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第一章

第12話 娘夫婦はラブラブでした

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 明日から寮生活だ。

 どういう部屋割になるかはわからない。ひょっとしたら誰かと同室になるかもしれないから今のうちに準備できることはしておこう。

 そう、俺は今、弾丸を作っている。

(マスター、シルビアさんは随分おびえていたというか、ドン引きしていましたね)

 そうだ少しテンションが上がってしまった。オタク特有の早口が出てしまったのだ。

 魔法道具屋はとても面白い。いろんな材料が手に入るのでシルビアさんにも色々説明していたのだ。

 とりあえず入学前にいろんな銃弾を作っておく必要がある。緊急事態に備えてだ。そんな事態は起こらないかもしれないが非殺傷の武器は必要だ。

 麻酔弾なんかたくさんあってもこまらない。

 いざとなったら、通りすがりのおっちゃんを昏睡状態にして名探偵を演じてもらうときに使えそうだし……。

 いや、冗談だ。あれは人道的にどうかと思う。だいたい麻酔弾を毎週撃たれたら、それこそ中毒で死ぬんじゃないだろうか。

 まあそれは他所の世界の問題だ、今はそんなことはどうでもいい、とりあえず殺さない武器は必要なのだ。

 そんなことを思いながら。魔石を砕き、火の魔法を込める。

 これが火薬となり、トリガーを引くと魔法強制発動を込めた魔石( プライマー)に撃針が当たり火の魔法を発動。

 その圧縮ガスで弾頭を飛ばすのである。地球での銃の仕組みをそのまま魔法道具として再現した傑作だ。

 薬莢は使用済みの空薬莢が異次元ポッケに収納されてたのでそれを使う。しかしミニガン用の空薬莢が大量に混ざっていたので分別に苦労した。

 というかミニガン用の薬莢に埋もれて拳銃用の薬莢がなかなか見つからない。


 ロボさんはミニガンも全弾撃ち尽くしたそうだ。たしか3000発くらい作ったような記憶があるんだが。

 ……戦争でもやったのだろうか。まあ俺が作ったのだから強くは言えないし、何があったかなんて怖くて聞けない。基本的に俺は臆病である。

 まあ少年も無事に成長し今では魔王だ。その彼の為に使われたのならいいのだろう。何事もポジティブに考えるとしよう。

 そんなことを考えながら弾丸製作は続く。

 やはり弾頭には麻酔弾の他にも念のために殺傷用のものも少しはいるだろう。

 俺は何種類かの戦闘用の弾丸も作ることにした。オーソドックスな装甲貫通弾や焼夷弾に加え、色々なデバフ効果のある弾丸など数種類を作った。

 戦闘は避けたいけど何があるかは分からないのだ。それにシルビアさんという友達が出来てしまったので彼女にもしもの事があったらつらいからな。

 完成した弾丸をマガジンに詰め込み、銃本隊に差し込む、スライドを引くとカチャッと音を立て弾丸が薬室に送り込まれる。

 このオートマチックピストルの一連の動作が実に気持ちいいのだ。
 だが、シルビアさんは俺の説明にドン引きしていたようだ……。やはりミリオタは女子に嫌われるか。

「やはり女子には銃の良さはわからないか。それどころかこれ以上聞きたくないといった表情だったな……」 

(そういうことではありません。マスターは気を使って専門用語ではなく棒とか筒といって分かりやすくされていたようですが。それが誤解を生んだのです。とても卑猥でしたよ?)

「なに? 俺はなんて言った? まさか……」

 弾を込めた棒( マガジン)を筒(銃)に差し込み……スライドの動作が気持ちいいだと!。

 まずい、これは誤解だ。次あったらなんて説明しよう。セクハラどころか変態だと思われてしまったじゃないか。

(自業自得です。これから挽回しましょう)

「むう、……ところでそろそろ君の旦那様に報告をしないといけないな。これは魔力消費がすこし大きいから毎日はやめておこう。君には申し訳ないが月に1回程度に抑えるべきだろう」

 もっとも重要なことがあったらその限りではないが今回は無事に入学試験を通ったという報告は必要だ。

 俺は勇者の魔法の一つである魔法通信を使用した、これはいわゆるテレパシーのようなもので、電波の概念を知ってる異世界勇者のオリジナル魔法である。

 少年、いや魔王は多忙である、だがこの時間なら会話くらいは平気だろう。
 例え忙しくても少年のことだから他を無視して俺たちとの会話を優先するのだろうが……。

 それはよくない、なにより周りが可哀そうだ。
 
「やあ、少年、今少しいいかな? 入学試験を終えて無事合格したからその報告をしようと思ってね」

『あ、異世界さんだ。もちろんですよ。僕も異世界さんのお話が聞けてうれしいです』

「うむ、俺も嬉しい。ところでだ、その異世界さん呼びはマズい。いつどこで勇者ばれするか分からんからな。それにこの体は君の嫁さんだぞ?」

 少年、いや魔王は相変わらずのテンションで俺との会話をした。

 しかし少年よ、いいのかそれで、この声はお前の嫁なのだぞ? ……まあ彼らしい、そんな彼だからアールと結婚したのだろう。

 とりあえず今までおこったことを全て報告しておいた。

「――さて、こんなところか、ロボさんや、なにか言う事はあるかい? うん? 愛してるそうだ、幸せ者だな少年」

『あ、はい、僕も愛してます。とお伝えください。あ、そうか伝わってますね。ごめんなさい。こちらのことは心配しなくていいですよ。そういえばロボさんのメイド服はワンドさんが欲しいと言ってました。どうします? 貸してもいいですか? ――それと家事とかですがしばらくはリッチさんのダンジョンにお世話になりますので心配しなくていいですよ。それと――』

 ちくしょう、父親のまえでラブラブトークをしやがって。まあその身体はおれが乗っ取ってしまってるわけだが。

 ……しかし、異種族どおしの結婚か。当然、子供は残せないだろう、それでも幸せな生き方はできるのかと思った。

 勇者の魔法を使えば、改造により彼女に生殖機能を追加できるのだろうか。いや流石にそれは神の領域に踏み込んでいる。だいたい俺は女性を知らないしな。

 俺は先ほどまで一緒だったシルビアさんの真っ赤に照れた顔を思い出した。

 なぜここで彼女を想像した! 思春期の中学生か俺は。そう悶々としながら翌朝を迎えた。
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