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アルトレイラル(迷宮攻略篇)
ヴィンセント・コボルバルド 1
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「イツキ! そっち行ったぞ‼」
「了解!」
冒険者の忠告通り、右前方から魔獣が接近するのが解った。
死人から拝借したのであろう装備を身に着け、刃こぼれをしまくってノコギリのようになった剣を振りかざすトカゲ人間。目は爛々と赤く光り、話が通じる相手じゃないことは明白だ。
《ゲイザー》――俺たちの世界で一番近いモンスターはリザードマン。見た目こそ違えども、危険度はさほど変わらない。
俺の後ろにいるのは支援隊。それほど高価なポーションではないが、無くなってしまえば戦況は少なからず悪化してしまう。ここで荷物を捨てるわけにはいかない。
右手を引き出す。キンッという木刀にしては不釣り合いな残響が耳に残る。オドを練る、肉体強化を施した身体が、そのスペックを何倍にも跳ね上げる。
ここまで、実に二秒。それが終われば、トカゲとの距離は二メートル。
刃が、奇声を上げた。
俺の刀が、振り下ろされた剣の腹を削る。下から振り上げた斬撃が、トカゲの攻撃を受け流す。刀という支えを失い、必然的に向こうは俺へと倒れこんでくる。剣を握る腕も、俺も目の前へと運ばれてくる。
刀の軌道は、左斜め上への斬り上げ。
向こうの身体は、右下へと滑っていく。
当然、
「――らあぁッ!」
いつかは、衝突する。
《――――――ァァァァァアッ‼》
声を、金切り声がかき消した。
俺たちが交わったのは、ほんの一瞬。すぐさま俺は後方へと飛び、リザードマンも、大きく飛び退き俺から距離を取る。俺の足元には剣が転がっている。それを確認し、右腕を押さえる。ようやく何かが足りないことに気が付き、俺へと殺意を向ける。だが残念、俺が持っているわけじゃない。
俺たちの中間を、千切れた腕が舞っていた。
剣はとっくに零れ落ちている。肘から先が完全にそろったパーツが、空中を舞っている。それを目でとらえ、リザードマンの目が血走る。
腕が落下し、ぐちゃりという音を立て砕けた。
《――――――――ッツ‼》
「うるさいなぁ。さっさと来いって」
激昂するリザードマンを、さらに煽る。千切れた腕の近くに剣を投げ、来いよとゼスチャーで刺激する。言葉は解らなくても、これくらいすれば伝わるだろう。
案の定、リザードマンは挑発に乗った。金切り声を響かせ、俺へと突進してくる。その奇声を、納刀しながら受け止める。
身体を落とし、大きく踏み込んで突進する。同時にオドを刀に練りこむ。大気のマナが共鳴し、鞘の中で鈴虫が鳴き、蛍がこぼれだす。走った後ろには、光の線ができる。
わざわざ剣を渡したのは、動きを鈍くし、加えて予想しやすくするためだ。腕の攻撃ならいざ知らず、剣の攻撃パターンならある程度に絞ることはできる。それに、剣は当たてだけじゃたいしたことはない。体重を掛けなければ、剣はただの鋭い包丁だ。どこか向こうへと弾き飛ばせる。
互いの距離が肉薄する。
残り――一メートル半。
リザードマンが、剣を振り上げる。俺は、大きく踏み込み身体を沈める。
左わき腹を見せるように大きく身体をひねる。青い輝線が、大きな円弧を描く。
発動するのは、一瞬で勝負がつく単発スキル。沈み込む体重と回転を利用し大きく相手を切裂くカタナスキル。
その名は《斬風キリカゼ》。
大きく円を描く刀が、眩むほどの青を湛えて左上から右下へ。
リザードマンの肉体を、肩口から腰にかけて真っ二つに分断した。
「…………」
身体は分断している。核が身体から千切れ、足元に転がっている。間違いない、絶命している。もうこいつが、生き返って俺を襲うことはない。
見た限り、周りに魔獣は見当たらない。索敵に行っていた冒険者と目が合った。向こうが、頷いて剣を納める。どうやら、どこかに魔獣が隠れていることもないらしい。
