/// Tres

陽 yo-heave-ho

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□海篇 The Pirates and Secret Treasure.

2.06.2 推理と幸運

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「……くそ……」
 ビアンカの隠れ家を見つけた翌朝、キースは眠れずにいた。
 朝でも強い夏の陽が部屋を明るくし、大きく開けた窓からは殆ど風が入らず、暑い。何よりも気になることがずっと頭の中で巡り動いていて、眠気など一切起こらない。
(あいつは、なんか見た。ペンダントの中身。見て様子がおかしくなって…何が入ってた?すんげぇ気になる…)
 キースはビアンカのペンダントのことが気になっていた。詮索はされるのが好きじゃないからするのも好きじゃない、が、蓋を開けた途端変わった彼女の態度は気がかりでしかなく、原因であろう中身に好奇心が擽られた。
「…………っ」
 暑い、暑過ぎ。ダメだ全然眠くねぇ…
 目を瞑り意識を飛ばそうとするが出来ず、諦めて身体を起こす。部屋には丸一日非番の自身のみ。スタンは午前中だけ仕事で不在。ビアンカは結局部屋に戻ったのかわからずで、話せる相手もなくぼんやり考えを巡らせる。
 結局持ってきてしまった赤い石を指の間で転がす。綺麗な紅色が朝陽に反射し煌めいた。
(これも、中身だった。まぁ仮定だけど…本物だろうし高そうだ。これに驚いたわけじゃ………ん?)
 眺めていて漸く気がつく。価値がありそうな宝石。美しく輝く紅色…似てる、というか、同じでは?
「は……!?」
 声をもらし、キースは慌てて鞄を漁った。


 その頃──居住区近くの飼育小屋では。
 今日はジュリー一人の当番で忙しいはずが、掃除や餌やりはほぼ終わり、あとは放牧した動物達を見ていればいいだけで…何故こんなに早く終わったかと言うと。
「悪いね、手伝わせて」
「いいの…匿ってもらってるし」
 道具を片しながら声をかけると、ビアンカは首を振り笑ってみせた。仕事の殆どは彼女が頑張ってくれて助かったのだが、ジュリーは少し心配になる。
 朝起きると寝床にビアンカが戻っていて、ジュリーもレイチェルも驚き顔を見合わせた。ビアンカは寝つけなかったようで顔色が悪く、このまま頭三人に報せるのもどうかと思い、女子の絆を発動し今に至った。ジュリーの心配を他所に彼女はランランと遊んでいて、思わず苦笑いする。体調が悪いというわけではなく、思い当たる節は一つ。
「どうする気?出発まで時間無いよ?」
「…ん…」
 朝にも触れた話題。元気がない理由は彼女が行方晦ましをした理由と同じ、今夜からの報復作戦のことだ。
「親父とちゃんと話しな」
「ダメ…話したくない。けど…」
「…いつもは親父相手でも楯突くのに」
「……ちょっと、ね」
 溜息を吐き地面に座り込んでしまうビアンカ。ランランが遊んでほしそうに頭を食もうとして、ジュリーは首紐を引っ張り遠ざける。隣に座り覗き込めば、ビアンカは地面を睨み…なんだか思い詰めているようだった。
 さてどうするか。喜怒哀楽がハッキリした妹分だがこんな顔は初めて見た気がする。このまま匿い続けるのも無理があるし…
「……そうだ!ねぇ、いいこと思いついた」
「?」
 はっとし声を上げたジュリーにビアンカも顔を上げ、直後、姉代わりの彼女が告げた言葉に目を丸くした。


