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第一章

第21話 戦闘訓練開始

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 ――キャンプ二日目


 このキャンプは二泊三日である。

 初日にサバイバルを学習し普段と違う環境で寝泊まりしたあと、翌日に戦闘訓練をするというとても実践的なプログラムである。

 一年生のキャンプは食料持ち込みOKとか、想定はゆるいが、初体験の学生にとっては結構ハードじゃないかなと思った。

 現にAクラスのみんなは深夜バスで一晩すごした感じのやられ具合であった。ヘアースタイルのせいだろうか。皆さん誰だよといった感じである。

 貴族あるあるだな、毎朝どれだけ髪のセットに時間をかけるのだとシルビアさんを見て思ったものだ。

 しかしどうだろう、今のシルビアさんはツインドリルを卒業してさらさらヘアーをなびかせている。



 戦闘訓練開始。担当教官はジャンクロード・バンデル先生である。

 午前中は、この森の中に出現したアンデッドの排除するという想定の訓練である。

 騎士団の仕事の大半は森などの人里離れた場所に出没する魔物の討伐である。

 戦争はここ数年起こっていないので実戦訓練としての意味合いもある。

 もちろん魔物の討伐は冒険者の仕事であるがそこは住み分けである。冒険者には遠方の魔物だったり。

 探索などの少人数パーティーが向いている任務はむしろ冒険者が積極的に活用される。 

 
 そうこうしているうちに午前の組み分けは終わった。

 男子が三人に女子が三人でチームを組む。


 なんだか、合コンのようである、周りを見るとざわざわした空気を感じた。俺は一度も合コンなど行った経験は無いが……。

 しかし、そういった要素はあるのかもしれない。貴族の場合は家同士の都合によって縁組されるが。

 平民の場合はこのイベントで急接近して卒業後はゴールインというケースがよくあるそうだ。

 ちなみにローゼさんのご両親は貴族にしては珍しくこのキャンプで知り合ったカップルだそうだ。

 自然とローゼさんから気合というか意気込みのような物が溢れているような気がした。


 が、それも一瞬のことであった。ローゼさんの顔がとても暗い、というか今度は明確な怒りが溢れている。

 
 そうなのだ、俺たちの班の男子の中に一人彼がいたのだ。無反応、いやカール氏である。

「ち、強姦魔のクソ野郎と一緒とは私の人生最悪ですわ」


 聞こえるよローゼさん、いや聞こえるようにいっているのだ。

 カール氏は俺達を見るとびくっとした、とても怯えているいるようだ。

 しかし、カール氏よ、君は夏休み前と全く別人じゃないか、まあそれもそうか、廃嫡されたのだ。

 まあいいじゃないか退学は免除されたし、家を追い出されたわけでもないのだろう。

 これから頑張ればいいのだ。

 さて他の二人はというと、なかなかの好青年ではないだろうか。陽キャというわけではなく、どちらかというと地味である。

 クラスメートのはずなのに初対面かと思うくらいに……。

 こういうのが好青年というのだ。カール氏よ彼らから学ぶと良い。


「それでは諸君、これから午前の戦闘訓練を始める。これから森にアンデッドは放つので、それをチームで協力して討伐すること。
 アンデッドはスケルトンのみだ、安心したまえ、今回は非武装のスケルトンしか召喚しない、大事には至らないだろう」

 そういうとバンデル先生は詠唱を開始した。

「(詠唱省略)下位アンデッド召喚!」

 ちなみに詠唱魔法は大きく分けると二種類に分類される。一つが呪文を全て唱え発動する基本形。

 そしてもう一つが、今回のバンデル先生の詠唱省略である。魔法に熟練したものは詠唱を省略し最後の一節だけで魔法が発動できるようになる。

 まあこれができるようになってようやく実戦に参加する資格があるといえるだろう。

 さらにこの上に無詠唱魔法がある。

 これは一部の天才にしか使用できない規格外の魔法である。ちなみに勇者の魔法はさらに上で神の領域といえる。だって神から貰ったスキルだから。


 バンデル先生の周囲に魔法陣が展開されると、数十体のスケルトンが召喚された。


 お! かっこいい! ネクロマンサーの召喚魔法はビジュアルがとてもいい。実に俺好みである。


 お嬢様方には理解できないだろう。このアンデッドもりもりの感じが素敵なんじゃないか。

 おいおい。男子諸君もなぜ顔を青ざめるのだ。大量のスケルトンだぞ。その中心に立つネクロマンサー、かっこよすぎだろうが。

 俺は目をキラキラさせる。バンデル先生と目が合う。ふっとニヒルにわらった。バンデル先生カッコいい。

 しかし、シルビアさんの目線は怖かった、アンデッドよりも。誤解だ。シルビアさんが一番好きだ、だがこれは男の子の夢なんだからしょうがないのだ。

 不死の軍団の統率、こればかりは女子にはわかるまいよ。


 スケルトン達は森の中に姿を消していった。30分後に訓練開始だ。

 その間は各班で作戦会議というわけである。

 俺はシルビアさんの班を遠くから見ていた。女子も男子もシルビアさんの話に集中しているようだった。彼女がリーダーのようだ。

 うむ、さすが学年首席である。キラキラしたオーラは遠くからでもわかるのだ。

「ちょっと、アールさん現実逃避しないでよ」

 そうなのだ、うちの班はどんよりとした負のオーラを放っている。俺は光がいい。先ほどはネクロマンサーに憧れていると言ったが。

 心はキラキラしていたいのだ。

 
 先ほどからローゼさんはカール氏に呪詛を浴びせ続けている。アンネはため息交じりに言った。

「ローゼもそろそろこの辺で切り替えましょう?」

 どうやらこの班はアンネさんだけが頼りだ。俺は……まあ活躍はできないしするメリットは特にないからな。とりあえず拳銃の性能は二人には麻酔状態にさせるのみと周知している。

勇者の魔法なんてもってのほかだし、公式的には俺は詠唱魔法は得意ではない。

 しかしほどほどに活躍はしとかないといけない。俺は学年3位のポジションでいたいのだ。でないとシルビアさんとつり合いが取れないとか言われても癪だし。

 魔法材料の応用、そうだな、格闘技という線はどうだろうか。

 俺の一学期の成果である。この魔法アイテム、振動スコップを取り出す。振動を起こすことで硬い土も簡単に掘ることができる優れものである。

 ちなみに魔王が持ってるスコップの劣化コピー品だ。これが蟻だとするとあれは象である。
 
「私はこれで前衛をやるから任せておいて」

 おれはスコップを手に持ちみんなの前で構えてみせた。ドヤ顔で。

 スコップは立派な武器でもあるのだ。カッコいいだろう。

 
 
 ……頼りなく見えたのだろうか、前衛はカール氏以外の男子二人も加わった。

 まあ前衛三人、後衛三人なのでバランスの良い編成ではないだろうか。結果オーライである。
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