ゲームとは違い、魔獣が地面から浮き上がって来て奇襲されるといったことはない。索敵が正しく機能しているならば、この辺りにいる魔獣はもういないということになる。
――……よし。
「ふぅー……」
息をつき、納刀する。オドを消費したとき特有の倦怠感が、わずかに身体を重くする。
カタナスキルは、魔術よりもはるかに燃費が悪い。鍵がないのに、無理やり扉をこじ開けるようなことをしているに近い。俺が使えているのは、常人に比べ数倍以上のオドがあるからだ。といっても、今回は威力と速さ全振りという、かなりオドの消費が激しい技を使ったのだから仕方がないことだが。
「よう。大丈夫そうだな」
「はい。こっちはなんとか」
動かない俺を心配してか、冒険者の一人が歩いてきて声をかけた。やとわれ冒険者のリーダー的存在の男。むき出しの筋肉が、俺の背後で熱いくらいに空気を温める。
「死体なら放っとけ。迷宮が喰ってくれる。核だけは持って帰れよ」
「いえ、それは解ってるんですが……」
「あ? じゃあどうしたんだよ。ぼうっと突っ立って――」
視線を俺のものと合わせ、見ているものを共有する。
そして、
「……あー、そういうことか」
俺が見ているものを見て、同様に言葉をひっこめた。
「この魔獣は?」
「いねぇな。この辺りじゃ見たことねえ」
リザードマンは、元々この環境にはポップしないモンスターだ。ゲームの情報を使うのならば、出てくるのは砂漠。そしてこの魔獣もリザードマンと同様、乾燥に強い表皮に覆われ栄養を蓄えるこぶが付いている。ゲーム同様に、砂漠に生息するものと考えてもよさそうだ。
悩むように、男は頭をかく。どうしたものかと数秒の間思案。その後口を開く。
「死体、保護するぞ。それからイツキ。お前ぇ、飯食ったら俺と来てくれ」
「……それって」
食後には、攻略会議があったはずだ。そして、彼も参加することになっている。付いて来い、その言葉が意味することは、すでに察することができる。
「攻略会議で喋ってくれ。お前が見たことを、全部」
「了解!」
冒険者の忠告通り、右前方から魔獣が接近するのが解った。
死人から拝借したのであろう装備を身に着け、刃こぼれをしまくってノコギリのようになった剣を振りかざすトカゲ人間。目は爛々と赤く光り、話が通じる相手じゃないことは明白だ。
《ゲイザー》――俺たちの世界で一番近いモンスターはリザードマン。見た目こそ違えども、危険度はさほど変わらない。
俺の後ろにいるのは支援隊。それほど高価なポーションではないが、無くなってしまえば戦況は少なからず悪化してしまう。ここで荷物を捨てるわけにはいかない。
右手を引き出す。キンッという木刀にしては不釣り合いな残響が耳に残る。オドを練る、肉体強化を施した身体が、そのスペックを何倍にも跳ね上げる。
ここまで、実に二秒。それが終われば、トカゲとの距離は二メートル。
刃が、奇声を上げた。
俺の刀が、振り下ろされた剣の腹を削る。下から振り上げた斬撃が、トカゲの攻撃を受け流す。刀という支えを失い、必然的に向こうは俺へと倒れこんでくる。剣を握る腕も、俺も目の前へと運ばれてくる。
刀の軌道は、左斜め上への斬り上げ。
向こうの身体は、右下へと滑っていく。
当然、
「――らあぁッ!」
いつかは、衝突する。
《――――――ァァァァァアッ‼》
声を、金切り声がかき消した。
俺たちが交わったのは、ほんの一瞬。すぐさま俺は後方へと飛び、リザードマンも、大きく飛び退き俺から距離を取る。俺の足元には剣が転がっている。それを確認し、右腕を押さえる。ようやく何かが足りないことに気が付き、俺へと殺意を向ける。だが残念、俺が持っているわけじゃない。
俺たちの中間を、千切れた腕が舞っていた。
剣はとっくに零れ落ちている。肘から先が完全にそろったパーツが、空中を舞っている。それを目でとらえ、リザードマンの目が血走る。
