こうした兵が門番に捕まるが、所属と慌てようから遅刻なのが丸わかりだった。本来なら制服にある隊の刺繍を確かめるのだが、こういったことは見逃し日常茶飯事。遅刻の罰を八つ当たりされても困るので、門番は早々に遅刻兵を通してやった。
 遅刻兵は詰所へ駆け込むかと思いきや、軍兵達の群れに紛れると道を外れ、人気の無い倉庫へ向かい、そこも通り過ぎると暗がりの中へ入り身を潜めた。
「……ラクショー、っつか」
 緩すぎだろ…と一人呆れぼやき、変装用の眼鏡を外す。スタンから借りたはいいが度が強過ぎて早々に疲れてしまった。今の彼は若い男のように前髪を作り、髭は綺麗さっぱり無くなり、耳の傷はそのままだが目の下の傷はまた化粧で隠し、化けていた。
 辺りを窺いながら軍帽を取り出し目深く被る。立ち上がりまた道に出たキースは、そこら中にいるバルハラ軍兵の一人だった。

 ──時は少し戻り、雑貨屋。
 スタンは日没とともに店へ戻った。
「お待たせ……、けむ」
「「おかえり」」
「吸い過ぎだろ」
「うっせ」
「お前らのが中毒者じゃん」
 店に入ると煙が充満していて、犯人は言わずもがな店主と弟子。灰皿が三つほど吸い殻の山に埋もれている。数刻でも二人揃って店に籠もればいつもこうで、スタンは煙たがりながらもカウンターに歩み寄った。
 キースは手に馴染ませた整髪料で髪型を整えているところだった。馴染みの髭は丁寧に剃り落とされ、普段よりもさらに若く見える彼は正直カッコよくて、何処かいい所へでも出かけるような容姿だ。
「相棒、粧し込んでお出かけか?」
「馬鹿言ってんじゃねぇ」
 スタンが揶揄うものならこれである。彼はいつも以上にピリピリしているようだった。
 スタンは苦笑いしつつ隣に腰掛け、カウンターに紙端の束を置いた。拙い紐を解きキースの目の前に広げられたそれらは、文字や図形でびっしりと埋まっていた。
「どっから知りたい?」
「全部」
「言うと思った。けど前に入ってから、大して変わってねぇみてぇ」
「じゃあ新しいの」
「ならこっち…」
 目の前の紙をチラチラと眺めるキース。スタンの手が何枚かを掴み、目の前に動かされる。それは新しい副指揮官の情報(昨夜披露した内容よりもさらに細かい)で、基地内に当てられた彼の執務室に勤務日、彼に関わる隊のことや隊員の勤務当番、現在携わっている仕事。さらには今日のロムの一件を任された中隊についても…
「どう?」
「……相変わらず」
「なに?ほら、言えよ」
「…煽てても何も出ねぇし」
「は~ぁ?んだよそれ」
「違ぇねぇな」
 紙を手に取りしっかりと読み込む。自然と顔が綻ぶが、情報屋が求める言葉は言ってやらない。あからさまに顰め面になったスタンにドウェインの笑いが追い打ちとなる。
「褒めてほしけりゃ…そういう余計なの、止めろよ」
「あ?…!これは、まぁ…いろいろだ」
 キースが手元の紙から視線を外し、じっとスタンの首筋を睨む。そこには赤い腫れが幾つか付いていて、女が苦手なキースでもわかるあからさまな痕跡だった。手で隠し誤魔化そうとするスタンだったが、何故か表情は浮かないもので…まぁ知ったこっちゃないのだが。キースは溜息を吐くと量産した薬莢を革袋に詰めていった。
 この情報量こそ情報屋スタンの真骨頂。彼が本気を出せば、たとえ数刻(実際は半日に近いが)であろうと欲しい情報を手に入れる。
