自分をドラゴンロードの生まれ変わりと信じて止まない一般少女

神谷モロ

文字の大きさ
115 / 151
第七章 学園編3

第115話 無名仙人

しおりを挟む
 カルルク帝国は国土のほとんどが砂漠である。

 人が住める場所は大陸北部の山脈沿いに流れる広大な大河のほとりにある首都ベラサグンと、山脈を挟んだ北方にある魔物の住まう森との防衛線である迷宮都市タラス。

 それ以外は全て砂漠という過酷な環境である。

 もっとも砂漠にもオアシス都市が点在しており、大陸の最南端にある西グプタまでの中継地点となっている。

 逆を言えばオアシス都市以外の砂漠はほとんどが未開の地であり人の住処などない。
 それに砂漠には魔物がいるため、あえて未開の地に住もうとするものは人間の世界に生きられなくなった犯罪者か世捨て人だけである。

 当然だが未開の砂漠にもオアシスがある。

 その未開の小さなオアシスに一人の老人がひっそりと住んでいた。

 小さなオアシスは巨大な岩山の側にあり、老人は岩陰に一人用のテントを張り、砂ぼこりを避けながら鍋を焚火の上に吊るす。

 その老人は自給自足をしている訳ではない。
 今日の食事も事前に持ち込んでいた乾燥させた肉や野菜を鍋で煮込む、彼の故郷の鍋料理であった。

 仕上げに固形の調味料を鍋に落とす。調味料が溶けると赤茶けたコクのあるスープが完成した。

「いかんな、ついに調味料が無くなってしまったか。フリーズドライのミソスープの素が無いと食事にならんわい。一度、街に買出しにいかねばのう」

 そう老人が呟くと、突然岩山が振動をおこした。

『何だ、もう行ってしまうか? 人間とはせっかちよな、もう少し話し相手になってくれると思ったのだがな……』

 その岩山から老人に向かって地響きの様な声が洩れる。

「ミソが無いのですよ、儂は魔物の肉は口には合わんのです。しかし、バーテミウス様だけですな、儂をまだ人間と呼んでくださるのは……」

 バーテミウスと呼ばれる喋る巨大な岩山、大地のドラゴンロード・バーテミウスはゆっくりと老人のテントを破壊しないように少し上体を持ち上げると、その巨大な顔を老人に向ける。

『ふっ。我としてはお主はありがたい人間よ。お主はこうしてたびたび会いに来てくれるしな、人間よりも良い奴であるのは認めているのだよ』

「いやいや、儂が人間よりも良いというのは言い過ぎですな。まあ、気が向いたらまたここに来るとしましょう、次は何年後にしましょうかの?」

『我はいつでも構わん。お主が生きているうちに来てくれればそれでよい。まあ今回の一件、面白かったぞ。
 だが、ルシウスの小僧はまだ大地に還っておらんようだし、まあ近いうちに奴もなにか面白いことをするかもしれんな』

「面白いですか……。まあ、儂の知る限りではそれは面白いとも思えませんがな……。
 まあ、儂も簡単に引退できんということですかな?」

『ふ、それで良いではないか。お主にはもう少し長生きしてくれないとな。
 お主との会話は面白い。我も寝る以外の楽しみが持てたようだよ、おかげでお転婆ベアトリクスの言う人間との交流も少しだけ理解できたしな……。
 では、我は寝るとしよう。お主の客人が近くにいるようだしな、ではさらばだ。無名仙人よ』

 大地のドラゴンロード・バーテミウスは再び岩山になり、オアシスの周囲は静寂に包まれた。


 ◇◇◇ 

「師匠、やっと見つけましたよ。まさかこんなところで隠居生活をしてたんですか?」

 無名仙人の前に現れたのはメイド服を着た女性だった。

「なんじゃ、客人とはセバスティアーナじゃったか。まあ、ここまで来るやつはお前しかおらんか。
 で? どうしたのだ? 旦那では満足できぬから儂を探していたのかのう? だが残念、儂は年増には興味がないわい。ピチピチのギャルでないと話は聞けんのう」

「師匠、相変わらずのセクハラですね。非常に不愉快ですが、まあ私は夫婦円満で娘との仲も良好ですので余裕で聞き流しましょう。
 ですが、私の話が聞けないならこの手紙を受け取ってください、娘のセシリアが師匠に向けて書いたのですよ?」

 無名仙人はセシリアの手紙を受け取ると中身を読む。
 第七皇子呪い事件の解決に向けて無名仙人の知識を得たいとの内容である。

「……そうか、お主の娘はたしか12歳だな? うむ、よい、承ったぞ。ではベラサグンまで行くとしようか、はっはっは」

「まったく、師匠は相変わらずですね。……そう言えば、この香り、ミソスープですか? 懐かしい香りですね……」

 セバスティアーナは無名仙人が食べていた鍋から懐かしい匂いを感じた。

「うむ、セバスティアーナよ。故郷の味は大切だぞ? ミソスープの味は母の味、そう、我らモガミの里の創始者であるユーギ・モガミの味なのだからな。
 そうだ、お前の旦那は飲食店の経営者だったな。ならばついでに、ミソという調味料を教えてやろうではないか……でだ、セバスティアーナよ。儂はセシリアちゃんとはどういう関係かの?」

「……はぁ、分かりました。師匠は私のおじい様です。セシリアには曾祖父ということにしましょう。セシリアを甘やかす権利をあげます。でもさすがにセクハラはだめですよ?」

「分かっておるわ。さすがに12歳には何もせんし、儂はもう年齢的に何も出来んわい、ただ癒しが欲しいだけじゃ。ところでセシリアちゃんには同級生のお友達は居るのかの?」

 それはどういう意味で言ったのか、セバスティアーナは、あえて聞き流すことにした。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

処理中です...