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□海篇 The Pirates and Secret Treasure.
2.06.1 ペンダント
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出航まで、あと一日と少し。
夕餉の時間になるが皆支度で忙しなく、昨夜のような楽しい時間にはならず。さらに昼間から行方不明となっているビアンカも戻って来ずで、彼女と仲の良い者達は心配していた。
ビアンカの失踪…というか行方晦ましは、彼女が大頭と喧嘩した時に必ず起こることだった。
「もしかして、常習?」
スタンの問いに頭三人は黙ったまま頷いた。毎回島からは出ていないようだが、何処に隠れているのか未だ解明されていない。ラッカム一味の七不思議のようなものだった。
「あいつ何したんだ?」
「大頭は黙りだし」
「今回のは納得できねぇ。ちゃんと理由も言わねぇで…それに急過ぎ、明日だぞ?」
三人は眉を寄せ話し合っていた。ラッカムとビアンカの喧嘩は昼間の内に噂が回りスタンの耳にも入ってきて、そして頭達に正式に伝えられた内容は、ビアンカを報復作戦から外したというものだった。
「…なぁお前、何か知らねぇ?」
「……」
スタンは飯を腹に入れながら隣に声をかける。しかしキースは聞こえていないのか無視なのか、何も答えずだった。
キースは朝のことを思い出し、ラッカムの言う事を聞いてしまっている現状に苛立っていた。
「!おい…キース」
早々に食べ終え、一服もせず一人集会場を離れる。夏虫の鳴く道を進みながら、何処かにビアンカがいるのではと姿を探した。
「…直った?」
「微妙…これじゃあな」
「暴発?」
「それも怖ぇけど、いい加減バラバラになりそう」
深夜、ネロの部屋にて。
一人部屋になってしまったそこで弟コンビは一緒に時を過ごし、互いの武器の手入れをしていた。
キースは回転式銃の修理を進めていたが、銃把から続く亀裂はそのままで、人間用の包帯でガッチリと留めた程度…応急処置ともいえない状態は不安でしかなかった。
「そっちは?」
「大分いいかも。ナイフもやろうか?」
「俺のはいいよ、ありがとな」
剣を研いでいたネロが刃を灯りに翳してみせる。細くしなやかな剣越しに目が合う。
「上手くいくよな…?」
「…ビビんなよ」
「こんな大きいの、初めてだからさ」
「…相手は軍だしな」
「海の何処で出会すか、わかんねぇし。嵐だったら?向こうの数が増えてたら…何もわかんねぇ」
「……」
「他にもさ…おかしなことにならねぇか、心配なんだ」
「…それでもこの一味なら、簡単には負けねぇだろ」
ネロが正直な気持ちを呟き、キースも無理に煽ったりせず静かな声で返す。
彼の言っている意味がわかる。海賊であろうと怖いものはあって、それと必死に戦いながら本来の戦いにも臨む。飲み込まれてしまえば未来はなく、死ぬだけ。それに最後の言葉が意味することも…ネロも裏切り者の残党がいると勘づいているのだ。
「やめやめ!ごめん、縁起悪ぃな」
ネロは何度も首を振り、笑顔を作ると胸元で輝く石を握った。
「俺達なら勝てる。兄貴なら絶対そう言うね」
「確かに。つーか、今の聞かれたら殴られんじゃね?」
「あぁ、それはあるかも…」
言って二人して笑いを堪え、最後に一服してお開きとなった。小声でおやすみと伝え合い、部屋を後にする。居住区は松明も殆ど消え頭上では満天の星が輝いていた。
水車小屋を越えて真っ直ぐに部屋へ向かう。歩きながら煙草を咥え燐寸を擦ろうとした時、灯りが消えた集会場から人影が出てくるのが見え、咄嗟に身を隠すが…
(……あいつ)
影の正体はビアンカで、彼女はキースには気づかず足早に林道へ入って行った。何処に隠れているのやら彼女のことが気になり、キースも後を追った。
真っ暗な林を抜け島の西側へ向かう。そっちには何も無いはずなのに、ビアンカは慣れた足取りで茂みを進み、そして崖沿いを進んでいく。
切り岸に打ち寄せる波の音と強めの風のお陰で足音が掻き消される。不意にビアンカが足を止め周囲を見回すが、キースの姿は茂みが隠してくれて、彼女は誰にも見られていないと思い込み、大きな松の木を探った。木にはロープが巻かれており、彼女はそれをしっかり握るとゆっくり崖下へ降りていった。
