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二章
25 王城へと参りました
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学園生活も1ヶ月が過ぎ、王都の街並みにも慣れた今日この頃。
私にとって日常となりつつある登校中に、この国ーーーーーラウグス王国の王候補であり、級友でもあるエーデルトラウト=ラウグス様からこのような言伝を頂いたのでした。
『申し訳ないが、明日の休日に王城へと来て頂きたい』
私はこの世界で自由に生きると決めてはいますが、決して乙女様の務めを放棄するつもりはありません。なにせそれが『素敵な恋をする』という私の目標を達成するために必要な事だと思っているからです。ですので王子様がそのように仰られるのならば何の躊躇いもなく王城へ、更にはその【王の間】へと馳せ参じるのでした。
◇
【王の間】は以前訪れた【謁見の間】とは異なり、陛下の私室になります。
ただ私室といっても多くの本が棚に並べられ、机の上にも重要そうな書類がたくさん積み上げられていました。
私室、、、いえ、仕事部屋ですね。
「よくぞ参られた」
「お久しぶりです。陛下」
「いつもいつも急に呼び立ててしまい、申し訳ない」
「いえ、陛下の職務がお忙しい事は存じております。お気になさらないでください」
「そうか。そう言ってもらえると助かる。それでだが、今回お呼びしたのは其方と会って欲しい人物がおったからじゃ」
陛下が「ほれ、こっちに」と言い、手招きをしました。すると、机の陰から男の子が姿を現し、慌てて陛下の元へと駆け寄って行きます。
「紹介が遅れたが、この子が第三王子、エリアス=フィン=ラウグスじゃ。歳は六つと斯様に幼いが、他の王候補と同等に見てもらいたい」
そう紹介された茶色髪の少年はオドオドとした様子で少し前に出て、ペコリと頭を下げました。
この子も確かに【神縁の儀】の時あの鏡面に映っていました。しかし、どのように表現すれば良いのでしょうか、、、あの頃とはどこか雰囲気が違うにようにも感じるのです。
ですがまぁ以前は御写真でお伺いしたようなものですから、実際にお会いして雰囲気が違うなんてよくある事ですよね。
「お初にお目にかかります。私はカヤ=エリュテイアと申します」
私がそう言うと、エリアス様はササっと逃げるように陛下の元へと戻って行かれました。
「すまぬの。この子はとても人見知りで、今の今まで乙女様との面会も拒んでおったのじゃ」
「そうでしたか。私はてっきり王候補がエーデルトラウト様とヴェンデル様しかおられないのかと思っておりました」
「、、、そういうわけではないのだが、、、正式にはこのエリアスも加え、あと二人王候補はおる。しかし、彼らもエリアス同様に乙女様との面会を頑なに拒んでおるのじゃ」
「、、、、、、」
えっ、、、私避けられてます、、、?!
「す、すまぬ!言い方が悪かった!決して乙女様に落ち度はない!全ては彼らの問題なのじゃ、、、!」
内心思った事が顔に出てしまったのでしょうか、陛下がそのように仰りました。
それはそれで心配ですが、、、あまりプライベートに踏み込むわけにもいきません。深掘りはやめておきましょう。
「エリアス様は勇気を出されたのですね」
「、、、、、、」
「エリアス様。エリアス様は何かご趣味はありますか?」
「、、、なに、、、それ、、、」
「そうですね、、、好きなこと、でしょうか。お散歩だったり、お料理だったり、お絵描きだったり、様々ありますが、エリアス様は普段どのような事をなされているのでしょうか?」
「、、、本、、、読むのが、好き、、、」
私の問いにエリアス様は一度陛下の顔を窺ってから、そのように答えました。
「読書ですか。良いご趣味ですね。エリアス様の読まれている本は、どのようなお話なのでしょう?良ろしければお教え頂けませんか?」
「、、、お話し、、、?違う、、、お勉強、、、してるの」
王族ともなれば英才教育も徹底しているのでしょう。ではエリアス様は読書がお好きなのではなく、お勉強がお好きなのでしょうね。
「まほうのお勉強、、、ユーリに、、、教えてもらってるの。ユーリ、すごくまほうが上手、、、いつも綺麗なお花、咲かせてるの」
「お花を咲かせる魔法ですか、、、それは興味深いですね」
土属性魔法で土壌を活性化させる?それとも水属性魔法でお水の質を高めるのでしょうか?いえ、ここは光属性魔法を使用する可能性も、、、
「ーーーーー乙女様、一つ宜しいか?」
私がお花を咲かせる魔法について思案していると、陛下がそう声を掛けてこられました。
「なんでしょうか」
「、、、実はヴェンデルの事で話があるのじゃが、、、」
ヴェンデル様、、、?ここしばらくお名前を聞く事もありませんでしたが、、、何かあったのでしょうか?