 一方、キースは…
(ウソだろ…いや、ぇ、マジ??マジで…ホントに柘榴石?)
 手の中の赤い石と<竜の首飾り>を交互に見る。何度も繰り返し光に翳しては凝視して、遠目にも見比べ、同じ結論に至る。恐らくこの石は、<首飾り>と同じ柘榴石だ。
(…本当に、ホンモノ?!くっそこんな時ドウェインがいたら…一味にわかる奴、ダメだ、裏切り者だったらマズい…!)
 <首飾り>を握ったまま悶々と考える。自身ではしっかりとした鑑定が出来ず陸の師匠を思い出してしまうが、色硝子でもなさそうな石は偽物だとも思えなかった。
 この石が本物の柘榴石だと仮定する…ビアンカのペンダントに入っていた理由は?本物なら価値がある、彼女への財産として入れられていたのか。ならやはり返さないと。
「あ…そういえば、あの蓋…それに錆も…」
 ペンダントのことを思い出し、昨夜の記憶も蘇る。
 僅かながら感じた違和感。ペンダントの蓋の留め具は、自然に壊れたものではなく人為的。つまり誰かに壊されたようだった。気づいてすぐに開いて頭をぶつけて、すっかり忘れていた。
(わざと壊して開かないようにされたペンダント。錆も付いたんじゃなく、付けた。自然にあんな付き方しねぇよな…柘榴石を隠すため?本物ならそこまでする価値はある、か。それに壊したのは…)
 次に蘇ったのはラッカムの顔で、思わず溜息する。ビアンカが語ったペンダントの話にあの大海賊も出てきた。大事にするよう怒ったらしいが…中身を知っているからではと推測する。
(あのジジィ、やりそうだな。ん?じゃあなんで<首飾り>は……そうか、スタンが先に盗ってたから気づかれなかった。ってことは一歩間違ってりゃこれも盗まれてた?ざけんな畜生…)
 煙草に火を点け、咥えたまま寝転がり天井を睨む。どの道スタンに盗まれたのはあれだが、兎に角無事に取り返せてよかった。
 赤い石を持ち上げ翳し、煙を吹きかける。疑問はまた振り出しに戻り、ペンダントの別の中身について考える。推測というか憶測というか、或いは妄想か。想像の域を出ないのだがこういう頭の使い方は好きで、少し期待してしまう。まるで宝探しだ。
「なんだ…なんだなんだなんだ?あとは何が入ってる??お前、一緒に入ってた物は…?」
 物言わぬ石に話しかけ自嘲する。答えが返ってきたら苦労しない。よく見れば石の内部に傷のようなものがあり、価値が下がるなとぼんやり思う。
 灰が胸元に落ちてしまい、灰皿を探すが見当たらず。手探りに探していると鞄がひっくり返り中身まで溢れ眉を寄せるが…
「…ぁ…?」
 見つけた灰皿に重なるように鞄から飛び出た地図が広がり、太陽の光とは別のものが照らし、ぼんやりと何かが現れ、驚く。
 正体は赤い光で、それは煙草と一緒に持った石が光を受け反射したものだった──が、先ほど見つけた傷が要因なのだとわかり、キースは血相を変えて飛び起き煙草を灰皿に投げ入れた。


 昼休憩になり、集会場が賑やかになる。
 いつもの賑やかさとは別に騒めきが起こり、それは一日ぶりに姿を現したビアンカが原因で、苦笑いする彼女を頭三人が取り囲んだ。
「お前、またっ…何処で何してた?」
「うるさい、ちゃんとアジトにいた」
「なぁビアンカ、作戦のことで隠れてたんだろ?」
「……」
「大頭の言うことでも今回は急過ぎる。俺らからも相談するから、」
「留守番、するよ」
「あぁ、留守番して……へ?」
「は??」「あ??」
 冷えたスープを貰いながら言葉を交わす四人。思いがけない返答に三人は目を丸くし固まるが、ビアンカは笑っていて、
「親父の言うこと聞く。正論言われちゃったし…直前でバタバタするのも良くないだろ、そのほうがいい」
 そう言うと一人テーブルに行ってしまい、チラチラと様子を窺っていたスタンとゼスの間に混ざり、何事も無かったように食事を始めた。
「…なぁ、ビアンカちゃん、」
「ちゃんやめろ」
「お前らしくないな、どうした?変なもんでも食って頭おかしくなったか」
「今から食べるんだけど」
「おいおい…本当にいいのか?」
「しつこいなぁ。らしくない、とか…子供じゃないし…いいの!」
 スタンとゼスも困惑気味で、構わずに飯を頬張る彼女をまじまじと見つめた。
「待てよ、ビアンカ!」「本当にいいのか!?」
 リンとオーウェンもやって来て顔を覗くが、ビアンカはジロりと睨み返すだけで…男達は顔を見合わせた。
 リンは向かいに座るビアンカをじっと見つめ頭を巡らせた。本当にらしくない。いつもなら親父相手でも反抗し、真っ向からぶつかるくせに…何か企んでる?とにかくわからん!
(なんでこんな聞き分けいいんだ…??)
 この後もビアンカは皆に声をかけられるのだが、留守番していると答え続け、ずっと視線を送ってくるリンに中指を立ててみせた。