 伝はスタンの深く・広い友人達。その友人達の友人達まで頼ることもあるが、核心を突いた聞き込みをするのはごく僅か。彼曰く互いを守るためで、情報屋の仕事も本当に信頼の置ける人物としかしない。求められれば身体で支払うこともあるらしく(恐ろしくて聞けないが)、さっきのような痕跡が他にもあるのかどうかは不明だ。けれどそうして得る情報はいつも確実なもので、最早魔法とも呼べる代物だった。
「'ラッカム一味'は?」
「あぁ…大分見えた」
 複数ある革袋を一つずつ脚や腰に付けていく。極秘だろうと期待していなかったが、言い淀んだスタンに視線を向ける。
「…まず、ロムだ。ノクシアに運ばれてった。ソロウに首を渡すんだと」
「…そうか」
「一味の討伐は、秘密裏に進めてるらしい。知ってても高官共だけ、同時に他のも進めてる」
「なに?」
「ノクシア離島の砦造り、と、南部近海を警備する艦船隊」
「そんなの…今に始まったことじゃねぇだろ?」
 今更な話に眉を寄せるが、ドウェインが手を止め口を挟み、
「あの禿げ狸、本当に海軍を作る気か」
「あぁ??」「…そゆこと」
 ドウェインの言葉にスタンが頷き返す。
「マジな話だ、前から噂が一人歩きしてたが。それなりの奴口説いて聞いたんだよ」
「…口説いたって、誰を?」
「いいから…ソロウ'閣下'は南部専用の海軍を作りてぇんだと。というか、海軍だけで独立まで考えてるらしい。大っぴらにしねぇのは、出来てから既成事実にしてぇから。で、」
「論より証拠、実力を示す必要があるな」
「割り込むなよ」
「これでも噂好きでね」
「だから、」
「大体読めたぞ、'ラッカム一味'を狙う理由。禿げ狸は、大海賊の首で海軍を完成させようって魂胆だ」
 ドウェインは構わずに皆まで言ってのけ、お株を奪われたスタンは不満気に眉を寄せた。キースは全てが繋がり一際眉を寄せたが、ゆっくりと息を吐き、
「どこまでも欲深ぇ、クソハゲ」
「今に始まったことじゃねぇ、南部名物さ」
「問題は、ロムの言ってた裏切り者だ。誰が協力してんのか…ハッキリさせるべきだろ?」
 三人で顔を見合わす。ドウェインが繕っていたものをカウンターに広げる…それはバルハラ軍の制服だった。
「お前が雑に扱うから、虫喰いばっかだ」
「そのくらい平気だ」
「とか言って、小綺麗にしてんのはどこの誰?」
 揶揄うスタンの頭を叩き、制服の袖に腕を通す。
 今朝決めた、今夜の仕事。ビアンカからしたらお節介かもしれない。だが個人的に気になることもあり腹を決めた。'ラッカム一味'を巻き込んだ騒動の、元凶探しを。
「当番わかるか?」
「第二中隊」
「小隊の組み込みは?」
「前と同じみてぇ」
「なら、ベイノンは休みだな」
「あーそうだ、待ち合わせ場所。結局出るだろ?」
 思い出したように言うスタンにキースは小さく頷く。今夜仕事を終えたら街を出る、ロムとの約束を果たすためにも。
「んじゃ、頼れる奴がいる。もっと前から居てほしかったんだが」
「ロムとあんたの、共通の知り合いって奴?」
「あとビアンカも…ロムのことも、知ってたよ。協力してくれるとさ」
「…大丈夫なんだろうな?」
「あいつは平気、お前が思ってるような奴じゃねぇ」
 ビアンカと先に行ってると付け足すスタン。
 二人の会話を聞きながらドウェインは煙草を取り火を灯した。いつだってこのガキ共は急だと、一人思いながら。


