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15.制圧
しおりを挟むサンドとポルトの融合魔法とも言える【雷】で、客車の屋根・壁といった躯体が粉砕された。
「良くやった、サンディー! ポーラ! 後は俺がやる」
俺は二人を労い、そのまま轅に足を掛け空の御者台に上がり、剥き出しになった客車に飛び移る。
「うわぁ……こんな仕掛けが……」
客車は、検閲逃れのためか二重壁になっていたらしく、そこに潜んでいたのであろう黒装束の人間が数人――と思う――の潰れた遺体があった。
客車の本当の壁と、作られた二つめの壁に挟まれて圧死したんだな……。
まさか、高速走行している馬車が急停止するなんて誰も考えないもんな。受け止めきれる双子も凄いけどな……。
「うぅ、ゔはっ! ぅう……」
慣性の法則で“壁”にぶつかった側の人間の中には、息があり苦痛に悶えているものもいた。
貴族の礼装で青碧色の髪、目元を覆う仮面の男が首筋を押さえて横向きに蹲り、それに騎士の装いの男二名が頭から血を流しながらも立ち上がろうとしている。
騎士の二人が俺を見つけた途端に剣で斬りかかってきたが、手負いの緩慢な動きにやられるわけも無く、かわしざまに通りへ蹴り落とす。
「サンド! ポルト! 取り押さえといてくれ!」
「「はぁーい」」
さて、この貴族っぽい奴は……本物だろうか?
王族でありこの襲撃の首謀者。
脅されて利用されている本物の王族。
王族に成り済ました賊。
いろんな可能性が考えられるから、殺すわけにはいかないな……。取り調べは俺達の役目ではないしな。
そんなことに考えを巡らせていると、その正装男が立ち上がろうと片膝立ちになる。
「動くな!」
「ボウイング王国の衛視か?」
「……そうだ」
「我は助かったのだな……手を貸してくれないか?」
動くなと言っているのに、仮面男は右手を差し出して起こしてくれと言う……。
……捕らえられていた王族だったか。仕方ない。
俺も右手を差し出し、腕相撲をするように握って引き上げようとする。
「馬鹿めっ! 死ねぇ!」
いつの間にか男の左手にはどデカイ針みたいな刃物が握られていて、俺を引き寄せざまにそれを心臓目がけて突き上げてきた!
袖に隠し持ってやがったのか!?
――だが俺には届かないっ! 【遅延】!
俺が指定した対象だけが鈍重になる魔法。今の俺だと5秒が限度かな?
右手を振りほどいて、心臓目がけて進んでくる刃をかわして体を入れ替えるように男の後ろに回り込む。
その刃を持つ左手の手首をガッシリと握り、目一杯伸ばした上で男をうつ伏せに押し倒す!
これで5秒。
ドサッ!
「ぐわっ! なっ!? なんだ?」
正面にいたはず、刃が心臓を捉えるはずの俺が、いつの間にか後ろにいて、背中に馬乗りになられ、刃物も封じられた事態に男が混乱している。
この隙に俺は、右手を男の口に深く突っ込む。
舌を噛まれたり毒薬を噛まれたりして、死なれたら厄介だからな。
さて、これでは俺も動きを制限されてしまうな……どうしよう。
「むーっ! んー! んんーっ!」
「――うん?」
目の前の男とは別に、客車の後方からも呻き声?
見ると後方も二重壁になっていたらしく、壁の瓦礫の奥に、布で猿轡《さるぐつわ》をされた下着姿の男が転がっていた。
「……アンタ、本物の王族か?」
俺の問いに、男が呻き声をあげながらコクコクと頷く。
やっべ、言葉遣い間違えた……。
内心焦りながらも、とっくに後方の黒装束の制圧を終えていたエヴァとベルジャナに王族の保護を指示する。
ほどなく王城から騎士隊が駆けつけ、賊の身柄を拘束。無事に騒動は治まった。
「ふうっ。ひとまず解決して良かった……」
双子にエヴァ、ベルジャナを労っていると、停車していた貴族家の馬車が次々と動き出す。
「ああ! 誘導! 急がないとっ」
監視台に戻ろうとすると、そこには既に二人の副隊長がいて、手際良く馬車の誘導を再開させていた。
「誘導は彼らに任せちゃっていいよぉ」
隊長が、馬車から切り離されてどこかに走っていった6頭の馬を曳いて俺達の元に来た。
「よくやったねぇ。この大通りで抑えられたのは第19班のおかげだねぇ」
「……隊長の勘。『何か起こる』って、この事ですか?」
「だったみたいだねぇ?」
やっぱり捉え処のない人だな……。
「よくやってくれたけどぉ……もうひと仕事あるよぉ」
隊長が王都執政官庁舎を指しながら、爆破の方も別の実行犯がいて、まだ中にいるはずだと言う。
俺達第19班も庁舎の包囲に加わり、警邏衛視隊の捜索の末、自害した実行犯を発見して、ようやく俺達の仕事は終わった。
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