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第二章

第80話 ドローンとの戦い

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 光の柱が遠くに見えた後、数秒後に到達した空気の振動がこの場にいる者に緊張感を高めさせた。
 遥か遠くに見える地面は、まるで火山のように煙を吹いていた。 

 その遥か遠くに見える爆心地から小さな点が3つ出てきた。

 あれが報告にあったドローンである。空中を円を描くように飛ぶそれは夏によく見る虫のようにも見える。

「さあ、シルビアちゃん、敵の戦力は理解できたわね、敵は雑魚よ、ボスが下にいるからさっさとやっつけて応援に行きましょう。
 敵は3体、とりあえずこっちに引き寄せるわよ」

 ワンドは高速の石つぶてを数百発敵に向かって発射する。

 それはレーザーのように光りながら空中に数百の線を描いた。

「一匹くらい落とせたらよかったんだけどね。でも目的は果たしたかしら、優先目標が私たちに変わったみたいね」

 遠くに見える三つの点の一つが光る。

 ほぼ同時に、目の前の地面が爆発し土煙を上げる。

「え? 師匠……雑魚っていってませんでした?」

「え? ……ええ、そうね。レールガンってこんなに強力だったなんてちょっとビックリ、というか、初撃を外したのが運がよかったかしら。
 多分、次は当ててくるわよ? 防御するか、避けるかだけど、防御はちょっと私の身体でも無理かも、二重防御魔法でも防げるかどうかって感じだし。マズいわね、シルビアちゃんはちょっと下がって――」

 その瞬間、ワンドの腕が吹き飛ぶ、シルビアは慌てて遠くの敵に目を向けるとまた別のドローンが光る。その瞬間、ワンドの片足が吹き飛んだ。

「師匠! ……そんな、ああ、大丈夫ですか!」

「あいたたた、って別に痛く無いけどね、私の美しい身体によくも、って、ああー! せっかくの洋服がだいなしじゃない!、これは作るのに1年かけたのよ!」

 ワンドはお気に入りのゴスロリ風のメイド服がボロボロになっているのを確認するととても落ち込んでいた。

『ワンドさん無事ですか? 標的は三体ともレールガンの発射をしました。次弾の準備までおおよそですが10分ほどのインターバルがあります。活用してください』

「ちっ、シルビーってやつは気遣いがないったらなのかしら、名前が似てるのにシルビアちゃんとはまるで別なのよ」

「師匠、どうしますか? 敵はこちらに近づくこともなく警戒しながら次の攻撃を待ってるようです」

「それもそうね、敵にしたら私たちが逃げることは問題ではない。人類を殺すことが目的だからね。私たちが逃げたらあのレールガンは都市を狙うわ」

「なら10分で、対処しないとですね。最初の機体は残り9分ほどでしょうか、レールガンって弾自体は金属だから、なんとか対処法を防御魔法を重ねて、陣地を作れば、遠距離での撃ち合いに持ち込めば――」

「うーん……あっ! 閃いたかしら、ナイスよシルビアちゃん、ちょっとこの場を離れるから。貴方は、この場で時間稼ぎをお願いかしら」

「え? 師匠それはどういう」
「時間が惜しいのよ、いいこと? 私が消えたら恐らく敵は都市に攻撃を始めるわ。
 レールガンが無くても別の武器があるはずだから、ここに我ありってアピールするような攻撃をしてちょうだいな、じゃ」

 ワンドは消える。片腕、片足のワンドだが魔法の能力にはまったく影響がない。魔法使いというか、それ以上の化け物じみた強さに驚きを隠せないシルビアだったが。

「分かりました、師匠、では私は師匠が戻ってくるまで時間稼ぎをさせていただきます」

 シルビアの魔法は決して派手ではないし魔力量は多くはないが、その精密さにおいては他者に引けを取らない。

 ――さっき、師匠がやった魔法、あれはレールガンそのものだった。

 だから敵は警戒した、当たらなかったが自身と同程度の威力を持つ攻撃に注目せざるを得なかったのだ。

「なら、これならどう?」

 シルビアは右腕を伸ばし人差し指を突き出す。もう片方の手でそれを支える。まるで拳銃を撃つときの構えに似ている。

「集中よ、今やるの、冷静に、そう、イメージするの、私の右手は銃身、弾丸は私の左手から無限に。……いくわ、ファイアーボールフルバースト!」

 連続発射する青白い無数の光の弾が空を舞うドローンに襲い掛かる。ドローンは回避行動を取るが瞬く間に一体に命中しバランスを崩すと次々にファイアーボールを喰らい、やがて爆散する。
「次!」

 二体目も回避行動をとる、一体目と違い警戒されていたのか時間が掛かった、だが正確なシルビアの射撃によって絡めとられこれも爆散した。

「はぁ、はぁ、……あと一体、でももう、魔力が……」

 その瞬間、ワンドが再び現れる

「あれ? シルビアちゃん、あれ? すっごーい。あれ倒したの? やるじゃない、私はもう教えることはないのだわさ!」

「師匠まだ、一体残っています。すみません私は魔力切れで……」

「あらあら、敵を前に全力を出し切るなんて、たしかに失格よね。まあ弟子だからいいのよさ、それに私の言う通りに敵の注目を浴びた。偉い、合格だわ。さてともうじきレールガンが来るかしら。
 シルビアちゃん、お疲れのところ悪いけど、この箱をもって顔の前に持ち上げるのよ」

「え? そんな大きな箱、私じゃ、ってあれ、軽いですね。中に何も入ってないんじゃ、ってそんなことより敵が」

「そう、それは空の宝箱よ、でもそれはテレポーターといって中にはテレポートの魔法が込められている。発動条件は箱が壊れたとき、でテレポートの出口はさっき設定しておいたからまあ楽しんでなさいな」

 その瞬間宝箱に衝撃が走るが手に持ったシルビアには僅かな振動しか感じられなかった。

「え? なにがなんだか」

「ほい、シルビアちゃん、箱の反対側には穴が空いてるでしょ? レールガンによって箱に穴が空いたのよ」

「はい、あれ、ですが反対側には穴が開いてませんね」

「ほれ、テレポート先はあれなのよさ、いま殺虫剤で落ちてる感じのドローンにぶち込んでやったのよ」

「ああ、なるほど、さすが師匠。
 ……あはは、勝ちましたね。でもすいません師匠、私もう限界です」

 その場に倒れるシルビア。

「あらあら無理しすぎなのかしら。まあ今回はお手柄、というよりか、成長したわね。あれは勇者様の魔法に匹敵するのかしら」

 ワンドはお役御免となった大量の箱をしり目に倒れたシルビアの介抱をはじめた。
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