魔王な悪役令嬢はハッピーエンドに立ち向かう！

13 殿下

「あなたがヴィドフニル家のご令嬢、ティアラ様ですね」

　オルセル騎士との試合から3ヶ月が経ち、遂に訪れたこの瞬間。

「初めまして、僕はアイビー=グレイ=トワイライトと言います。どうぞ、アイビーとお呼びください」

　この国の幼き第一王子はそう言って優しく微笑んで見せた。

　その名前、その仕草、その笑顔。
　本編よりもずっと幼いが、それは間違いなく"星と月の輝き～レイヴァテインの姫～"に登場する攻略キャラであり、イケメン万能王子ことアイビー=グレイ=トワイライト本人だった。

「お初にお目に掛かります。アイビー様。私はノーキンス=ヴィドフニルの娘、ティアラ=ヴィドフニルと申します。この度は殿下の生誕祭にお招きいただき、心より感謝しております」
「そのように畏まらないでください。この場は無礼講であると、先に陛下が仰られたのですから」

　華々しく煌びやかに彩られた会場に、沢山の料理が並べられていた。
　今日はアイビー殿下の6歳の誕生日。この華やかな会場はアイビー殿下を祝うために用意された。
　そして同時に、この場はアイビー殿下の婚約者候補や、殿下の側近に相応しい優秀な人材を探し出すという側面も持ち合わせていた。
　そのため殿下の年齢に近い貴族の子息子女が多く招かれていた。
　私もそのうちの一人に過ぎない。

「貴女のお噂を耳にしてから、こうしてお会い出来ることをとても楽しみにしていました」
「あら、お恥ずかしいですわ。私など平凡な公爵の娘に過ぎませんゆえ、きっと殿下の期待には沿えませんわ」

　アイビー=グレイ=トワイライト。
　複数ある"星月ホシツキ"のエンディングの中でも彼アイビーと主人公が結ばれるシナリオがトゥルーエンドと言われる程に人気があり、またそんなイケメン王子を推しとするプレイヤーも沢山いた。

「いいえ、そんな事はありませんよ。僕がお聴きした噂についてですが、公爵家のご令嬢が元王国騎士団副団長クーナー=テルミッドに剣術で打ち勝ち、現役王国騎士団団員十数名を一斉に相手取り軽くあしらった挙句、団長オルセル=アンデュークと互角に渡り合ったと言うものでした。しかし、そのお方がまさかこのように愛らしいお姿のご令嬢であっただなんて夢にも思っておりませんでした。ですから貴女の存在が既に、僕の期待を超えているのです」

　真剣な顔つきで殿下がそう仰った。
　そしてじっと目を見てこう付け加えた。

「気を付けてください。貴女はどんな花より美しいのですから」

　最後に殿下がニコリと微笑み、私と殿下のお見合いは終了し、次の令嬢がうっとりとした顔つきで殿下にグイグイと詰め寄っていた。

　私は素早く殿下から距離を取り、会場の柱に身を隠す様にもたれ、小さくため息を吐いた。

「……あれは警告ね」

　良くも悪くも目立ち過ぎた。
　いえ、あの優しい殿下が警告するほどなのだから、きっと悪目立ちが勝ったんでしょう。

　現時点でさえ王国騎士団団長と互角に渡り合うだけの力がある。だけど、それでも悪役令嬢ティアラの全盛期の力には遠く及ばない。
　本編のクライマックスのように一国を相手取る程の力が、今の私にはない。
　殺される運命の悪役令嬢に転生し、その焦りからか、事を急ぎ過ぎたようね。

　一度、落ち着きましょうか。

「ーーーーーおいそこの黒髪の女！　てめぇがティアラとかいう卑怯者か‼︎」

　突然の事にしばらく呆気に取られたが、その声の主と目が合い、大きくため息を吐く事になった。

　そこにいたのはオルセル様の実息、リグル=アンデューク。
　アイビー様に続き、攻略キャラとの本日2度目の出会いとなった。



　嫌な予感しかしない……。