魔王な悪役令嬢はハッピーエンドに立ち向かう！

22 再会

『ーーーーーほんと、無茶するんだから。一歩間違えれば死ぬような賭けを躊躇しないなんて、貴女いかれてんじゃないの？』
「……貴女にだけは言われたくないわ」
『ふ～ん……私の事を知っているようなその口振り、気に入らないわね』

　以前、テルミッド教官と打ち合い、気を失った時と同じ空間。そしてそこにいる正真正銘の悪役令嬢ティアラ=ヴィドフニル。

　……死んだ、とは思いたく無いけれど……ここは何処なのかしら、それに彼女はいったい……？

『まぁ、なんだって良いわ。ちょうど暇をしていたし、貴女が私の玩具になってくれるなら貴女の聞きたい事、知りたい事に多少は答えてあげても良いのよ』

　訝しげな表情を浮かべる私の心情を察してか、彼女はそう提案してきた。

「ティアラ=ヴィドフニルの玩具おもちゃって……想像するだけでゾッとするんだけど」
『あら、玩具は嫌なのね。なら下女げじょでもいいわよ』
「それ、貴女にとっては同義でしょ。暇で暇で仕方なくて、ただ誰かとお話していたいなら、友達でいいじゃない」
『……友達？　私と貴女が？　……………まぁここなら誰も文句は言わないものね。いいわ、なら友達になりましょう。そして光栄に思いなさい、貴女が私の初めての友達よ』

　悪役令嬢ティアラは自信満々の表情を浮かべ、手を差し伸べた。
　そこには以前感じた恐怖はなく、ただ高慢で高飛車な公爵令嬢といった印象しかなかった。
　だから私は何の躊躇いもなく、彼女の手を取った。

「……光栄なことではあるけど、誇ることじゃないわよ、本物のティアラ様」
『そうかしら？　友達という曖昧な繋がりは隙にしかならないわ。そういう貴女こそ気を付けなさいな、偽物のティアラわたし』

　そこから私と悪役令嬢ティアラのお話が始まった。
　それで分かったことと、分からなくなったことが判明した。
　分かったことの一つは、目の前にいる悪役令嬢オリジナルは私の転生直後、アンナ=レイヴァテインに斬り付けられた世界線で生きていた人物であったということ。
　二つ目が、悪役令嬢オリジナルにとってその世界線さえ13度目の出来事であったこと。つまり彼女は13度、悪役令嬢としてアンナ=レイヴァテインに挑み続けていたらしい。

「ーーーーーどうしてそんな事になるのよ……そんなに何度も人生をやり直したら、どこかで更生するでしょうに……」
『更生？　……たった数度死んだぐらいで人の心が変わるわけないでしょう。本当に馬鹿らしいわ』

　彼女はどこか遠くを見つめるようにそう言った。
　そして三つ目がこの王城の中のような空間についてだった。ただ話を聞いても理屈はよく分からず、彼女が創り出した不思議な世界としか理解できなかった。

　それで分からなくなったことというのが……私の前世の名前だった。

「……どうして気付けなかったの……？」

　彼女に本当の名前を聞かれるまでその事を全く気にもしなかった。

『きっと貴女を飼い慣らそうとでもしたのでしょうね。方法としては一番単純だけど、最も効果のある"祝福のろい"よ』
「のろい……？」
『ええ。主人に一切逆らえなくなる、とても古風な祝福のろい。それをしたのがどこの誰かは知らないけど、でもまぁ今頃歯痒い思いをしているんじゃないかしらね』

　クスクスと楽しそうに彼女は笑った。

「それってどういう意味？」
『……貴女は知らなくていいわ、そっちは私の領分だもの』

　彼女との会話は転生後の疑問を晴らすのに役に立ち、有意義な時間を過ごせたと思う。だけど、そんな事がなくとも私は彼女との会話をただ楽しいと、そう思えた。