魔王な悪役令嬢はハッピーエンドに立ち向かう！

01 転生

　死にたくない！

　そう強く願ったのはこれが生まれて初めてだった。
　それが死ぬ直前の未練となってしまったけれど。三十手前にし、この命尽きるなら、私にとっての一生は短いものに違いない。
　また、その一生が幸せだったかと聞かれれば、"ノー"と即答してしまうような有り様で、私はこの人生に後悔ばかりを残した
　だから、もし生まれ変わりがあるならば今度こそ幸せに、長生き出来るといいな。なんてーーーーー。

　あぁもう……いや……死にたく、ない……


　◇



「わたし、アンナ=レイヴァテインがこの国、この世界の平和の為にーーーーー魔王である貴女を倒します！」

　可愛らしい声色。そして綺麗な黄金の髪。
　美しいと形容するよりも、愛らしい見た目の少女がその容姿に不釣り合いな大剣を携え、そう名乗りを挙げた。

　誰に？
　辺りを見回しても私以外に人はいない。
　というか、そもそもここはどこ⁉︎
　私、車に轢かれて死んだはずじゃ？
　でも、病院でもあの交差点でもない⁉︎　どこなの⁉︎　そして誰なのあなた⁉︎　どこかで見たこともあるような気がしなくもないけど……

　実用性皆無の派手な玩具のような大剣。
　そしてアンナという名前の少女……まさかここって、恋愛シュミレーションRPG"星と月の輝き～レイヴァテインの姫～"の世界⁉︎
　嘘でしょ⁉︎
　だったら魔王って……

「覚悟！」

　うぉおおおおお！　と声を上げながら、その大剣を標的目掛けて振りかざす。

「いや……来ないで⁉︎　お願いだから、待ってーーーーー」

　懇願虚しく、大剣は振り下ろされ、国を破滅へと導いた魔王こと悪役令嬢ティアラ=ヴィドフニルは討ち取られ、この物語はハッピーエンドを迎えた。

　めでたしめでたし。




「ーーーーーいやぁああああ‼︎」
「お、お嬢様⁉︎　お目覚めになられたのですね⁉︎　ですが急に身体を動かされてはいけません！」
「……フリージア？」

　あれ？　どうして私この人の名前を知ってるの？　初対面のはずなのに……

「はい。ティアラお嬢様専属メイド、フリージアにございます。意識ははっきりとしていらっしゃるようですね。良かったです」
「え、えぇ……っあ、アンナ⁉︎　アンナはどこにいるの⁉︎」
「アンナ……様ですか？　聞いた事のないお名前です。どちらのご令嬢でしょうか？」
「レイヴァテインよ！　レイヴァテイン！　アンナ=レイヴァテイン！　それか勇者！」
「レイヴァテイン……勇者？」

　フリージアは心当たりを思い返そうとはしたようだったが、しばらくしてにこやかに微笑み「分かりません」と答え、私に身体を休めるように促した。

　天蓋付きのベッド。
　この懐かしさやどこからかくる悲しみは何なのだろう。
　分からない。分からない事が多すぎて、現実味がない。
　これが夢だと知れば、全てに納得が付くけれど。

　残念ながら違う。

　私が死んだ事。そしてティアラとしてアンナと出会い殺された事。その全てが現実で。今が"星と月の輝き～レイヴァテインの姫～"のオープニング以前、シナリオ設定でさえ語られない、ティアラの幼少期だということさえも。

　まさか、転生したの……？