そっと下を覗けばビアンカの姿は見えず、張っていたロープも緩む。生憎飛び道具は無く、キースもロープを伝い下へ降りてみる。
ロープの先は崖の途中の大きな岩場に届き、上からはわからなかったが小さな洞穴もあって、灯りが漏れるそこを覗くとビアンカがいた。
「!!…ビックリした、何してんの?」
「こっちの台詞だ阿保、こんなとこに隠れて…」
突然現れたキースにビアンカは肩を跳ねさせ驚いて、キースは苦笑いをもらした。
この洞穴はビアンカが子供の頃に見つけて以来、彼女だけの秘密の場所だった。皆には黙ってて!と頼まれ(縋り付く勢いだった)、呆れながらも頷き返す。
「皆心配してんぞ。ガキか」
「色々あるんだ…」
「…朝、ラッカムと揉めてたろ」
「!見たの?」
「少しな。お前、喚いてたし」
朝のことを少しだけ話す。ビアンカに言い渡された内容も一味全体に知れ渡っていると告げると、彼女は動揺し俯いてしまった。ラッカムの部屋に侵入していたことはバレてなさそうで内心ほっとする。
「未熟者って言われた…親父の言う通りだ。二人を巻き込んで、危ない目にも遭わせたから」
「なんだ、しおらしいな?」
「ホントのことだ。ちゃんと受け入れてる、つもり。これから活かしてかなきゃダメだろ…けどこんな直前に、留守番とか…」
水筒に入れてきた夕飯のスープを飲みながら、ビアンカは深く息を吐きまた俯く。しっかり反省している彼女はラッカムに認めてもらえてないと思っているようで、本当の理由を伝えてしまおうか迷ってしまう。と、
「……大事なもんなのか?」
「?…あぁ、これ?」
「偶に弄ってるから」
「そう、大事なもの…両親の形見」
焚き火越しに指を差す。ビアンカは無意識だったのか胸元のペンダントを握りしめていて、手の中で輝くそれを見せてくれた。
「お前、本当の親は?」
「いないよ、顔も知らないし…あたし修道院で育ったんだ。諸島の小さなとこ。あたしみたいな孤児が他にもいて、リンとジュリーも一緒に暮らしてた」
そして形見だというペンダントは、幼い彼女とともに預けられた物らしい。
「5歳くらいの時に親父と会って、あたしも二人も拾ってもらったんだ。行き場のない子や若い人を親父が誘って、そうして出来たのがラッカム一味…最近はやらなくなって、ヴァンのが最後かな」
「あの人が?拾う?」
「そう。意外?」
「っつか…海賊になるのを条件に、だろ??」
「そうだな、けど楽しいよ。皆も此処に来て暮らしがマシになったって言ってるし」
「…そーですか」
顔を綻ばせ笑うビアンカとは対照的に、キースは苦笑いどころか大海賊の意外過ぎる一面に眉を寄せた。あのジジィが孤児院の真似事とは…ティシアーノ兄弟の経緯も思い出し、自然と溜息がもれた。
「あぁ、でね、これは島を出る時にシスターが渡してくれた。形見だ、って。親父にも大切にしろって言われて、怒られたこともある…まぁ、お守りみたいな物かな」
話を戻したビアンカはペンダントを見つめた。二十年近く一緒に在るそれは所々傷つきくすみ、本来なら開くはずが錆のせいで開かず、ただの銀の塊と化していた。
「大事なもんなのに、壊れてんのか」
「ん、ずっと。開いたことない」
「…見せてみ」
「!直せる?」
「誰に言ってんだ見習い」
興味が湧いたキースが手を差し出すと、ビアンカは目を輝かせすぐにペンダントを渡してきた。
焚き火を前にし、二人並んでペンダントを眺める。よく見れば純銀のようで高価なものだろう。だが蓋の縁が錆塗れで互いにくっ付いてしまっていて、さらに留め具があるはずの溝も剥き出しで、違和感を覚える。
「…余計に壊したり、したか?」
「そんなことしないよ!…でも、よくぶつけちゃうから」
ビアンカがはっとして眉を寄せたが、キースは腑に落ちないようだった。錆び付きは経年だとしても、開かずの壊れた物を預けるだろうか?本当に純銀なら開かずでも売って金にしろということなのか…
謎のペンダントに頭を巡らせるが、手のほうが疼いて仕方なく、キースはポケットから針金を何本も取り出すと指(十本全て使う勢いだ)に挟み、錆の隙間を探り始めた。
