魔王な悪役令嬢はハッピーエンドに立ち向かう！

04 最凶

　真赤な太陽が辺りを色鮮やかに照らし出し、心と身体に温もりを感じさせる。
　身体をすり抜ける風には、ほんのり土の匂いが混ざっていた。
　けれど地面にぬかるみは無く、地は固く、今日はまさしく剣術日和だーーーーー

「良かったのですか？父上。ティアに剣を習わせるなんて」
「……聞かないでくれ。私だって納得出来ていないんだ……だが、あいつがあそこまで頼み込むのが珍しくて、つい許してしまったが……まだ決まったわけではない」

　悪役令嬢ティアラの父、ノーキンス=ヴィドフニル公爵とその令息であるティアラの兄リミットの心配をよそに、私は意気揚々と木剣を握っていた。

　流石に重いわね。
　子供用の木剣と言っても幼女にとっては振り回すのも一苦労しそうね。
　それでも、私なら問題ない。

　その根拠となるのが、ティアラ=ヴィドフニルが"星と月の輝き～レイヴァテインの姫～"の強敵ラスボスたる所以、最強にし最凶の魔法属性【支配】の存在だった。

　ありとあらゆる事象に干渉し、その全てを支配する力。まさにチートそのものだ。
　本来ならその力を覚醒するのは私が10の歳だったけど、なぜか前世の記憶を取り戻したあの日、私はその力も一緒に取り戻していた。
　その事をまだ誰にも言っていないけど。

　なんだかんだ言って、ゲームの時の私はこの力に振り回されていたのだと思う。
　最強の属性は王家にとって国の更なる繁栄へと繋がる希望だった。しかし、相反する最凶の属性は他国にとって脅威でしかなかった。
　その結果が悪役令嬢ティアラの誕生であり、国の破滅へと繋がるのだけど。

　もう間違えない、なんて聖人でもない私には不可能でしょうね。
　だったら大切な人を傷付けない、そんな力を私は欲するわ。
　そのためにも私は私自身を正しく支配してみせる！

「ーーーーーテルミッド教官！準備は出来ましたわ！いざ尋常にお相手を！」
「……勇ましいお方だ。ですがこちらも手を抜くわけには参りませんから、どうかお気を付けを」

　剣術を学ぶにあたり、お父様と交わした条件、その一つが才能を見せる事。
　ヴィドフニル公爵家は魔術に秀でた一族として広く知られている。ゆえにその関係者が、ましてや公爵の娘が騎士に剣を習うというのははっきり言って外聞の良いものではない。
　だからこそ、確かな才能を見せる必要がある。その者に剣術を学ばせない事こそが損失であると思わせられる程の。

　その相手として選ばれたのが、テルミッド教官。
　本名をクーナー=テルミッドと言い、かつては王国騎士団の副団長を務めた程の実力者で、歳から副団長の任を離れた今、教官として新人騎士の育成に熱を注いでいた。

　お父様からの条件はそんなテルミッド教官と試合をしーーーーー"勝つこと"

　普通だったらせめて一発入れるとかにするよね？それを三本先取の試合で勝つって……お父様は私にどうしても剣を習わせたくないみたいね。
　まぁそれも過保護ゆえなのかしら。

　お父様、お兄様、そしてフリージア。
　貴方達が私のことを想っていてくれるのは嬉しいのよ。困らせたくて無茶をしているわけじゃないの。

　だから早く安心させてあげるわ。
　そして教えてあげる。
　私が"最強"だってね！