 その頃、キースは…
 床に地図を広げ陽差しに石を翳し、必死に赤い光を当てていた。
「クッソ…角度か?ハッキリしねぇ…!」
 手を伸ばしたり引いたり、石の向きを変えてみたり。光が内部の傷を通って地図を赤く染め、描かれた道とは別の白い道が現れる。
 持っていた別の地図でも試したが、道が現れるのはラッカムが描いたアルムガルドの地図だけで、赤い石とこの地図が揃って起こる仕掛けなのだと解り、最初は顔を綻ばせたのだが、
(こんな仕掛けが…なんで?だから取り返そうとした?なんでビアンカがこの石を?つーかなんなんだよこれ…兎に角、これは…)
 この地図も石も、アタリ──
 信じてみた可能性が当たった。この地図にはこんな秘密が隠されていた。赤い石もビアンカのペンダントを開けていなければ、もっと言うと彼女と出会っていなければ、今ここまで辿り着けていない。
(「ただの趣味だ、深い理由なんて無い…ほら、あれだよ。ロマンってやつ。男ならわかんだろ?」)
(そうだな、ロマン。あんたの言う通り…なぁ、もしかしたら……もしかするかも!)
 記憶の声に答え、滲む汗を拭い逸る気持ちを抑える。執念…いやいやこれは、幸運だ。
 陸を出る時、本当に当たりだとは思ってなかった。トラブルメーカーな女海賊が危なっかしくて…認めたくはないが放っておけなくて。二人には黙っていたがそんな理由もあって付いて来た、のに、
「ふっ、はは…!すげぇ…!!」
 段々と角度が読めてきて、微妙な加減で光を凝縮していく。
 赤い光の中から現れる秘密の道。道というか蜘蛛の巣のようで、それは主要な街を覆うように点在し、繋がり合っていた。
 待ってくれよこんなの、期待しちまうだろ。アルムガルドの地図で、こんな仕掛けって…地図描きでも有名なあのクソジジィは、とんでもねぇもんを作ってた!何を隠してる?これは何の道だ?俺の予想通り?なぁ、もしかして…!

「キース、今い…っ!」「ッ!??!」
 突然、半開きだった扉がノックされ返事を待たずに開けられて、ビクッと反応したキースは咄嗟に床に伏せ地図や石を隠した。
 入って来たのはジュリーで…彼女はマズい時に来てしまったのかと思い、慌ててそっぽを向いた。
「……ごめん、取り込み中、だった?」
「っいや、その…………なに?」
 何故か床に寝そべり顔を赤くしているキースをチラ見する。半裸だけど、男のあの時間では無さそうだ。ジュリーは大丈夫だとわかると苦笑いして、
「お昼、早く来な。全部食われるよ」
「…あー、そっか。悪ぃ」
「あと、ネロが探してた。置いてく弾薬のことで相談したいって」
「わかった…すぐ行く、から…」
「……なにしてたの?」
「なんでもないです、いいからッ…ありがとな…!」
 段々と気になり目を細め覗いてくるジュリーに、キースは顔を痙攣らせ立ちはだかり、部屋の外へ追い出ししっかりと扉を閉めた。最悪…集中し過ぎて(夢中と言うべきか)気配に気づかぬとは。見られてはない、はず。ギリギリ!たぶん大丈夫…
「……マジ?だよな……」
 扉の前でしゃがみ込み、じっと床を見つめる。自然と頬が緩んでしまい手で押さえるが、心はもう抑え切れず、先ほどのワクワクした気持ちが蘇ってくる。
 また問い質さねば、ラッカムを。ビアンカ悪ぃ、石は暫く貸してくれ──
 キースはほくそ笑み翠の瞳を輝かせながら、散らかしたままの地図と赤い石を眺めた。
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