「「……」」
どのくらい時間が経ったか。
二枚貝よりも硬い錆に苦戦する。修理というか解錠というか、ハッキリ言えばただのゴリ押し。焚き火の熱でじんわり汗ばんでも二人共無言だった。
時折呟き程度の指示が出て、ビアンカも手や指を貸し手伝う。段々と錆が削れ剥がれ蓋が持ち上がり、針金が三本中に入り込む。
「…あ?」
「?」
最後に留め具用の溝に挿し込み、気がつく。てっきり留め具の破片があるかと思いきや、溝の中は空のようで、針金の先が簡単につまみ代わりになり、
「「!開いた!」」
カチリと音がした途端、蓋全体が浮き上がり開いた。
二人は思わず声を上げるが、いつの間にか頭同士が近づいていたことに気がつかず、思い切りぶつけ合った。
「!ぃ"ッ、た…」「!~ッ"てぇ…」
互いに痛みに仰け反った拍子、ペンダントが落ちて中身が出てしまう。
ビアンカは目の前を転がっていく赤いものを掴もうとして…動きを止めた。
「……」
「こ、の石頭!!おいっ……?」
キースが顳顬を押さえながら睨みつける。が、ビアンカは落ちて完全に開いたペンダントを見つめ呆然としていて、どうしたのかと思い覗こうとするが、
「開けてくれてありがと…あたし部屋戻る。火消しといて」
「…は??」
まるで隠すようにペンダントを掴みポケットにしまうと、ビアンカは水筒や鞄を肩に掛け穴を出て行こうとした。
「ちょ、なぁ…何か入ってたのか?」
「…なーんにも、空っぽ!おやすみ」
振り返りそう言うと、彼女は本当に出て行ってしまった。
急に静かになり、吹き込んでくる風の音が妙に煩く、そして彼女がまた無理な笑い方をしていたと気づき、眉を寄せる。
「なんだあいつ…わけわかんね」
思わず舌打ち付きでぼやく。ペンダントの中を見たビアンカの様子は明らかにおかしかった。きっと中に何かあったのだろう。
中身が気になりモヤモヤするが、言われた通り焚き火を消そうと薪を岩場の下へ蹴り捨てていく。ふと穴の奥で何かが煌き、近づいてみると正体は赤色の綺麗な石で、来た時には無かったと思い拾ってみる。
「宝、石…か?」
薄暗くなってもわかる輝き。ただの石ころではなく宝石のようで、丸く平たい形はビアンカのペンダントのようだった。
崖の上に戻り林を駆け抜ける。居住区まで来て軒の影に隠れ、乱れる息を必死に整える。ビアンカは辺りを窺いながらポケットに手を入れ、そして止めた。
さっきのはなんだったのか…何かの間違い、そう見間違いだ。見て確かめれば…見ないと。間違いだったと確かめて…
警鐘のように頭の中が喧しく、胸が騒つく。
結局ペンダントを出し月明かりの下で眺めてみる。そういえば他にも何か入ってた、赤くて丸い石みたいな、けどそれよりも…
「…………」
ビアンカはやはり見間違いではなかったとわかり、それでも自身の部屋へ戻るべく、ふらつきながらも歩き出した。心臓がやけに煩く痛い。頭がグラグラする。ポケットに突っ込んだペンダントがもう二度と開かないように、強く強く握りしめる。お陰で手まで痛い。
(冗談でしょ、違うよこんな…わけわかんない…違う、違う違うッ…間違いだよきっと…絶対、違う)
人違い、というか、形見違いだと思う。シスターが間違えたのかも。開かないから確かめられなかった、うんそうだ。
誰かに相談したいと考えるが、真っ先に思い浮かんだのはラッカムで、思わず眉を寄せ奥歯を噛み締める。どうしよう…話したくない。けど…聞きたい、いや、聞きたくない……
ビアンカを困惑の渦に引き込んだペンダント。
その蓋の内側には、緻密な文字で、
"ベアトリス=アンヌ・アルムガルド 我が娘に、鍵を贈る"
と、彫られていた。
夕餉の時間になるが皆支度で忙しなく、昨夜のような楽しい時間にはならず。さらに昼間から行方不明となっているビアンカも戻って来ずで、彼女と仲の良い者達は心配していた。
ビアンカの失踪…というか行方晦ましは、彼女が大頭と喧嘩した時に必ず起こることだった。
「もしかして、常習?」
スタンの問いに頭三人は黙ったまま頷いた。毎回島からは出ていないようだが、何処に隠れているのか未だ解明されていない。ラッカム一味の七不思議のようなものだった。