 キースは詰所の一角にいた。
 新米兵を装い、直近の報告書が置かれた棚を物色する。他の兵達が周囲を何度も行き来するが、当たり前のように知らぬ顔。時折声をかけられても当然のように返事をし、上官の兵が現れたら敬礼付きで挨拶を交わした。
 こういう時は堂々としてるほうがいい、断然。木を隠すなら森の中とはよく言ったものだ。が、
(…無ぇ…なんで?)
 眼鏡をずらし裸眼でも棚を確かめる。探しているのは今日のロムの一件。大きな捕り物で軍にとっては大手柄であり、速攻で報告書が上がっていてもおかしくはない。
 だが見つかったのは、昨日自身やビアンカで引き起こした市場の騒ぎの報告書で、それ以降は街の定期巡回のものだけだった。
「あのぅ」
「!!」
 間近で声をかけられ、思わず驚き振り返る。いつの間にか真横に若い兵が立っていて、彼もまたキースの驚き様でびっくりしたのか、ビクっと身体を震わせた。
「…驚かすなよ、いつから居た?」
「ぁ、すみません…そういうつもりじゃなかったっす」
 苦笑いする気配無しの兵──ブラウンは、苦笑いしながらぺこりと頭を下げ、キース越しに報告書棚を見て、
「もしかして、今日の捕り物のやつ、探してます?」
「…ああ…隊長に頼まれて、探してる」
 キースは一瞬迷うが、ブラウンの服の刺繍で昼当番の隊だとわかり、会話を続けながらまた棚に視線を戻した。
「俺もそれ頼まれて、探してて。まだ無いってことは副指揮官殿ですね」
「?そうなのか?」
「はい、内容確認で夕方渡したそうです。で、そのまま…」
「…確認、ねぇ」
「副指揮官殿、真面目っすから。討ち取ったのもあの人だっていうし」
「…らしいな」
 ペラペラと情報を教えてくれるブラウン。今朝の光景を思い出すが苦笑いで誤魔化す。
「ありがとう、助かった」
「届いたら教えましょうか?」
「あぁ、いや。明日出直すよ、あの方ももう休みだろ」
 ブラウンの申し出に首を振り返し、その場を立ち去る。彼の言うことが正しければ、向かうべき先は一つ。キースは頭に叩き込んだ基地の間取りを思い出しながら、ジェラルドの執務室へと向かった。
 ブラウンは去っていた眼鏡の兵を見送ると、棚に向き直り一人思案した。
(あの人、デュレーさんの勤務日を知ってる?ってか、さっき…刺繍、見たよな?)
 棚と睨めっこしながら首を傾げる。
(まさか、同業者?……やめやめ、考えないようにしよ。関わるのももう止めよ…)
 さらにうんうんと一人頷き、ブラウンも彼のように明日頼みにして、本来休みである夜のひと時に戻ることにした。

 キースは基地の中で一番大きな建物へ入った。一階は演習場直結の食堂と、離れ部分に救護室。二階から上は精鋭ら小隊の部屋に資料室、そして二人の指揮官(パールは実質一人)の執務室。
 蝋燭の灯り一つだけが灯された暗い階段を上がり、さらに上へと進もうとするが…足を止め、
(…前と変わってねぇんだよなぁ…?)
 何やらほくそ笑み数段戻り、広めの廊下に出る。
 数年前にも侵入した覚えがある空間と、或る一部屋。彼は人気が無いことをいいことに、少し寄り道することにした。


