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第二章
第64話 それぞれの思い
しおりを挟む「シルビア、俺達もけじめをつけよう」
「え? うん、いいわ、私もベルナドット家から離れて」
「え? いや、そうじゃない。お兄様に挨拶に行こう、シルビアが離縁されるのもだめだし、非公式とはいえ決闘で勝ったんだ」
「……お兄様、非公式だからって言って、はぐらかすかもしれないわ……」
なるほど、いろいろ背負っている貴族様はそういう対応をするのかもしれない。それにしても兄に対してのシルビアさんの対応は辛辣だ。
どうも実家でも仲が良くないようだ。俺の責任でもある。だからなおさら仲直りをしてほしい。
「アンドレ先生、勇者様生誕おめでとうございます」
「勇者様生誕おめでとう」
この挨拶、いやだなー。しかしこの程度これからの会話に比べれば問題ない。
周りは浮かれムードだが、ここだけは戦場のような緊張感が立ち込めている。
とりあえずは形式的な挨拶から始まり、パーティー会場の設営や運営に尽力した生徒会会長としての手腕を正直に評価している等、先生と生徒の立場としての会話が続く。
そして、飲み物を口にして、一息つくと。
「私としてはだ、お前たちの関係は認めない」
「お兄様、決闘で負けたくせに今さら何をおっしゃってるんですか――」
お兄さんは話を続ける。
「――だが、こほん、対外的にはシルビア、お前が魔法都市・ミスリルの要人に嫁入りしたという事実があれば何も問題ない。
その証拠として、ミスリル鉱石の貿易を我が公爵家に優先するもの、それが不可能なら準ずるもの、そうだな、綺麗な織物があったな。それでもいい。
とにかく、ベルナドット家に少なからず利益があれば、公爵家とその傘下の貴族たちはお前たちの結婚を認める。いや……すまないが正式に結婚式は上げられない、あの目障りな黒髪の転入生が言ってたが。
その通り、我が国は未開のようだ、だからそうだな、シルビア、お前は外交の為の道具として魔法都市・ミスリルの要人に嫁入りさせるのだ。政治経済の面で合理的であれば、一族の老人たちも納得するだろう。
嫁ぎ先では我が国のしきたりに従う必要はない。そこで結婚式を挙げればいいだろう。俺に出来るのはそこまでだ。父上も母上も了解してくれたよ」
なるほど、大人の事情とやらを全部話してくれたのか。お兄さん、案外いい人だ。
「お兄様、ありがとうございます」
「勘違いするな、父上と母上に相談した結果だ、私は別にどうでもいいのだ」
「お義兄様、ありがとうございます」
「おまえに義兄と呼ばれる筋合いは! いや……、ふー、この間のコーヒーは旨かった、職務であわただしかったが香りと味は覚えている。できれば一杯頼みたい。それで、俺は許してしまいそうだ、い、義妹よ」
シルビアは俺にウィンクをする。どうやらお兄さんはツンデレのようだ。もう俺たちを認めていて、不器用ながらも政治的な外堀を埋めようと味方になってくれているのだ。
「はいお義兄様、よろこんで!」
◆◆
「ふう、後輩ちゃん達と踊って疲れちゃったかな、さてさて、次は誰と誰をくっ付けようかな。アンジェちゃんは、明らかに僕狙いだ。でも、僕は恋愛対象じゃないし。それに彼女にはファンが多い、うむ、どうしたものか」
ユーギは一通り後輩たちとのダンスを楽しみ、会場の外に出てテラスで休憩をしていた。
会場の中では、一年生の男女がぎこちなくもパートナーを入れ替えつつダンスをしているようだ。
カールとローゼは無事にくっついたし、勇者とシルビアも話し合いはうまくいったようだ。
「うんうん、あとは若い者にまかせて、僕みたいな年寄りはここでのんびりするとしようか」
ユーギとしては別に親切でやってるわけではない、なんとなく、じれったい関係の男女にお節介を焼くのが趣味なだけなのである。
どちらかといえば、仲人といった感じだ。ユーギ自身は特に恋愛自体には興味がないのである。
「ユーギさん、こんなところに一人で何をやってるんだい?」
「おや、ハンス君、それは君もだよね、まあ質問を質問で返すのもあれだ。そうだねー、一ついい仕事をしたから休憩といったところさ、あとは若い者にまかせてって感じかな」
「また、変なことを言って……、それにその格好だと、外は冷えるから中に入った方がいいんじゃないか?」
「おや、わざわざそれを言いに来たのかい? 随分優しいじゃないか、大丈夫さ、僕は氷の魔法を使えるのだよ。氷結の魔女が、寒さで体を壊すなんて笑えないだろ?」
「それは、そうだけど、……いや、その、実は話があるんだ」
ハンスは姿勢を正してユーギの正面に立つ。
「ユーギさん、僕と……いや俺と付き合ってください」
「おや? ハンス君、俺だなんて雄アピールしてるね、背伸びしないの、それになんだい? 僕の身体目当てかな?」
ユーギは片手を腰に、もう一方の手を頭の後に持っていきセクシーポーズを取ってみせる。
「そ、それは、今日君がそんな格好をしているからであって。正直、声を掛けるか迷ったんだ。
そういう目的で声を掛けたと思われたくないし。でも、今日言わないと僕はこの先も後悔すると思ったんだ」
「なるほど、確かにこの格好だと人目を気にして声を掛けにくいね。実際アンジェちゃん以外には声かけられなかったし。ふむ、それで付き合うってどこまでだい?」
「僕は、あなたのことが好きです。キャンプで一緒に旅した時に僕の気持ちは固まった。今まで女性にこんな気持ちを抱いたことはなかった」
「うーん、なるほどね、ちなみに僕と付き合った男は大体、不幸な目に合うんだよ。そうだな、例えばリュウキ君とロクザン君なんかは、僕をめぐって争うようになってね。
国が割れて内乱になってしまったんだよ、あははは、まさに傾国の美女ってやつ? それでも僕と付き合いたいのかい?」
ハンスは適当にはぐらかされているかと思ったが、不思議と嫌な気はしない。
ユーギはいつもの調子で軽口を言うが、どこか嘘はついていないような遠い目をして語るのである。
その表情は彼女の整った顔立ちと相まって、よりハンスの心を惹きつけるだけなのだ。
「ユーギさん。さすがに戦争は嫌だけど、そうだね、もし戦争になっても一緒にいたい。僕は本気だ!」
ハンスは真っすぐにユーギを見つめながら言った。
「おや、なら、そうだね、とりあえずダンスでもどうかな? ちなみに僕は踊りがそんなに上手じゃないんだ」
ユーギは立ち上がると手を差し出す。
「よろこんでリードさせていただきます」
そういうとハンスはユーギの手の甲にキスをする。
「ちなみにユーギさん、その格好でダンスするの?」
「そうだよ、この格好で、いいじゃないか隠すところは隠してるし。照れない照れない。あははは」
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