「あいつ何したんだ?」
「大頭は黙りだし」
「今回のは納得できねぇ。ちゃんと理由も言わねぇで…それに急過ぎ、明日だぞ?」
三人は眉を寄せ話し合っていた。ラッカムとビアンカの喧嘩は昼間の内に噂が回りスタンの耳にも入ってきて、そして頭達に正式に伝えられた内容は、ビアンカを報復作戦から外したというものだった。
「…なぁお前、何か知らねぇ?」
「……」
スタンは飯を腹に入れながら隣に声をかける。しかしキースは聞こえていないのか無視なのか、何も答えずだった。
キースは朝のことを思い出し、ラッカムの言う事を聞いてしまっている現状に苛立っていた。
「!おい…キース」
早々に食べ終え、一服もせず一人集会場を離れる。夏虫の鳴く道を進みながら、何処かにビアンカがいるのではと姿を探した。
「…直った?」
「微妙…これじゃあな」
「暴発?」
「それも怖ぇけど、いい加減バラバラになりそう」
深夜、ネロの部屋にて。
一人部屋になってしまったそこで弟コンビは一緒に時を過ごし、互いの武器の手入れをしていた。
キースは回転式銃の修理を進めていたが、銃把から続く亀裂はそのままで、人間用の包帯でガッチリと留めた程度…応急処置ともいえない状態は不安でしかなかった。
「そっちは?」
「大分いいかも。ナイフもやろうか?」
「俺のはいいよ、ありがとな」
剣を研いでいたネロが刃を灯りに翳してみせる。細くしなやかな剣越しに目が合う。
「上手くいくよな…?」
「…ビビんなよ」
「こんな大きいの、初めてだからさ」
「…相手は軍だしな」
「海の何処で出会すか、わかんねぇし。嵐だったら?向こうの数が増えてたら…何もわかんねぇ」
「……」
「他にもさ…おかしなことにならねぇか、心配なんだ」
「…それでもこの一味なら、簡単には負けねぇだろ」
ネロが正直な気持ちを呟き、キースも無理に煽ったりせず静かな声で返す。
彼の言っている意味がわかる。海賊であろうと怖いものはあって、それと必死に戦いながら本来の戦いにも臨む。飲み込まれてしまえば未来はなく、死ぬだけ。それに最後の言葉が意味することも…ネロも裏切り者の残党がいると勘づいているのだ。
「やめやめ!ごめん、縁起悪ぃな」
ネロは何度も首を振り、笑顔を作ると胸元で輝く石を握った。
「俺達なら勝てる。兄貴なら絶対そう言うね」
「確かに。つーか、今の聞かれたら殴られんじゃね?」
「あぁ、それはあるかも…」
言って二人して笑いを堪え、最後に一服してお開きとなった。小声でおやすみと伝え合い、部屋を後にする。居住区は松明も殆ど消え頭上では満天の星が輝いていた。
水車小屋を越えて真っ直ぐに部屋へ向かう。歩きながら煙草を咥え燐寸を擦ろうとした時、灯りが消えた集会場から人影が出てくるのが見え、咄嗟に身を隠すが…
(……あいつ)
影の正体はビアンカで、彼女はキースには気づかず足早に林道へ入って行った。何処に隠れているのやら彼女のことが気になり、キースも後を追った。
真っ暗な林を抜け島の西側へ向かう。そっちには何も無いはずなのに、ビアンカは慣れた足取りで茂みを進み、そして崖沿いを進んでいく。
切り岸に打ち寄せる波の音と強めの風のお陰で足音が掻き消される。不意にビアンカが足を止め周囲を見回すが、キースの姿は茂みが隠してくれて、彼女は誰にも見られていないと思い込み、大きな松の木を探った。木にはロープが巻かれており、彼女はそれをしっかり握るとゆっくり崖下へ降りていった。
そっと下を覗けばビアンカの姿は見えず、張っていたロープも緩む。生憎飛び道具は無く、キースもロープを伝い下へ降りてみる。
ロープの先は崖の途中の大きな岩場に届き、上からはわからなかったが小さな洞穴もあって、灯りが漏れるそこを覗くとビアンカがいた。
「!!…ビックリした、何してんの?」
「こっちの台詞だ阿保、こんなとこに隠れて…」
突然現れたキースにビアンカは肩を跳ねさせ驚いて、キースは苦笑いをもらした。
この洞穴はビアンカが子供の頃に見つけて以来、彼女だけの秘密の場所だった。皆には黙ってて!と頼まれ(縋り付く勢いだった)、呆れながらも頷き返す。
「皆心配してんぞ。ガキか」
「色々あるんだ…」
「…朝、ラッカムと揉めてたろ」
「!見たの?」
