上 下
48 / 121
第1章 突入! エベレストダンジョン!

第48話 最下層到達! ( 2/3 ) ブルードラゴン、アイスドラゴンに成る!

しおりを挟む

「グォォォォオオオオオオオオオオ!」

 ブルードラゴンが青く光る眼を見開き、両腕に力を込めて開き、片翼になってしまった翼も目一杯開いて咆哮をあげている。
 本当なら、無防備に見える今が攻め込む絶好のチャンスなのだが……近づけない!
 放出された魔力なのか、プレッシャーなのか、そういったものがビリビリと伝わってくる。

 ピキ、ピキッ! パリ、ピキピキッ!

 ブルードラゴンの体表が薄い氷で覆われていく。

 ピキピキピキ、パキパキッ! ピキピキッ!

 薄かった氷が、どんどん厚みを増していく。

 バキバキッ! ゴリッ! ビキン! ガリ! ゴリッ!

 眉間に突き刺さったままの刀もそのまま凍っていき、目と鼻、口を残して頭部が氷に覆われ、徐々に胴体、脚も覆われていく。
 翼も氷で覆われて、斬り落とした方の翼も、まるで最初からあったかのように氷の翼が作られていく。

「……おいおい、せっかく斬り落としたのに」

 水面も全て凍りついた。
 ロックウォール先生も凍った。

「……ニア、こいつはアイスドラゴンに“成った”のか?」


******キマイラ戦後、風呂上がり。


 みんなで風呂に入り、女子チームは髪の手入れなど、諸々あるので、俺だけ巣の淵で涼んで(実際は涼しいわけではないが)いる。
少し気になることがあったので、ニアに出てきてもらう。

「ニア? 今日のキマイラもそうだったが……リッチも咆哮してから強くなった気がするんだが、あれって普通なのか?」

 バハムートの記憶でもそうだった。もっともバハムートの場合はもう少し多いメンバーで高火力の攻撃を叩き込み続けたり、【聖剣技】で圧倒していたが……

「はい。強力なモンスターは、戦闘中に追い込まれると咆哮をあげて、攻撃手段が変わったり一段階強くなる事があります」
「そうか……じゃあ、次に戦うモンスターもそうなるんだな。今日のキマイラは、全員で畳み掛けたから良かったけど、厄介だな」
「もっと厄介なパターンがありますよ」
「えっ?」

 ぼぉーっと前を眺めて会話していたが、意外な答えに驚いてニアを見た。

「それは……ごく稀にですが、あるんです。“成る”ことが」
「“成る”?」
「はい。追い詰められたモンスターが、同系統の一段上のモンスターに変化するのです。それを“成る”と表現します」
「まっ! マジか?」
「ごくごく稀な例ですが、マジです」

 俺はごくりと息をのみ込んだ。


******現在


「……はい。こんな場面で遭遇するとは……。ですが、ダメージは蓄積されているはずです。悲観することは無いと思います」
「そうだよな。……それに対抗策が無いわけでもないだろうし」

 全員の《ストームフィルム》を解除して《フレイムフィルム》を張り直す。

 俺の刀はアイツに刺さったままだから、もう1本の刀をストレージから取り出して――いや、グンダリデの斧にする。
 刺さった刀の状態が解らない今、もう1本も壊されて両方失うリスクは避けたい。

「《マテリアルブースト》! 《エンチャント・フレイム》」

 アイスドラゴンが咆哮を終えて、氷の翼を一振りする。

 ブゥワサッ! ググッ――キィィイイイン!

 氷の地面から無数の棘が生えて、俺達に襲いかかってきた。
 凍ったロックウォール先生が砕け散る。

「アニカ! アニタ! 大丈夫か?」
「はい!」「よけたよ~」

 飛んでいたから何とか避けられたが、降りていたら危ないところだ。


「小癪な奴じゃ! くらえぃ!」

 ピッシャーーーーン!

 ミケの放った雷がアイスドラゴンに直撃した。
 ――が、直撃部分にヒビが入った以外、大半がアイスドラゴンの氷の表面を這って地面に抜けていった。

「――なぬっ?! 効かぬのか?」

 一瞬の動揺を見せたミケを、アイスドラゴンの噛みつき攻撃が襲う。

「いかん!」
「《エクスプロージョン》!」

 ドバーーーーーーァァァァァアアアアアアアアアン!

 俺の咄嗟の魔法が、アイスドラゴンを捉えた。
 爆発と、それによる閃光、音、熱、衝撃がヤツの顔に直撃して、視界を奪い、顔面を覆う氷が弾け飛んだ。

 グァギャァァァァーーーーーーーーーーアアアアア!

「ユウト! 助かったのじゃ」
「おう! それよりも、効いたぞ! また氷が張る前にみんなでいくぞ!」
「「「おー!」」」

「ぅうぉおおりゃー――!」
「これでも食らうのじゃ!」
「トルネードショット」
「すくりゅーしょっとー」

 俺は火炎を纏った大斧を、アイスドラゴンのむき出しの目に振り下ろし、ミケは鼻筋から鼻に爪撃、アニカ達はアゴを両サイドから突き上げた。

 グルルォォォオオオオーーーー!

 よし! 片眼は頂いたし、顔面の鱗にも傷が入り、嫌がっている。

 パリッ! ピキピキピキ、パキパキッ! ピキピキッ!

 アイスドラゴンの顔に、もう氷が覆い始めている。

「ダメージは入っている。粘り強く繰り返すぞ」
「「「おー!」」」

 それからも、俺の《エクスプロージョン》を契機に攻撃を繰り返し、確実にダメージを与えていった。

 ……だが。

 ドンッ

「きゃ!」「――あっ! ごめんお姉ちゃん」

 攻撃に集中し過ぎたアニタが、勢い余ってアニカにぶつかってしまった。

 アニタが弾かれたアニカの手を掴んで、落ちないように抑えた。

 この一瞬の隙を、アイスドラゴンは逃さない。アニカ達に向かって腕を振り上げる。
 アニカ達にはそれが見えていない。

 マズイ! 防御膜があっても、あれが直撃したら2人の身が危ない!
 俺は全力でアニカ達の元へ飛び、2人を突き飛ばした。

 アイスドラゴンの腕は振り下ろされ、鋭い氷の爪が俺に向かってくる。

「ユウトーーーー!」
「ユウトさん!」
「お兄ちゃん!」

「くぅ~~、ピンチ! 間に合ってくれ《ロックウォール》先生!」

 ゴッゴゴゴゴ
 ――ギリギリ間に合いそうに無い! 食らってしまう!

「《マルチプルフレイムランス》!」

 ヒュッヒュン! ボッボッボッボッボッ! ドスドスドスドスドス!

 5本のフレイムランスがアイスドラゴンの腕に連続してぶつかり、数本で氷を砕き最後の1、2本が腕に刺さった。
 アイスドラゴンの腕の振り下ろしが鈍った。

 ゴゴゴゴッドン!

 それによってロックウォール先生が間に合い、アイスドラゴンの腕を弾き上げた。

「フレイムランス?」

 俺は、安堵しつつフレイムランスが放たれた方向を見た。
 そこにはドヤ顔のミケがいた。白狐だったが、俺には判る。確実にドヤ顔だった。
しおりを挟む

処理中です...