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陽 yo-heave-ho

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□海篇 The Pirates and Secret Treasure.

2.06.5 ラッカム一味の危機(2)

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「いたか?」
「いねぇ!クソガキが…!」
 その頃、アジトでは。
 裏切り者達が手分けしてヴァンを探していたが、少年は一向に見つからず、彼らは焦りはじめていた。
 <金狼のフランシス>及び'ごっこ一味'は全員生捕り、ソロウへ引き渡す予定だ。子供一人取り逃したところで大丈夫な気もしたが、完璧主義者のオーウェンに知られてしまったら、危ういのは自身らだった。
「マズいぞ、気づかれ……?」
 一人が舌打ち辺りを見回す。と、何やら音が聞こえ気配を探る。それは人ではなさそうで、しかも複数…
「!!なぁ"あ!?」
 真っ暗な茂みから現れたのは牛や山羊の群れで、一味に飼育されている動物達が取り乱した様子で突進して来た。そして最後に現れたロバ──ランランの背にはヴァンが乗っており、少年は一気に混乱に陥った裏切り者達へ銃を放った。
 ヴァンとランランは牢房の家まで駆け抜け見張りの裏切り者も撃ち倒す。捕まった者達は急に表が騒がしくなり眉を寄せたが、扉の鍵が開かれ目を丸くした。
「「「ヴァン!」」」
「早く出て、また来るかも!三人、殺したッ、あと何人いるかは…」
 驚く皆を他所にヴァンは声を上げ、しきりに外の気配を窺った。さっきの銃声で残りの裏切り者達に気づかれたかもしれない。急がなくては。
「おいヴァン!鍵取ってくれ!」
「っ……」
 レスターに呼ばれ一瞬ビクりとするが、手当てされた仲間達の様子を見て確信し、言われた通り外壁に掛けてあった枷の鍵を投げ渡してやる。彼が裏切り者ならここに入れられてるはずはないし、皆の手当てなんてするはずもない。
 歩ける者達は急ぎ外へ出て、意識を取り戻したフランツはレスターが支え脱出し、近くの家を漁り武器になりそうな物を取る。残りの裏切り者達の姿は見当たらなかった。
「ヴァン、待て」
 辺りを警戒するヴァンをゼスが捕まえる。少年はまたビクついて、よく見れば小さな顔や腕は傷つき血が出ており、そして震えていた。
「ありがとよ、助かった…もう大丈夫だ」
「……ゼス、おれ…ッ」
 頭を撫でて抱き締めてやると、ヴァンはボロボロと泣き出してしまった。
 少年は海での戦いのように武器を取り、戦った。仲間である者達と。そして殺してしまったことに、心を痛めていた。