「少しな。お前、喚いてたし」
朝のことを少しだけ話す。ビアンカに言い渡された内容も一味全体に知れ渡っていると告げると、彼女は動揺し俯いてしまった。ラッカムの部屋に侵入していたことはバレてなさそうで内心ほっとする。
「未熟者って言われた…親父の言う通りだ。二人を巻き込んで、危ない目にも遭わせたから」
「なんだ、しおらしいな?」
「ホントのことだ。ちゃんと受け入れてる、つもり。これから活かしてかなきゃダメだろ…けどこんな直前に、留守番とか…」
水筒に入れてきた夕飯のスープを飲みながら、ビアンカは深く息を吐きまた俯く。しっかり反省している彼女はラッカムに認めてもらえてないと思っているようで、本当の理由を伝えてしまおうか迷ってしまう。と、
「……大事なもんなのか?」
「?…あぁ、これ?」
「偶に弄ってるから」
「そう、大事なもの…両親の形見」
焚き火越しに指を差す。ビアンカは無意識だったのか胸元のペンダントを握りしめていて、手の中で輝くそれを見せてくれた。
「お前、本当の親は?」
「いないよ、顔も知らないし…あたし修道院で育ったんだ。諸島の小さなとこ。あたしみたいな孤児が他にもいて、リンとジュリーも一緒に暮らしてた」
そして形見だというペンダントは、幼い彼女とともに預けられた物らしい。
「5歳くらいの時に親父と会って、あたしも二人も拾ってもらったんだ。行き場のない子や若い人を親父が誘って、そうして出来たのがラッカム一味…最近はやらなくなって、ヴァンのが最後かな」
「あの人が?拾う?」
「そう。意外?」
「っつか…海賊になるのを条件に、だろ??」
「そうだな、けど楽しいよ。皆も此処に来て暮らしがマシになったって言ってるし」
「…そーですか」
顔を綻ばせ笑うビアンカとは対照的に、キースは苦笑いどころか大海賊の意外過ぎる一面に眉を寄せた。あのジジィが孤児院の真似事とは…ティシアーノ兄弟の経緯も思い出し、自然と溜息がもれた。
「あぁ、でね、これは島を出る時にシスターが渡してくれた。形見だ、って。親父にも大切にしろって言われて、怒られたこともある…まぁ、お守りみたいな物かな」
話を戻したビアンカはペンダントを見つめた。二十年近く一緒に在るそれは所々傷つきくすみ、本来なら開くはずが錆のせいで開かず、ただの銀の塊と化していた。
「大事なもんなのに、壊れてんのか」
「ん、ずっと。開いたことない」
「…見せてみ」
「!直せる?」
「誰に言ってんだ見習い」
興味が湧いたキースが手を差し出すと、ビアンカは目を輝かせすぐにペンダントを渡してきた。
焚き火を前にし、二人並んでペンダントを眺める。よく見れば純銀のようで高価なものだろう。だが蓋の縁が錆塗れで互いにくっ付いてしまっていて、さらに留め具があるはずの溝も剥き出しで、違和感を覚える。
「…余計に壊したり、したか?」
「そんなことしないよ!…でも、よくぶつけちゃうから」
ビアンカがはっとして眉を寄せたが、キースは腑に落ちないようだった。錆び付きは経年だとしても、開かずの壊れた物を預けるだろうか?本当に純銀なら開かずでも売って金にしろということなのか…
謎のペンダントに頭を巡らせるが、手のほうが疼いて仕方なく、キースはポケットから針金を何本も取り出すと指(十本全て使う勢いだ)に挟み、錆の隙間を探り始めた。
「「……」」
どのくらい時間が経ったか。
二枚貝よりも硬い錆に苦戦する。修理というか解錠というか、ハッキリ言えばただのゴリ押し。焚き火の熱でじんわり汗ばんでも二人共無言だった。
時折呟き程度の指示が出て、ビアンカも手や指を貸し手伝う。段々と錆が削れ剥がれ蓋が持ち上がり、針金が三本中に入り込む。
「…あ?」
「?」
最後に留め具用の溝に挿し込み、気がつく。てっきり留め具の破片があるかと思いきや、溝の中は空のようで、針金の先が簡単につまみ代わりになり、
「「!開いた!」」
カチリと音がした途端、蓋全体が浮き上がり開いた。
二人は思わず声を上げるが、いつの間にか頭同士が近づいていたことに気がつかず、思い切りぶつけ合った。
「!ぃ"ッ、た…」「!~ッ"てぇ…」
互いに痛みに仰け反った拍子、ペンダントが落ちて中身が出てしまう。
