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第三章

第106話 救いたい人、そうでない人①

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 俺はアンを引き取ることにした。

 あの惨劇の後、俺はすぐに魔法都市ミスリルにアンを連れ帰った。
 
 シルビアは何もしゃべらないアンにどうしたいいか戸惑っていた。
 ろくに食事も取らないアンに対して、何とか食べさせようと悪戦苦闘している。

 シルビアはとにかく食事をとらせようと頑張っていた。

 アンに対しては優しい言葉で励ましても全て嘘に聞こえるのだ。
 そう、これまでアンに対して浴びせられてきた優しい言葉は全て嘘だったのだ。
 

 俺は無力だと思った。心の傷は回復魔法では癒せない。


「ロボさん、どうしようか」
(はい、これはPTSDの症状ですね。薬を必要とするレベルの、正直回復は期待できないと思いますが。……それでも、助けると決めたのなら。全力で対処しましょう。
 綺麗な空気と何もない穏やかな日常で静かに暮らすのが彼女にとっては最良です。それに常にだれか側にいること、一人ぼっちにしないこと、なにも言わなくても常に側にいること。
それしかないでしょうね。マスターにそれができますか?)

「私もいます! 私、シルビア・ベルナドットは決めました。この子を養子に迎えます!」

 いきなりシルビアが俺を見て言った。ロボさんと俺達の会話を聞いてたのか?
(はい、シルビアはマスターの配偶者ですので。会話はテレパシーを通じて聞こえるようにしています、あたりまえでしょう?)

 ああ、ありがとうよ。でも一言欲しかった。恥ずかしいじゃないか。

「わかった、シルビアがそう言ってくれて正直に嬉しい。俺が引き取るといっても正直どうすべきか分からなかったからな」

「私もよ、でもこの子には少なくとも誰か必要です。どうすべきかは時間が解決するはず。焦らずにゆっくりと、平和な毎日を過ごす、それが大事なんでしょ?」

 心強い。

 なら、俺がやることは一つだな。
 平和な毎日を取り戻す。

「シルビア、例の議員のなんだっけ、ロクサーヌといったか、その悪党の尋問は終わったんだな?」
「ええ、魔法と薬を使って、全て自白させたわ。敵は竜王と呼ばれる御神体の復活を望んでいるようです。その、ここだとちょっと話せないから場所を変えましょう――」

 俺はシルビアからすべて聞いた。
 どうやら竜王教会はこの国の議会にまで侵食していたようだ。
 政治の方は俺は素人だからアンドレ義兄さんに任せるとして。

 しかし、それでも奴らの行いは許せない。特に司教マクシミリアン。
 あれは、人類にとっての害悪だ。 

 ――まったく、とんでもないクズがいたものだ。

 おそらく竜王という御神体はメカドラゴンの事だろう。

 魔法都市ミスリルの地下にいた奴と同等の旧人類の兵器が、別の場所にあったとしてもおかしくないしな。

 奴らあんな古代兵器を復活させて何をするつもりだったのか。
 いや、そんなのは決まってるか。どうせろくなことにはならないだろう。

 ならば慈悲はない。
 俺が全部終わらせてやる。

「デュラハン、聞こえるか? 攻撃準備だ。兵装Bで指定の現場へ急行せよ。作戦開始は三日後とする」

 三日後、それくらいあれば住民の避難も済むだろうし。
 大前提として無関係な人は巻き込みたくない。
 しかし時間をかけすぎるのも問題だ。
 癪だがユーギにも手伝ってもらうか。

 あいつはタートルロックでは、なぜか顔が利くしな。
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