「準備は?」
「もう少し、荷物も途中」
 オーウェンは旗艦に戻り、ジュリーへ何かを確かめていた。それはアズーロのこと…
 アズーロは今、積んだばかりの食糧が旗艦に移され、甲板中に火薬が撒かれているところだ。全員生け捕るのはさすがに難しく、そしてヘルブラウの船員への見せしめとして、この場で殺すために。
「目的は首だろッ、全員じゃねぇはずだ!こいつも関係ねぇ!なんの恨みか知らねぇが巻き込んでんじゃねぇ!」
 キースが叫ぶ。彼の言うこいつがビアンカだとわかり、オーウェンは首を振った。
「お前らは結局首になるけど、欲しいのは別だ…お前は閣下から盗んだ地図。で、そっちは頭ん中に入ってるお宝」
「!?」
 オーウェンの指がキースとラッカムを順に差す。さらにソロウが口を挟み、
「その老いぼれは、<王族の時計>を隠した張本人だ!アルムガルド王家と結託してな!他にも宝が隠されているはずだッ、全て吐かせてやるから楽しみにしておけ!」
「ッ、は…?」「!!」
 <王族の時計>──確かに言った。
 キースは驚き目を見張ったが、頭の中では一つの確信を得ていた。偶然解き明かした地図の秘密。あれはアタリで、マジで大アタリ…アルムガルドが描かれたあの面白い地図は、期待した通り<王族の時計>と繋がってる…!
 …ならば赤い石は?
 思わず顔を動かし、石が入っていたペンダントの持ち主を見遣る。ビアンカはオーウェンを見据えたまま固まっていて、揺れ動く青い瞳は怯えているようだった。
「お前、地図のこと何か知ってんだろ?ジュリーから聞いたぜ」
 オーウェンに足で小突かれ睨み返す。ジュリーはやはりあの時盗み見ていたようで、油断し切っていた自身が恨めしくなる。
「地図には仕掛けがある。老いぼれめ、何を仕組んだか知らんが…他にも解る奴がいるなら話が早い!」
「へへ…だってさ。いっぱいお喋りしてくれよ。首だけになるの、免れっかもなぁ?」
 満足気なソロウと一緒にニヤニヤと笑うオーウェン。キースが唸り声を上げるが、彼の目は別のものを捉えていて、
「…で、お前だ」
 指を差したのはビアンカで、彼女はつい目を逸らしてしまう。
「こいつのことは俺もわかってねぇ。宝には絡んでそうだが。いいタイミングで出てったロマーノと迷ってよぉ、けどあんたが逃がそうとしたのはあいつじゃなくて、このガキ…紛らわしいことしやがって。教えてくれよ大海賊さん、お気に入りのビアンカに一体何の意味がある?」
 そう言うとオーウェンはラッカムに目配せした。
 唯一わからない存在、ビアンカ。今更だった彼女の陸修行を怪しみ鳩を横取りしてみれば、本当はテオディアへ行くよう言いつけられてたのだとわかった。バルハラの何処に居るのかわからず最初は苦労したが、遣い途中だったロムと陸で知り合った二人のお陰で、この通り捕まえることが出来た。
 ラッカムは殺気を顕にし、人でも殺せそうなくらい鋭い眼で息子を睨みつけていた。それでもオーウェンは相変わらず笑顔で嘲っているようだった。
「あニ、きッ…もう、やめろ!!」
 不意に声が聞こえ振り返る。ヘルブラウの甲板に、死んだと思われたリンが立っていた。とはいえ足元は覚束ずフラフラで、咳き込んだ口元は血で汚れていた。
「なんで…わかんね、よッ…ずっと皆で、やってきたじゃねぇか!'ごっこ'って、なんで…なんで?!兄貴が言うんだよ!!」
 軍兵や裏切り者が慌てて捕まえる。
 リンの服は胸元が大きく真っ赤に染まっていて、普通ならとっくに命を落としているはずだった。ビアンカも彼の姿が見え顔を歪めるが、
「…バケモノ。気持ち悪ぃ」
 呟きが聞こえ視線を向ければ、オーウェンが蔑むような目でリンを見ていた。
 彼は徐に歩き出すと旗艦のランプを取って、
「そうだなぁ、リン。お前の言う通り!皆一緒に、仲良く楽しく、ずーっとやってきた!」
「?…オーウェン、待って」
 ジュリーが察して呼び止めようとするが、彼は構わずにアズーロへ向かって行き、
「……で、だから?お前には一生わかんねぇよ」
 橋に乗りリンに笑いかけると──ランプをアズーロの甲板へ投げ入れた。
 ガシャン!とランプが割れ、撒かれた火薬に火が回る。捕まった仲間もまだ残っていた裏切り者も声を上げて、居合わせた軍兵まで巻き込まれる。火は瞬く間に燃え広がり、アズーロの甲板が地獄絵図に変わった。
 ヘルブラウからも声が上がり、叫び声が飛び交う。焼かれて悶え苦しむ仲間達の名を叫ぼうとも、もう間に合わない…
「やめて!いやぁあッ!スコットぉ!!」
 レイチェルの悲痛な声が甲板に響く。火達磨になった何人かが船縁を越え、真っ暗な海へ落ちていく。その中にはスコットの姿もあって…落ちた彼らは泳ぎ逃げることも叶わず、焼け焦げた身体が暗い海に消えていった。
「ッのクソ…クソクソッ、クソがぁあ!!」
 リンが声を上げ力づくで暴れようとする。押さえ付けられても彼の怒りは止まらず。オーウェンは一人声を上げて笑い、燃えるアズーロを眺めていた…が、
「!」
「何をしてる、予定と違う…うちの者も巻き込まれた…!」
 いつの間にかジェラルドが背後を取り、首筋に剣を押し当てる。薄らと切り傷を付けた刃は持ち主同様静かに怒っているようで、面白味が増す。
「すいませーん。つい」
 熱くなっちゃって、と、オーウェンはただ苦笑い一つで返した。