ビアンカは目の前を転がっていく赤いものを掴もうとして…動きを止めた。
「……」
「こ、の石頭!!おいっ……?」
キースが顳顬を押さえながら睨みつける。が、ビアンカは落ちて完全に開いたペンダントを見つめ呆然としていて、どうしたのかと思い覗こうとするが、
「開けてくれてありがと…あたし部屋戻る。火消しといて」
「…は??」
まるで隠すようにペンダントを掴みポケットにしまうと、ビアンカは水筒や鞄を肩に掛け穴を出て行こうとした。
「ちょ、なぁ…何か入ってたのか?」
「…なーんにも、空っぽ!おやすみ」
振り返りそう言うと、彼女は本当に出て行ってしまった。
急に静かになり、吹き込んでくる風の音が妙に煩く、そして彼女がまた無理な笑い方をしていたと気づき、眉を寄せる。
「なんだあいつ…わけわかんね」
思わず舌打ち付きでぼやく。ペンダントの中を見たビアンカの様子は明らかにおかしかった。きっと中に何かあったのだろう。
中身が気になりモヤモヤするが、言われた通り焚き火を消そうと薪を岩場の下へ蹴り捨てていく。ふと穴の奥で何かが煌き、近づいてみると正体は赤色の綺麗な石で、来た時には無かったと思い拾ってみる。
「宝、石…か?」
薄暗くなってもわかる輝き。ただの石ころではなく宝石のようで、丸く平たい形はビアンカのペンダントのようだった。
崖の上に戻り林を駆け抜ける。居住区まで来て軒の影に隠れ、乱れる息を必死に整える。ビアンカは辺りを窺いながらポケットに手を入れ、そして止めた。
さっきのはなんだったのか…何かの間違い、そう見間違いだ。見て確かめれば…見ないと。間違いだったと確かめて…
警鐘のように頭の中が喧しく、胸が騒つく。
結局ペンダントを出し月明かりの下で眺めてみる。そういえば他にも何か入ってた、赤くて丸い石みたいな、けどそれよりも…
「…………」
ビアンカはやはり見間違いではなかったとわかり、それでも自身の部屋へ戻るべく、ふらつきながらも歩き出した。心臓がやけに煩く痛い。頭がグラグラする。ポケットに突っ込んだペンダントがもう二度と開かないように、強く強く握りしめる。お陰で手まで痛い。
(冗談でしょ、違うよこんな…わけわかんない…違う、違う違うッ…間違いだよきっと…絶対、違う)
人違い、というか、形見違いだと思う。シスターが間違えたのかも。開かないから確かめられなかった、うんそうだ。
誰かに相談したいと考えるが、真っ先に思い浮かんだのはラッカムで、思わず眉を寄せ奥歯を噛み締める。どうしよう…話したくない。けど…聞きたい、いや、聞きたくない……
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KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。
日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。
アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。
「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。
貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。
集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。
そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。
これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。
今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう?
※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは
似て非なる物として見て下さい
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