魔王な悪役令嬢はハッピーエンドに立ち向かう！

21 支配

『貴方達のような天使が私の元に生まれてきてくれて、本当に良かった……』

　ーーーーーそれが俺の知る最も遠い記憶であり、そしてあの人の最期の言葉だった。


　◇


「あ、あぁ……」

(なんだあの禍々しい魔力は……⁉︎)

　ダークスはティアラから漏れ出す《支配》属性の魔力に触れ、身体の自由を奪われていた。

「ダーク‼︎　ねぇ、しっかりしてダーク‼︎」
「……ルシェ、お前は平気なのか……？」

　周りの大人達もティアラの魔力に触れ動けないでいる中、ルーチェだけがその圧に耐えていた。

「……ルシェは知っていたから……ティアラお姉ちゃんの魔力属性には誰も抵抗出来ないって」
「なに言ってんだ……俺とお前がいりゃ最強だって、お前もそう言ってたろうが……‼︎　それにお前は無事じゃねーか‼︎　なら俺たちはまだ負けちゃいねぇ‼︎」
「ーーーーーうん。そうだね。でもね……今の私じゃこれが限界なの。ティアラお姉ちゃんには勝てないよ」

　ルーチェは悲しげな表情を見せた。

「ルシェ……？」
「でもね。このままティアラお姉ちゃんを待たせるのも可哀想だよ‼︎　だから今のダークとルシェの本気を、ティアラお姉ちゃんにぶつけようよ‼︎」
「…………上等じゃねーか⁉︎　ついでに兄を見くびる妹の目も覚まさせてやる‼︎」
「うん。お願い、お兄ちゃんーーーーー」

　ルーチェがダークスの背中にもたれるような形で《魔力譲渡マナヒール》が行われると、ダークスはティアラの《支配》から抜け出し、すかさず魔法を発動した。

「ーーーーー《衝滅ヴァニタス》」

　奇しくもその技はラスボスティアラ戦攻略に於いての定石と酷似していた。その定石とは《暗黒玉ダークスフィア》で5ターンの間、防御を余儀なくされるティアラに向かって作中一の火力を誇る《衝滅ヴァニタス》を撃ち込み、早々に結界を割るという単純なものだったが、それこそがダークスルートでの唯一の必勝パターンと言われていた。

　日の光さえ呑み込む超高密度の魔力塊。それは完全なる闇を形容し、ティアラへと迫った。

「これで俺たちの勝ちだ‼︎　ーーーーーあ？」

　しかし、それはティアラに届く事なく消失してしまった。

「なんでだ……？　魔力は十分だったはずだ……それなのになんで、どうして……⁉︎」
「ーーーーーあら、やっと魔法の効果が切れたようね。……いえ、思ったよりも早かったかしら。まぁいいわ、どちらにしろ今度はこちらのターンというわけね」

　ダークスは何事もなかったかのように楽しそうに微笑んだティアラの姿を目にし、恐怖のあまり腰を抜かしてその場にへたり込んだ。

「ーーーーーあ、あの！　降参です！　降参します⁉︎」

　小さく震えるダークスの前にルーチェが出て、そう力強く言った。

「……分かったわ。ならこの勝負は私の勝ちね。お父様、決着は着きましたわ。後の事はまたお話しますから。今はどうか……少しばかり……休ませて……くださ……い」

　そこでティアラは地面に倒れ込み、それから半月もの間、目を覚ますことはなかった。