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06 忠告
しおりを挟む『ここまでするなんて、神様って本当に意地が悪いわ。あなたもそう思わない?』
そう聞いてきたのは王室の玉座に腰掛けた十五、六程の少女だった。
闇を彷彿とさせる黒髪に、不吉と揶揄される真紅の瞳を持つ少女。
そんな彼女の事を私は知っていた。
なぜならその姿こそが、ゲームの最終局面で主人公を苦しめるティアラ=ヴィドフニルそのものだったからだ。
「私がもう一人……?」
『ふふ、おかしな事を言わないで。私は私、貴女は貴女。だからもう一度問うわ。貴女は誰? そして私の身体でいったい何をしようとしているの?』
恋愛シュミレーションRPG "星と月の輝き~レイヴァテインの姫"。そのラスボスである悪役令嬢ティアラ=ヴィドフニルが不敵な笑みを浮かべた。
笑顔の彼女を前にし、私は全身が凍りつくかのような寒気を覚えた。
『そんなに怯えられても困るのだけど……まぁ、いいわ。それよりも貴女に二つほど忠告しておかないといけない事があるから、そのままでいいからよく聞くのよ』
ティアラはスッと立ち上がり、身の丈に合わない王家の紋章が入ったマントを地面に擦らせながら近付いてきた。
『一つ目は、魔法は万能ではないという事。貴女が何者かは知らないけれど、魔法を行使する際に魔力を消耗する事ぐらいは知っているでしょ? 魔力は精神と密接な関係にあるわ。ゆえに魔力を過剰なほどに消費すると、精神に異常をきたすことになるの』
きっとテルミッド教官へ攻めへと転じた時のことを言ってるのね。
魔力の消耗……ゲームではマジックポイントとして数値化されていたから考えなかったけど、実際には肉体疲労に似た現象が起きるってことかしら。
『そして二つ目は、レイヴァテインを名乗る少女を助けなさい』
「……え?」
助ける⁉︎ あの悪役令嬢ティアラ=ヴィドフニルが主人公のアンナ=レイヴァテインを助けるようにって言ったの⁈
『忠告は以上よ。精々死なないように頑張りなさい。ま、無理だと思うけれど』
「待って⁉︎ 何か知ってるなら教えてーーーーーッ‼︎」
酷いノイズが頭に響いた。私は堪らず頭を押さえて体を丸め、目を閉じた。するとノイズは次第に緩和し、次に目を開くと悪役令嬢ティアラの姿はなく、広い空と私を心配する家族の顔が目に映った。
「わたし……」
「動くでない‼︎ そのままじっとしているんだ‼︎ いま担架を持って来させている‼︎」
テルミッド教官の渾身の一撃が決まり、吹き飛んだ幼子がピクリとも動かない。それは最悪を想定するには十分な光景だったことだろう。
なんせ皆んなが揃って顔を青ざめさせる程なのだから。
……気を失って数分も経っていなさそうね。
身体に痛みはない。
防衛本能とでも言うのかしら。咄嗟に【自己支配】で身体の強度を上げてたみたいね。
「動くなと言っておるだろ⁉︎」
「問題ありませんわ、お父様。この程度の打撃では、私の柔肌に傷ひとつ付ける事も叶いませんから。それより助祭リリアナ、試合はまだ途中でしょ? 続きを始めたいのだけれど、良いですよね?」
「はい。むしろ契約では三本先取された方が勝者となっておりますので、あなた方が誠実で敬虔な教徒である事を神クロノス様へ証明するためにも、速やかに試合を再開される事をお勧めいたします」
「ーーーーーこれ以上の愚行をわしが許すはずがなかろう‼︎」
「そうです! あんなのどう見ても奇跡的に偶然にも無事だっただけですよ⁉︎ 死んでいたっておかしくは……⁉︎」
愛娘を想うゆえに怒り狂うお父様に、妹の死を想像し涙ぐむお兄様の姿に何も思わないわけじゃない。
それが今の私の引け目となっているのも事実だった。
それでも今この時を乗り越えなければ、ゲームのシナリオ通りの悪役令嬢ティアラ=ヴィドフニルの後を追ってしまいそうで酷く怖い……。
だからこの道こそが、私が私でいるための道だって信じて進むの‼︎
「ーーーーー何を慌てているのか知りませんが、お父様、お兄様。見ていてくださいまし。私の本気を」
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