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第一章

第27話 クリスマスを取り戻せ

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 年末である。

 この世界にはクリスマスはないが、勇者の誕生日祭がある。

 そうだった俺は人類の救世主だった。この国の元旦がつまり俺の誕生日である。初耳だった。

 学院はこの前後の一週間はお休みになる。長期ではないので皆さんは寮に残り元旦に向けてお祭りの準備をするのである。


 それと並行して12月になると街はにぎやかになる。クリスマス商戦と同じで、なんだろう……お店には勇者様グッズでいっぱいだ。

 それはそれとして、年末の活気で街はにぎわっている。

 俺たちもこれにもれずにお買い物ということである。前世では陰キャだったのでこの時期は地獄だった記憶しかないが。

 今は俺も立派にリア充である。仲良し4人組でお買い物といった感じだ。


 とても充実した12月を過ごしている。何も文句はないがあえて言おうか。

 ……勇者信仰は邪教だ。しかしだ、堂々とそんなことは言えない。くそ。

 どうしたものか、せめてもの抵抗をしないと気が済まない。


 街中、勇者一色である。クリスマスならサンタカラーの赤だったのだが、勇者の色とは何だろうか。何色とも言えずに統一感がない。

 まだ赤一色の方が分かりやすいのだが、うーむ、俺のストレスはそこから来ているのだろう。


 そんなこんなで12月は俺の個人的な心情を除けば全てにおいて活気にあふれており。それぞれの身分の人間がカウントダウンに向けて気分を盛り上げていくのだろう。

 魔法学院でもパーティーがある。学生の皆さんは、この時の為にドレスアップするのだ。そういうわけでショッピングに繰り出している学生はたくさんいる。


 そういえば、シルビアさんはドレスを着るのに抵抗があるようだ。今年の流行のドレスの話題には乗り気でなかった。


 それもそうだカール氏の一件をどこかでまだ引きずっているようだ。

 まあついこの間のことだからしょうがない。せっかくのお祭りにあの記憶を呼び起こすのはかわいそうだ。

 しかしせっかくのパーティーに制服というのは無いだろう。

 だからアンネさんもローゼさんも着る服はすでにあるのに買い物に付き合っている、やはり親友は素晴らしいのだ。


 俺はそんなことを思っていると、一つの案を思いついた。


 そうだ、クリスマスだ。

 クリスマス自体はぶっちゃけるとこの世界にとっては誰も知らない異教徒の祭りだがファッションは別だ。

 この世界の価値観ではありえないぶっ飛んだドレスをシルビアさんにプレゼントしよう。

 これは、俺の為でもあるのだし、なんら問題ない。

 俺は念のためアンネさんとローゼさんにも意見を求める。

 二人は即答でOKだった。赤いドレスは挑戦的すぎて実物を見てみたいという好奇心もあるのだろう。その通りだ、あれはぶっ飛んでいる。

 とても聖人の衣服とは思わせない、商業主義的な何かを感じさせる。


 そうだ、俺はサンタドレスを作る。クリスマスを俺たちにとりもどす。もともとこの世界にはないし、俺も別に信者というわけでもないが日本人なら許されるはずだ……。

 だいたい勇者はこの世界にとっては神様かもしれないが、美化しすぎだ。その神様ご本人がそれを気持ち悪いと思っているのだ。


 こうして俺は自身の手芸スキルを活用し、パーティー本番に向けて二着のドレスを作る。

 まあ本人だけに着せるのはいじめに近いので俺も分も作っているのである。ペアルックというやつだ。


 最初はサプライズを狙っていたが無理だった、作業初日でシルビアさんにばれた。

 あたりまえか、俺たちは同じ部屋で生活しているのだ。いくら生徒会の仕事で遅くなるとはいえ明らかに部屋に裁縫道具が揃えばばれる。


 それにしてもシルビアさんは最近は遅くまで学院にいる。そうだった、彼女は生徒会書記なのだ。お祭りに向けての書類仕事がわんさかである。

 ほら、生徒会は大人の仕事の雑用係だと思った通りだ。本来それは学校側の仕事じゃないか、いやまあ俺の考え方もひねくれているのだろう。

 それに生徒会の仕事は将来役に立つだろう。出世コースには間違いないのは認める。


 おっと、それはそれだ、シルビアさんにはドレス恐怖症を克服してもらいたい。


 あれは酷かった、カール氏のやったことは最低なのだ。ローゼさんは未だに強姦魔と彼を罵っている。

 キャンプでちょっといい感じになったように見えたがあれは吊り橋効果であって、まだ許されていない。俺も同感だ。

 ドレスを引き裂くなんてどういうことだ。

 今ではカール氏は別人のようではある、それはいい、でも本当に許させるのはまだ時間がかかるだろう。

 そうだなシルビアさんとローゼさんが許したら俺も許してあげよう。


 さてと、それは置いといて、具体的にサンタドレスの製作に入る。

 シルビアさんはまだ生徒会の仕事だろう、俺は堂々と独り言をいいながらドレス製作に集中する

「へい、ロボさんや、フリフリというやつを作るのは?」

(はい、フリフリドレスに関しては私のライブラリには一万件以上の情報があります)

「お、おう、それはすごいな、では可愛いのでたのむよ」

(フリフリは基本可愛いですよ、しかし、マスターの好みから考えると、いえ、シルビアさんが似合いそうなデザインを提示しましょうか)

「それだ、さすがはロボさんだ」


 ドレス製作は順調にすすんだ。シルビアさんが帰ると彼女ともデザインのすり合わせをしたり仮縫いで試着したりした。

 正直この過程が楽しいのだと思った。俺は生前、勇者時代には魔道具などのものづくりにはまったこともありとても楽しい時間をすごした。 
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