魔王な悪役令嬢はハッピーエンドに立ち向かう!

夢見月まひわ

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05 宣言

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「ーーーーー私はノーキンス=ヴィドフニル様とティアラ=ヴィドフニル嬢との間に取り交わした契約、また此度の試合において不正なき事を監視する為にクロノス教会より派遣されました助祭リリアナと申します。よろしくお願いいたします」

 "均衡"を司る神、クロノス。
 かの者を主神と崇めるクロノス教会は政治に一切関与することはなく、このように公正な立会人としての役割を担うことが多い。今回は私の提案により、教会人に立ち会ってもらうことにした。

 お父様が約束を反故にするとも思えないけど、それでもこちらが本気であることを示すには最善を尽くすべきだ。

「それではノーキンス=ヴィドフニル様並びにティアラ=ヴィドフニル様は宣言を行なってください」
「ノーキンス=ヴィドフニルの名においてここで宣言する。私は潔白であり誠実であると」
「ティアラ=ヴィドフニルの名においてここで宣言いたします。私は潔白であり誠実であると」

 事前にリリアナに伝えた契約内容の詳細。それはこの試合に私が勝てば剣術を学ぶ許可を正式に得ること。そして私が負けた場合はこれから一生剣術を学ばせない、と言ったものだった。
 神への宣言を裏切れば、それだけで重罪。つまりこれでもう後戻りは出来ない。
 私はこの試合に勝つしかない!

「宣言を聞き入れました。それでは試合開始です!」

 助祭リリアナの合図とともに、テルミッド教官が素早く接近する。

 相手の出方さえ窺わないのは侮られている証拠だ。まぁこんな愛らしい幼女を前に身構える騎士なんて情けないばかりだ。だからそんな彼の行いを誰も咎められないだろう。

「お覚悟を‼︎」

 勢いはあるものの重みのない一撃。
 それはテルミッド教官の手心によるものだ。
 だがそれは些細な事に過ぎない。

「ッ⁉︎そんなまさかーーーーー⁉︎」

 だって普通、そんな背景があろうとなかろうと、大人が振るった一撃を幼女が涼しい表情で受け切るなんて不可能だからだ。

「ーーーーーそういえば教官は宣言をされていませんでしたね。どうです?今からでも宣言いたしませんか?この試合において一切手加減されないと。そうでなくては私が楽しめませんし」

(避けるでもなく、逸らすでもなく受け止めるとは……これだけでその才能は十分に示された。だがそれでは契約違反になりかねない。この若き新芽も自ら修羅の道を征くというのか……それにこの者に手を抜いて勝とうなどと、私も耄碌したものだ……)

「これより私はこの試合において一切手加減をいたしません!」
「ティアラ=ヴィドフニルがその契約を承認します」
「感謝いたします!クーナー=テルミッドの名においてここに宣言いたします!私は潔白であり誠実であると!」
「聞き入れました。契約の成立を確認しました」

 淡々と結ばれた契約にお父様が異を唱えようとしたが、その行いは教義規則に抵触するため、兄リミットがどうにか父を抑えていた。

「では、本気で参ります!」

 本気という言葉通り、テルミッド教官の動きは先ほどのものとは一段も二段も洗練されたものとなっていた。

 これだけ動けて50過ぎだって言うんだから驚きよね。
 それにしても息遣い、視線、指の動きから重心に気配までもがその一歩を踏み出す行動に繋がっているせいか、彼の存在が大きく見えるわ。
 これが武人の放つ圧力プレッシャーってわけね。

 テルミッド教官はさっきとは打って変わって慎重にけれど大胆に踏み込み、一切の躊躇いもなく剣を振るった。私はそれを後ろに飛び退き、そのまま一旦距離を取った。

 息は浅く……いえ、そう見せているようね。そして視線は攻撃を予測されないようにフェイクを混ぜ、瞬きでさえタイミングを悟られないように慎重に。
 剣の握りは固く。けれど柔軟に。
 それを実現する為の指の動きなのね。
 テルミッド教官なら小指以外の指一本でも剣のグリップを握っていればある程度の攻撃が出来そうね。

(いやはや、素人のような動きはどこへやら……これではまるで歴戦の騎士のようではないか……)

「ーーーーー2回も先手をお譲りしたのです。次はこちらから行かせてもらいます」

 圧倒的に足りない筋量を魔法属性【支配】の能力の一つ《自己支配》でカバーし、接近する。
 ティアラの接近にテルミッド教官は迎撃態勢を取っていた。

 ふふ、最強と恐れられた私を迎え撃とうだなんて、30年遅いのよ!この老いぼれめ‼︎
 あんたの人生これでお終いよ‼︎
 《精霊支配》《空間支配》《時間支は……⁉︎

 って待って……わたし…………いま何をしようと…………⁉︎

 思い切り飛び出したティアラが急に動きを止めた。
 テルミッド教官はその隙を見逃さず、強烈な一撃を幼女に見舞い、ティアラは後方へと10メートル程飛ばされた。
 そしてそれは当然の如くリリアナに一本としてカウントされた。
 痛みや肉体的ダメージは全て《自己支配》で反射的に軽減はしたが。

 な……に……わたし、いま人を殺そうと考えたの?それにあれじゃまるでゲームの悪役令嬢ティアラ=ヴィドフニルそのものじゃない⁉︎
 どうなっているの……?

 自分が自分でなくなるような、そんな感覚にティアラは恐怖を覚えた。

 い……嫌よ……だってそんなの、死ぬのと同じ事じゃない⁉︎
 わ、私はここにいるのよ⁉︎
 私は悪役令嬢ティアラ=ヴィドフニルじゃないのよ……私は、私はーーーーー

『だれ?私の身体で好き勝手している貴女は誰?』

 そんな言葉が聞こえたかと思うと、私の意識はそこで途絶えてしまった。
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