 その頃、雑貨屋の屋根裏部屋では。
 夜の帳が下り真っ暗になった部屋の中で、小さな灯りが揺れ動く。気を失ってからずっと寝入っていたビアンカは漸く目を覚まし、灯りに目を細めた。
「おはよ、大丈夫か?」
「……」
 灯りの傍にはスタンがいて、穏やかな目と視線が合うが、言葉は返さず。意識がハッキリしてきて記憶も蘇る。キースの拳が思い切り自身の腹に入り、今に至る。心なしか腹が痛み腕で抱えるようにして押さえた。
「痛かったろ?あいつ、女の子にも手加減しねぇから」
「…なんで…何、してたの?どういうこと?」
「何って、別に…」
 苦笑いのスタンに対しビアンカは怪訝な表情。二人もドウェインもあの時何かしようとしていた。あたしにこんなことしてまで、何か隠そうとしてる…彼女の胸は疑心でいっぱいだった。
 ビアンカの様子から察知したのか、スタンは向き直り優しい声で続けた。
「さっきは悪かった、まぁ俺じゃねぇけど。あいつの代わりに謝る。除け者にしたわけじゃねぇんだ」
「……」
「今、キースが出かけてる。俺らもそろそろ出たほうがいい。待ち合わせしたんだ。パールを出て、リンブルに行くぞ」
「…そんなの、この状況で…キースは、何処行ったんだ?」
「……バルハラ軍、パール基地」
「…は?」
「調べに行った。ロムや'ラッカム一味'を嵌めたのが誰なのか」
「!ちょ、ちょっと待って…なに?なんでキースが??」
 思いもよらぬ言葉にビアンカは身を起こし詰め寄った。スタンは冷静なまま話し続け、
「まぁまぁ、あれだ。ようはお節介。山の時もそうだったろ?」
「お節介って…この間はあたしが、金を、」
「んなの口実だよ。あいつ、いつも捻くれてるから。けど思ってるより優しい」
「…待ってよ、なんだよそれ!キース一人なのか?!危険じゃないか!」
「そこは心配いらねぇさ。なんたって<獣の盗賊>だからな」
 スタンはにっと笑ってみせるが、ビアンカは何度も首を振った。朝のロムのことが脳裏を過る。敵陣に一人で行くなんて無謀、ロムを殺したキースの知り合いだっている…ビアンカの脳内は一気に慌ただしくなり、巻き込んでしまった罪悪感や不安やらが芽吹き、すぐさま急成長した。
「落ち着け、大丈夫。なっ?兎に角支度してくれ、そんなに余裕はねぇぞ」
「……着替える、から…先に降りてて」
 スタンは頷くと一人下へ降りて行った。
 ビアンカは困惑する頭を落ち着かせながら、どうすべきかを考えた。このままスタンの言うことを聞くべきなのか、お節介で単独行動するキースに任せておくべきなのか……
 色々なことが頭を過ぎり、キースの言葉も思い出す。"今出来ることをやれ"という言葉…冷静さが欠けている自覚はあるが、人任せにする気もなく。
 ふと、何処からか隙間風の音がし振り返る。寝泊りしていたのに今まで気づかなかった。ガラス戸で閉じられた小窓ではなく、別のとこ。部屋を見回し灯りを向けて、音の発生源を見つけ、決心した。

 一人で降りてきたスタンにドウェインは修理仕事の手を止め向き直り、
「起きたか?」
「ああ…着替えるってよ」
「もう少し騒ぐかと思ったがな」
「意味わかんねぇって顔はしてた」
「…だろうよ」
 スタンは苦笑いしなが溜息をもらした。キースなりに彼女を守ろうとしたのはわかるが、腹を殴ったと聞いた時点で思う所あり、である。説得や連れて行くのも任されたとあらば、溜息の一つや二つは出てしまう。
 荷物も纏め終え、荷馬車を連れて来ようと考えるが…頭上からバタンドタン!と物音がし、間髪入れず店全体に駆け足のような音が響いた。思わずドウェインと顔を見合わせる。
「…お前、天窓教えたか?」
「いや……ッ」
 ドウェインの言葉にはっとし梯子を駆け上がるスタン。ドウェインも店の扉を開け外を確かめれば、二人共想定外な事態に眉を寄せた。
 屋根裏部屋では棚や荷物が見事に散乱し、天窓を塞いでいた蓋代わりの鎧戸まで寝転がっていて、さらに居るはずの姿が見当たらず。一方、通りでは駆けて行くビアンカの背が見え…二人は舌打ちと悪態をもらした。