「ヴェンデルを、、、学園へと、其方と同じクラスへと通う事を、、、赦してもらえないか?」
陛下はとても申し訳なさそうにそう仰いました。
ですが、しかしーーーーー。
「あの、いったい何を赦せと仰っているのでしょう?」
「も、もちろん乙女様がお怒りなのも承知しておるが、、、しかしの、、、」
そう口籠もる陛下のお顔に、いつもの凛々しさは感じられず、とてもしんみりとしておられました。
「陛下!」
「、、、、、、っ!?」
なにをどのように思われているのか分かりませんが、ここは私の気持ちを素直にお話しましょう。
「ーーーーー私は怒ってなどおりませんよ。それにエーデルトラウト様からお聞きしております。ヴェンデル様は私との約束を守られたのでしょう。でしたらもう何も咎める事はありません。というより学園に通うのでしたら早くいらしてください。一度きりの青春、一分一秒が貴重な時間なのですから。ヴェンデル様にもそうお伝えてください」
まさかクラスメイトが欠けていたとは気付きませんでした。
ヴェンデル様はとても我儘な方のようですが、学校とは様々な性格の方がおられる場。自身とは違った考え方をなさる方々と交流し、"知識"とは違う"物の見方"を学ぶのです。
私にはそれがまだ足りていないのでしょう。そしてそれはきっと、ヴェンデル様も。
私たちは他人を知らなければならないのです。
自身の世界では収まらない、世界の広さを知る為に。
私にとって日常となりつつある登校中に、この国ーーーーーラウグス王国の王候補であり、級友でもあるエーデルトラウト=ラウグス様からこのような言伝を頂いたのでした。
『申し訳ないが、明日の休日に王城へと来て頂きたい』
私はこの世界で自由に生きると決めてはいますが、決して乙女様の務めを放棄するつもりはありません。なにせそれが『素敵な恋をする』という私の目標を達成するために必要な事だと思っているからです。ですので王子様がそのように仰られるのならば何の躊躇いもなく王城へ、更にはその【王の間】へと馳せ参じるのでした。
◇
【王の間】は以前訪れた【謁見の間】とは異なり、陛下の私室になります。
ただ私室といっても多くの本が棚に並べられ、机の上にも重要そうな書類がたくさん積み上げられていました。
私室、、、いえ、仕事部屋ですね。
「よくぞ参られた」
「お久しぶりです。陛下」
「いつもいつも急に呼び立ててしまい、申し訳ない」
「いえ、陛下の職務がお忙しい事は存じております。お気になさらないでください」
「そうか。そう言ってもらえると助かる。それでだが、今回お呼びしたのは其方と会って欲しい人物がおったからじゃ」
陛下が「ほれ、こっちに」と言い、手招きをしました。すると、机の陰から男の子が姿を現し、慌てて陛下の元へと駆け寄って行きます。
「紹介が遅れたが、この子が第三王子、エリアス=フィン=ラウグスじゃ。歳は六つと斯様に幼いが、他の王候補と同等に見てもらいたい」
そう紹介された茶色髪の少年はオドオドとした様子で少し前に出て、ペコリと頭を下げました。
この子も確かに【神縁の儀】の時あの鏡面に映っていました。しかし、どのように表現すれば良いのでしょうか、、、あの頃とはどこか雰囲気が違うにようにも感じるのです。
ですがまぁ以前は御写真でお伺いしたようなものですから、実際にお会いして雰囲気が違うなんてよくある事ですよね。
「お初にお目にかかります。私はカヤ=エリュテイアと申します」
私がそう言うと、エリアス様はササっと逃げるように陛下の元へと戻って行かれました。
「すまぬの。この子はとても人見知りで、今の今まで乙女様との面会も拒んでおったのじゃ」
「そうでしたか。私はてっきり王候補がエーデルトラウト様とヴェンデル様しかおられないのかと思っておりました」
「、、、そういうわけではないのだが、、、正式にはこのエリアスも加え、あと二人王候補はおる。しかし、彼らもエリアス同様に乙女様との面会を頑なに拒んでおるのじゃ」
「、、、、、、」
えっ、、、私避けられてます、、、?!
