魔王な悪役令嬢はハッピーエンドに立ち向かう！

18 結界石

「さぁて、準備は整ったわ！　これで思う存分暴れられるわね！」

　ダークスとルーチェが公爵家別宅に訪れて三日後の朝。私達は事情もあまり詮索する事なく様々な手続きを行ってくれたお父様と共に、王城敷地の一角に建てられた大きな訓練場にやってきていた。

「『実力を確かめたい子がいる』とは聞いたが、まさか本当に聖痕せいこんもない子供とは……」

　10歳を迎えると神から体内と体外へ魔力の通り道となる聖痕が与えられる。
　これに例外はなく、誰しもがその歳になると利き手の甲に魔力属性を表す聖痕が浮かび上がる。
　悪役令嬢ティアラも本来はそのタイミングで《支配》に目覚め、魔法を使えるようになるのだけど、ダークスは違った。

　いくら大魔導士と容姿が酷似していようが、それだけで孤児が貴族に取り込まれるなんて有り得ない。
　そして彼の自尊心や過剰なまでの自信。大魔導士と名乗る純真さは彼が異質であるが故に肥大していた。
　彼、ダークスは聖痕がなくとも魔力を体外へ放出する事ができる、いわゆるーーーーー。

「彼は神子みこです」

　魔力の通り道が無くとも身体から魔力を放出できるのは、体と魔力との親和性の高さを意味している。

「神子……⁉︎　それは本当か⁉︎」
「はい、間違いありません。これからの模擬戦を見て頂ければ、その証明になるでしょう」

　神子は教会的にも政治的にも利用価値が高い。それは《支配》属性に並ぶ希少性とその神秘性ゆえのもの。
　もしダークスにその天性に見合った実力があったならば、神とさえ崇められていただろう。

「勝負の内容はさっきも説明した通り、1対2の模擬戦で、身体を覆う防護結界が先に壊れた方の負け。あとどちらかが負けを認めればその時点で勝敗がついたことになるわ。なにか質問はある？」
「なぁ、このボウゴケッカイってのはどんだけの力で壊れるんだ？」
「そうね……ドラゴンの一撃ぐらいなら防げるんじゃないかしら？」
「は⁉︎　ドラゴン⁉︎」

　【結界魔女セパレイター】と呼ばれるお母様特注のネックレス型結界石。
　この結界石を身に付けていれば打撃、魔法攻撃はもちろん精神に作用する魔法さえ防いでくれるという。
　けれど、それはあくまで彼らの首に掛けられた結界石の話であって、私に張られた結界はごく一般的なものだったりする。まぁその事をダークスに教えるつもりはないけど。

「ーーーーーなに？　まさか大魔導士様はこの結界を割る自信がないのかしら？」
「おいおい……⁉︎　煽ってじゃねーぞ⁉︎　クソチビが‼︎」
「ティアラお姉ちゃん……私たちは負けないです」

　お父様や多くの王国騎士に見守られる中で子供同士の模擬戦は始まった。