 寄り道した部屋を出てまた階段を上っていく。さっきよりも腰周りの荷物が増え、ぱんぱんに膨れた袋が一つ。それは時折金属音を鳴らしながらキースと共に横に揺れ動いた。
 キースが立ち寄ったのは第一小隊の部屋。主に街の警備や巡回指揮を任されているベイノンの隊だ。キースが持ち出したぱんぱんの袋は金が詰まったものであり、彼はこの部屋に決まってそれがあることを以前から知っていたのだ。
 階段の合間で兵達とすれ違う。カモフラージュ用の本や書簡(これまた勝手に拝借した)のお陰か怪しまれることはなく、ここまで至って順調。問題は目当ての部屋であり、休みとはいえ不在かどうかまでは不明だ。
 人の気配がめっきり無くなった上階の一室。キースは一つの扉に聞き耳を立て、そっとノブを回してみるが、お決まりの如く閉まっている。もう一度辺りの様子を窺ってから、しゃがみ込み書簡を置くと、革袋から針金を掴み鍵穴に突っ込んだ。数本を使い弄れば秒もかからずカチャリと音が鳴り、再びノブを回すと少しの音を立てながら扉が開いた。
「…失礼しまーす」
 誰に言うでもなく呟いた顔はニヤついていた。素早く中へ入り後ろ手でそっと扉を閉め、帽子を脱ぎ眼鏡も外す。
 今宵のメインディッシュ、'知人'のジェラルド・デュレー専用執務室へ到着。
 唯一ある大きな窓は既にカーテンが閉じられ、厚手の布なのが功を奏す。自前の燐寸で机上の蝋燭に火を灯しぐるりと見回す。どれだけ時間があるかはわからない、だが手ぶらで帰るつもりはない。いざとなったら荒らすかなどと考えつつ、キースは机に積まれた書簡から手を付けた。

 ジェラルドの執務室に入ってから、どのくらい経ったか。何度か見た時計は然程進んでおらず、だが目当ての物も中々見つからず、徐々に気持ちが焦っていく。
 机の次は引き出しの隅々まで確かめるが、見つけたのは別件の報告書ばかり。唯一見つけたのはロムの件の報告書で、彼の持ち物や当時の様子が事細かに記されていた。明け方頃に街の外れで軍兵と遭遇したロムは、あの騒ぎまで追い回されていたとわかった。
(どこだよ?…そもそも、あるのか?)
 一抹の不安が過ぎる。ここまで来たのだ、報告書以外にも手がかりが欲しい。
 この部屋の主は机や部屋を散らかすタイプではない。異動して間もないこともあり荷物は少なく、キースは眉間に皺を寄せまた部屋を見回した。
「……」
 何度目かの時刻確認。置き時計がある本棚は空っぽで、だが数冊の本が並べられていた。その内の一冊が少しだけ棚からはみ出ていることに気がつき、燭台を手に近寄る。
 はみ出た本を取り出してみると、奥に布のような物を見つけ、
「マジかよ…!」
 布を掴み引っ張り出す。折り畳まれたそれを捲れば、中身は見覚えのある首飾り。ロムが身につけていた青い輝石の首飾りだった。何故こんな所に置いてあるのか、というか隠してた?疑念と勘が働き、はみ出ていた本をペラペラと捲ってみる。と、栞のように挟まれた細長い紙が数枚現れた。

『そのまま続けてくれ  ビアンカは必ず、連れ戻せ』
『パールからノクシアへ  3月23日、明け方  ティシアーノ  沿岸の道  ビアンカは殺すな、捕まえろ』

 一枚は血付き。内容からロムが持っていたものだと思う。もう一枚の日付け入りは、今日の日付。ロムを名指しな上、行き先や通ろうした道までもが記されている…これだ。書いた主はわからないが充分な手がかり。思わず紙を握る手に力が入る。どちらもビアンカのことが書かれていて気になったが、折り畳みポケットにしまう。本を戻しかけ、ロムの首飾りも持っていくことにした。あの泣き虫がこれで元気になるといいんだが。
 他に目ぼしい物は無く、潮時だと判断する。キースは帽子を被り蝋燭を吹き消すと机に面と向かい、ナイフで斜めに三本傷を刻み付けた。
「異動祝いだ…ありがたく思え」
 吐き捨てるように呟き、足早に扉へと向かう。さっさと基地を出て待ち合わせ場所に行かなくては。狙われてるのはロムだけじゃない、ビアンカも、
「動くな」「っ…」
 扉を開け一歩踏み出た瞬間だった。
 カチャリと音がし、身体が固まるのと同時にしまったと思ってしまう。目深く被った帽子の視野でも見える──頭に突きつけられた小銃と、不機嫌丸出しのジェラルドが。
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