魔王な悪役令嬢はハッピーエンドに立ち向かう!

夢見月まひわ

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17 天使

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「ーーーーーお父様はどこにいるかしら?」
「旦那様でしたら書斎におられるかと……あのお嬢様、そちらの方達はいったい?」
「この子たちは私のお客さんよ。ただまぁ、見ての通りだからを用意できない? もちろん誰にも内緒でね」
「かしこまりました。湯浴みの方から取り掛からせていただきますので、もうしばらくお待ちください。準備が整いましたらもう一度お伺いいたします」

 "星月ホシツキ"の攻略キャラであるダークスには元々は孤児という設定があった。
 確か八歳の頃に"大魔導士の生まれ変わり"という評判を聞きつけた伯爵家に物珍しさから養子になる事を提案され、それを承諾した事で貴族となり、学園に通っていた。
 よって現時点で八歳に満たない彼らはまだ孤児のままだった。

 孤児生活に充実した衣食住なんて望めるはずもなく、ボロボロな服に艶のない髪、痩せ細った身体が私と彼らの身分差をそのまま表していた。
 階級制度がある時点で貧富の差はあって当然だ。だけど、それをいざ目の当たりにすると胸が痛むわね。
 ゲームのラストでバッドエンドを迎える悪役令嬢に転生してしまった事はもちろん不幸だけど。それは未来の話であって、今の私は衣食住に困るどころか、毎日良い服を着て、美味しいご飯を食べて、ふかふかなベッドで寝ている。
 十分過ぎる程に幸せを感じている。
 だけど悪役令嬢ティアラは、これ以上の幸せが欲しかったのでしょうね。
 彼女は何を求めて国を支配しようとしたのか。ただの悪役令嬢の気まぐれだったのか、それともーーーーー。

「なぁ、勝負はまだか?」

 私室に招き入れ、お茶菓子を出して黙らせていたが、無作法に口に放り投げペロリと完食したダークスがそう騒ぎ立てた。

 私はとりあえず何も口に出来ていなかったルーチェに私の分のお菓子を渡した。ルーチェは申し訳なさそうにしながらもそれをとても美味しそうに食べていた。
 ルーチェの可愛らしさに平常心を取り戻し、私は冷静にダークスに対応する。

「あんたね。勝負するにも色々準備ってものがあるのよ。いきなり押し掛けてきてただ勝負勝負って、勝負の内容も場所も安全も確保出来ないままで出来るわけないでしょう」

 安全、というか命の保証というか……これに関しては私に自信がなかった。子供相手にどこまで手加減すればいいか分からない。

「あと簡単な礼儀についてだけど、何かものを頼む時は自分の名ぐらい名乗るのが常識よ。あんた達は私の事を知っているでしょうけど、私はあんた達の事をこれっぽっちも知らないのよ」

 前世の記憶から彼らの事を知っているからここまで名乗りもなく話しを進めてしまっていた。

 私と彼らは初対面で、私は彼らの事を一切知らない。
 そうでないと、今の彼らが何も思わずとも後に私に対する不信感に繋がるかもしれない。
 攻略キャラ、ダークスとのファーストコンタクトに不安要素を残したくない。

「名前か……そういやまだだったな! 俺は大魔導士ダークスだ! そんでこっちが俺の最強の相棒ルシェだ!」
「本当はルーチェです。クッキー美味しかったです。ありがとうでした」

 あぁ、この残念魔術師はこの頃から大魔導士って名乗ってたか。
 そしてルーチェちゃんはダークスとは違ってとっても良い子ね!

「ダークスとルーチェね。私の事は知ってると思うけど、ヴィドフニル公爵家の長女、ティアラ=ヴィドフニルよ。あんた達にはティアラ様と呼ぶ権利を与えてあげるわ!」
「はっ! 何を偉そうに。俺は大魔導士だぞ、てめぇみたいなチビにどうして様なんか付けなくちゃいけないんだよ! むしろお前こそが俺を様付けにしろ!」

 ……本当にどうしようもないくらい阿保だ、こいつ……⁉︎

 ダークスのトチ狂った発言に頭を抱えていると、ルーチェが急に立ち上がりこう言った。

「ーーーーーティ、ティアラお姉ちゃんって……よ、呼んでも良い?」
「お姉ちゃん……いいわ! ぜひそう呼んでちょうだい!」

 顔を真っ赤にいじらしい姿を見せるルーチェ。
 間違いない……この子は天使よ⁉︎
 実はダークスとルーチェは私より一つ歳上で、年齢で言えばむしろルーチェが私のお姉さんだとかそんな事はこの際どうだっていい!

「何言ってんだ、ルシェ! こいつはいづれこの国をーーーーー!」

 ダークスが何かを言おうとした時、ちょうど湯浴みの準備が整ったという知らせがあり、ダークスとルーチェはフリージアに連れられ、こっそりと湯浴み場に向かって行った。

 私がいづれこの国をーーーーー"破滅へと導く"

 なんて……まさか、ね。




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