腕が落下し、ぐちゃりという音を立て砕けた。
《――――――――ッツ‼》
「うるさいなぁ。さっさと来いって」
激昂するリザードマンを、さらに煽る。千切れた腕の近くに剣を投げ、来いよとゼスチャーで刺激する。言葉は解らなくても、これくらいすれば伝わるだろう。
案の定、リザードマンは挑発に乗った。金切り声を響かせ、俺へと突進してくる。その奇声を、納刀しながら受け止める。
身体を落とし、大きく踏み込んで突進する。同時にオドを刀に練りこむ。大気のマナが共鳴し、鞘の中で鈴虫が鳴き、蛍がこぼれだす。走った後ろには、光の線ができる。
わざわざ剣を渡したのは、動きを鈍くし、加えて予想しやすくするためだ。腕の攻撃ならいざ知らず、剣の攻撃パターンならある程度に絞ることはできる。それに、剣は当たてだけじゃたいしたことはない。体重を掛けなければ、剣はただの鋭い包丁だ。どこか向こうへと弾き飛ばせる。
互いの距離が肉薄する。
残り――一メートル半。
リザードマンが、剣を振り上げる。俺は、大きく踏み込み身体を沈める。
左わき腹を見せるように大きく身体をひねる。青い輝線が、大きな円弧を描く。
発動するのは、一瞬で勝負がつく単発スキル。沈み込む体重と回転を利用し大きく相手を切裂くカタナスキル。
その名は《斬風キリカゼ》。
大きく円を描く刀が、眩むほどの青を湛えて左上から右下へ。
リザードマンの肉体を、肩口から腰にかけて真っ二つに分断した。
「…………」
身体は分断している。核が身体から千切れ、足元に転がっている。間違いない、絶命している。もうこいつが、生き返って俺を襲うことはない。
見た限り、周りに魔獣は見当たらない。索敵に行っていた冒険者と目が合った。向こうが、頷いて剣を納める。どうやら、どこかに魔獣が隠れていることもないらしい。
ゲームとは違い、魔獣が地面から浮き上がって来て奇襲されるといったことはない。索敵が正しく機能しているならば、この辺りにいる魔獣はもういないということになる。
――……よし。
「ふぅー……」
息をつき、納刀する。オドを消費したとき特有の倦怠感が、わずかに身体を重くする。
カタナスキルは、魔術よりもはるかに燃費が悪い。鍵がないのに、無理やり扉をこじ開けるようなことをしているに近い。俺が使えているのは、常人に比べ数倍以上のオドがあるからだ。といっても、今回は威力と速さ全振りという、かなりオドの消費が激しい技を使ったのだから仕方がないことだが。
「よう。大丈夫そうだな」
「はい。こっちはなんとか」
動かない俺を心配してか、冒険者の一人が歩いてきて声をかけた。やとわれ冒険者のリーダー的存在の男。むき出しの筋肉が、俺の背後で熱いくらいに空気を温める。
「死体なら放っとけ。迷宮が喰ってくれる。核だけは持って帰れよ」
「いえ、それは解ってるんですが……」
「あ? じゃあどうしたんだよ。ぼうっと突っ立って――」
視線を俺のものと合わせ、見ているものを共有する。
そして、
「……あー、そういうことか」
俺が見ているものを見て、同様に言葉をひっこめた。
「この魔獣は?」
「いねぇな。この辺りじゃ見たことねえ」
リザードマンは、元々この環境にはポップしないモンスターだ。ゲームの情報を使うのならば、出てくるのは砂漠。そしてこの魔獣もリザードマンと同様、乾燥に強い表皮に覆われ栄養を蓄えるこぶが付いている。ゲーム同様に、砂漠に生息するものと考えてもよさそうだ。
悩むように、男は頭をかく。どうしたものかと数秒の間思案。その後口を開く。
「死体、保護するぞ。それからイツキ。お前ぇ、飯食ったら俺と来てくれ」
「……それって」
食後には、攻略会議があったはずだ。そして、彼も参加することになっている。付いて来い、その言葉が意味することは、すでに察することができる。
「攻略会議で喋ってくれ。お前が見たことを、全部」
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