 その頃、アジトでは。
 フランツ達は島用に残された武器と砲弾や火薬を掻き集め、坂道を下っていた。
「なぁマジで!やんのか!?」
「冗談だと思うか」
「けど!この人数で、」
「やるんだよッ、皆が危ない!助けなきゃ!」
 青い顔で反対するレスターをヴァンが遮り、ランランの尻を叩き速度を上げる。
 逃走に気づいた裏切り者達は返り討ちにした。あと二、三人残っているが、そいつらは岸壁にいるらしく捨て置いて、今向かっているのは北だ。
「どこまで直った?」
「知らねぇッ」
「ビアンカは?!」
「知らねぇ!俺に聞くなッ」
 ゼスやヴァンに問われつい怒鳴り返す。思い切り殴られた頭はまだ痛ぇし、正直冷静になり切れねぇ…こんな最悪な状況だが、ただ一つ解ることがある。
「今ここにいる奴だけ信じろ!いねぇ奴が心配でも捨てろ!情で動いたら殺られる…わかったかッ!!いいな!?!」
 そう怒鳴るとフランツは血が滴る額を拭い、足を早めた。
 彼らは北側の入江、コバルト号を目指していた。沖から砲撃音などは聞こえず、強くなった風の音しかしない。裏切り者達が自身らを生け捕ろうとしたことも踏まえ、一味の二隻もゼスが見た艦船隊もまだ島の近くにいると予想した。奴らに立ち向かうにはこれしかない。
 修繕の進捗、もっとリンから聞いときゃよかった…フランツは怒りと混乱で熱くなりっ放しの頭で、そんなことを考えていた。


「地図はどこだ?お前が持ってんだろ」
「…ッ…」
 戻り、旗艦では。
 オーウェンがキースの顔を覗き込み、地図の在り処を聞き出そうとしていた。キースは何も言わず唇を噛み締め睨み返すだけで、歯軋りまでする口の端からは血が滲み出ていた。
 反抗心たっぷりの眼差しにオーウェンは溜息をもらし…ビアンカを捕まえる。
「言え!<虎の眼>!」「!ぅあ…ッ」
 力任せに髪を引っ張り首を絞め上げる。今まででは考えられない乱暴な手つきに声を上げてしまうビアンカ。踠き暴れようとする頭に小銃が突き付けられ、さらに首が絞まる。
「待て!!」
 キースが声を上げ、二人の目が合う。ビアンカは顔を歪めながらも止めろと呟くが、
「………ズボン…右の、裾」
「ッ、ダメ…キース!」
 観念したように俯き、答えてしまう。離れた位置で睨み見ていたラッカムが舌打ちをもらした。
 オーウェンが顎で示し、ハリソンが歩み寄る。これまで何度と追いかけっこをしてきた二人が間近で睨み合うが、キースの鋭い眼は怒りが籠っていて、ハリソンはつい目を逸らし言われた場所を探った。手が布とは違うものに触れた時、
「!?わ"っ」
 キースが身体を振り、ハリソンへ思い切り頭突きを喰らわせ──またもや縄抜けしていた彼は、そのままハリソンを押し倒し左脚の裾を破く。出てきたのはネロから譲り受けた西世界の小型銃で、引っ掴むと間髪入れずに引き鉄を引いた。
「ッ、ぐ!」
 弾は見事にオーウェンの腕を捉え、ズレた銃が火を噴くがビアンカには当たらず、緩んだ腕から彼女を奪い取る。
「キース…!?」「お前…ッ!」
 ビアンカは足が縺れ引っ張られるままで、ジェラルドが怒りを顕に駆け寄って来る。軍兵や裏切り者達が響めき捕まえようと飛びかかってくるが、キースは一発切りで使い物にならなくなった銃を振るい、体術も繰り出し抵抗した。
「…たら、…れ」
「え…?っ!」
 耳元で何やら囁かれお尻がゾワっと鳥肌立つ。こんな時になにを…!?!
 理解が追いつかないビアンカを庇いながら、キースは必死に頭を働かせていた。
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