「す、すまぬ!言い方が悪かった!決して乙女様に落ち度はない!全ては彼らの問題なのじゃ、、、!」
内心思った事が顔に出てしまったのでしょうか、陛下がそのように仰りました。
それはそれで心配ですが、、、あまりプライベートに踏み込むわけにもいきません。深掘りはやめておきましょう。
「エリアス様は勇気を出されたのですね」
「、、、、、、」
「エリアス様。エリアス様は何かご趣味はありますか?」
「、、、なに、、、それ、、、」
「そうですね、、、好きなこと、でしょうか。お散歩だったり、お料理だったり、お絵描きだったり、様々ありますが、エリアス様は普段どのような事をなされているのでしょうか?」
「、、、本、、、読むのが、好き、、、」
私の問いにエリアス様は一度陛下の顔を窺ってから、そのように答えました。
「読書ですか。良いご趣味ですね。エリアス様の読まれている本は、どのようなお話なのでしょう?良ろしければお教え頂けませんか?」
「、、、お話し、、、?違う、、、お勉強、、、してるの」
王族ともなれば英才教育も徹底しているのでしょう。ではエリアス様は読書がお好きなのではなく、お勉強がお好きなのでしょうね。
「まほうのお勉強、、、ユーリに、、、教えてもらってるの。ユーリ、すごくまほうが上手、、、いつも綺麗なお花、咲かせてるの」
「お花を咲かせる魔法ですか、、、それは興味深いですね」
土属性魔法で土壌を活性化させる?それとも水属性魔法でお水の質を高めるのでしょうか?いえ、ここは光属性魔法を使用する可能性も、、、
「ーーーーー乙女様、一つ宜しいか?」
私がお花を咲かせる魔法について思案していると、陛下がそう声を掛けてこられました。
「なんでしょうか」
「、、、実はヴェンデルの事で話があるのじゃが、、、」
ヴェンデル様、、、?ここしばらくお名前を聞く事もありませんでしたが、、、何かあったのでしょうか?
「ヴェンデルを、、、学園へと、其方と同じクラスへと通う事を、、、赦してもらえないか?」
陛下はとても申し訳なさそうにそう仰いました。
ですが、しかしーーーーー。
「あの、いったい何を赦せと仰っているのでしょう?」
「も、もちろん乙女様がお怒りなのも承知しておるが、、、しかしの、、、」
そう口籠もる陛下のお顔に、いつもの凛々しさは感じられず、とてもしんみりとしておられました。
「陛下!」
「、、、、、、っ!?」
なにをどのように思われているのか分かりませんが、ここは私の気持ちを素直にお話しましょう。
「ーーーーー私は怒ってなどおりませんよ。それにエーデルトラウト様からお聞きしております。ヴェンデル様は私との約束を守られたのでしょう。でしたらもう何も咎める事はありません。というより学園に通うのでしたら早くいらしてください。一度きりの青春、一分一秒が貴重な時間なのですから。ヴェンデル様にもそうお伝えてください」
まさかクラスメイトが欠けていたとは気付きませんでした。
ヴェンデル様はとても我儘な方のようですが、学校とは様々な性格の方がおられる場。自身とは違った考え方をなさる方々と交流し、"知識"とは違う"物の見方"を学ぶのです。
私にはそれがまだ足りていないのでしょう。そしてそれはきっと、ヴェンデル様も。
私たちは他人を知らなければならないのです。
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